研究調査報告


Living on the wedge: female control of paternity in a cooperatively polyandrous cichlid

邦題『(くさび)形に住む:一妻多夫の協同繁殖における雌の父性操作』



 血縁判定の手伝いをしていた関係から、筆頭著者のボス幸田に協同繁殖する魚の話を北大でしてもらったことがある。講演が終わり「まさかと思うけど、雌が父性を操作してたりして」と会場の受けをねらって冗談を飛ばした。すると、ボス幸田は「ボクは、本気でそう思ってるんや」と関西弁で真顔になって答えた。あれから8年。協同繁殖は研究にも及び、働き者で優秀なヘルパー安房田を得たボス幸田は、美事に秀逸な実験を成功させた。


 ちなみに、タイトルの“Living on the wedgeは、ロックバンドのエアロスミスの“Living on the edge”をもじったものです。おしゃれですね。


著者: Masanori KOHDA1, Dik HEG2, Yoshimi MAKINO1, Tomohiro TAKEYAMA1,3, Jun-ya SHIBATA1, Katsunori WATANABE3, Hiroyuki MUNEHARA4, Michio HORI3 and Satoshi AWATA1,4

1Animal Sociology, Department of Biology and Geosciences, Osaka City University

2Department of Behavioural Ecology, University of Bern (Switzerland)

3Animal Ecology, Kyoto University

4Usujiri Fisheries Station, Hokkaido University


出典: Proceedings of the Royal Society, Biological Sciences, Series B (2009) 276: 4207-4214



要約和訳

 一妻多夫型の協同繁殖する種では、雌は父性と生産する子の数を調整することによって、雄の繁殖成功度に影響を与え、グループの安定を計ることが出来る。雌の父性操作は、密かな雌の性淘汰(cryptic female choice;隠れた雌の配偶者選択とも訳される)や繁殖行動を通して実行されているが、実証研究は少ない。我々は岩の裂け目などくさび形をした巣を好む一妻多夫型協同繁殖魚のカワスズメ科魚類ジュリドクロミス・トランスクリプタスで、新しいタイプの雌の父性操作を見出した。くさび形の巣は、大きな雄(α雄)が奥まで入っていくことが出来ないため、卵を産む場所を雌が選択することで、他の小さな雄(β雄)にも受精機会を与え、卵塊の父性を操作することができる。β雄は巣の奥側に産みつけられた卵を受精し、α雄からの攻撃を逃れることができる。産卵後、β雄はα雄よりも頻繁に卵の保護を行う。父性操作により、両雄の保護を引き出し、雌は保護のコストを縮減できる。我々の知る限り、このように父性を操作し雄の保護を引き出す雌の繁殖行動は、体外受精種では初めての報告である。



【方法】

実験T. α雄と雌のペア、β雄と雌のペア、α雄とβ雄と雌のトリオ、3つの組み合わせを作り、Fig. 1(a)に図示した2種類(くさび形、箱型)の産卵巣を用意した水槽に入れ、それぞれの個体の巣の滞在時間を測った。また、雌が最終的にどちらの巣を選択するかを調べた。

実験U.  Fig. 1()に図示したくさび形の巣で、上記の3つの組み合わせで産卵させ、各個体の卵保護への投資を測った。また産みつけられた卵の位置をFig. 1()に図示した方法で記録し、トリオの卵の父性をマイクロサテライト遺伝マーカーで調べた。



Fig. 1. 実験水槽。(a)は産卵場所の選択性(実験T)を調べるための実験セット、(b)は父性操作実験を行った実験セット(実験U)、(c)実験はα雄とのペア(上)、β雄とのペア、α雄・β雄・雌トリオ(下)で行った。(d)巣に産みつけられた卵の模式図、クラッチの中央の巣の巾を産卵の度毎に測定。



【結果】



Fig. 2. 巣の選択性実験(実験T)。雌はペアで繁殖した場合、くさび形と箱型の巣のどちらも出入りし、どちらでも産卵した。一方、トリオで繁殖した場合、雌はほとんどの時間をくさび形の巣で過ごし、産卵もすべて(10/10例)くさび形の巣で起こった。α雄の巣の好みは、明確ではなかったが、β雄はトリオで繁殖する場合、くさび形の巣を好んだ。雌はトリオで繁殖する場合、父性操作が可能であるくさび形の巣を好むようである。






Fig. 3. 雌の父性操作実験(実験U)。卵が何所に産みつけられたかを記録しておき卵の父性を調べた。(a)卵塊の中心より奥に産みつけられた卵では、β雄の父性が高く、中心より手前の卵では、α雄の父性が高い。(b)卵塊がより奥に産みつけられるほど、β雄の父性が高く、α雄の父性は低くなる。






Fig. 4. 父性、配偶システムおよび卵保護(実験U)。(a)β雄はペアの時も保護し、トリオの時もα雄より保護するが、α雄はペアの時もあまり保護しない。雄の合計保護努力は、α雄だけしか繁殖しない場合に比べ、β雄の関与するトリオ、ペアで圧倒的に高い。(b)β雄の保護時間が長くなると、雌は保護から免れるようになる。





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