本当にあった恐〜い話 中圧ホース破断

文責:宗原

 臼尻実験所の談話室の書架には、表紙に『本当にあった恐〜い話』と書かれた1冊のファイルがある(写真1)。タイトルもさることながら、目につきやすい場所にあるためか、怪談好きの方ならずとも実験所を訪れた方の多くは、このファイルブックを一度は手にとる。そこには、作り話の怪談よりも、もっと恐い実験所で本当に発生したトラブルの顛末が詳細に書かれている。

 今回、迂闊にも恐い話を一つ増やしてしまった。それを紹介する。その前にこれまでに起きた『本当にあった恐〜い話』も語っておこう。


 

写真1. 実験所談話室の書架にある『本当にあった恐〜い話』

ファイル1

事故者:○△□子(匿名)

事故の内容:火災寸前

従事していた作業:チップの乾燥

発生日時:2005年 おそらく8

事故発生の経緯を要約すると、遺伝子実験に使うチップを滅菌するためオーブンに入れた際、プラスチック製であるにもかかわらず、ガラス製品と同じように200℃で行ったために、チップが容器もろとも溶けてオーブンのヒーターの上に落ちて異臭が発生した、とある。

(筆者)「異臭に気づくのが遅かったら、火事を出していたところだ。間一髪(*_*)


ファイル2

事故者:○△幹×(匿名)

事故の内容:悪天候で潜水作業し、エキジット時にフィンを波にさらわれる。

発生日時:2004年 おそらく10

事故発生の経緯を要約すると、海況が悪化しているにも拘わらず、潜水作業を始め、戻ってきた時は大荒れとなっていてエキジット時に外したフィンを大波にさらわれた。天気予報、潮汐を考えると、明らかに無理な潜水であったと反省の様子を示している。

(筆者)「フィンをあきらめたのは、せめてもの救い(^o^)


ファイル3

事故者:○村□×(匿名)

事故の内容:作業中に日没を迎える

発生日時:2003年 おそらく10月 500すぎ

事故発生の経緯を要約すると、その日2本目の潜水であったが、1本目終了後の標本処理作業に手間取り、潜水が午後3時以降にずれ込んだこと、次回にまわすべき作業であったが、決断できずに始めてしまい、終わった時には真っ暗になってしまったこと、とある。戻りが遅いのを心配し、所員全員で捜索した。9月から11月の間、毎日2本潜って標本を集め、陸に戻るとそれらの処理を時には明け方近くまで行うため潜水時間が遅れていったことが原因であると、事故者は分析しているが、

(筆者)「そもそも調査計画に無理があったのではなかろうか(-_-#)


ファイル4

事故者:木△□×(匿名)

事故の内容:水中でのエアー切れ および 急浮上に伴う減圧症の発症

発生日時:2005年 912日 午後130-300

事故発生の経緯を要約すると、水深20m地点で、いつもよりもハードな作業をしていたにも拘わらず、ゲージを気にすることなく、『勘』で残圧を量っていたところ、急にエアーが渋くなった。命の危機を感じ、その瞬間パニックになり、慌てて急浮上、陸に戻った後、両手にしびれを感じ、減圧症を自覚し、実験所の酸素を吸引する。翌日になっても症状が改善しないため、再圧治療のため病院に行く。病院では専門医がいないため、事故について説明し、この状況では、通常の2気圧の治療よりも高圧な3気圧135分の治療が必要であると主張する。3日目続け、減圧症の症状がなくなったので治療を終了する。

(筆者)「---------(絶句)-----------------------------------------(--;)


ファイル5

事故者:NS

事故の内容:BCの操作ミスによる急浮上

発生日時:20065月 1130

事故発生の経緯を要約すると、排気バルブと給気バルブのボタンを押し間違え、水深5mから急浮上したが、バディーに手を引かれ救われる。減圧症の症状は出なかった。ブランクがあったため操作ミスをした、とある。

(筆者)「ファイル4の後というだけで、小さなトラブルにみえるが、何事もなくよかった(v_v)


ファイル6

事故者:TY

事故の内容:給気バルブの故障による急浮上

発生日時:2007213日 午前950-1030

事故発生の経緯を要約すると、その日はいつもと違うドライスーツを着用したが、給気バルブに中圧ホースがうまくつながらずそのまま潜行、しかし、水深7mくらいで圧迫感を感じ、ホースをつなぎ給気すると急浮上、あっという間に水面に、排気が出来ず、スーツがどんどん膨らみ、バルブに手が届かなくなる。首からエアーを抜きながら、タンクが空になるのを待って、岸に戻る。幸い減圧症の症状は見られなかった、とある。

(筆者)「潜る前に機材の確認は、基本中の基本。特に普段使っていない機材は要注意!(_´)



(筆者)「以上が『本当にあった恐〜い話』のファイルだ。無謀が原因だったケースを含め、リスクを無視し、ケアを怠ったために招いた事故ばかりだ。リスクを普通に受け入れ、兆候を感じ取ろうとするだけで、多くのトラブルは未然に防ぐことができたはずだ。想定内の小さなトラブルも連鎖して発生すると焦り、とっさの対処ができなくなる。些細なリスクも甘く見てはいけない。

 2007年を最後に、恐い話のファイルが増えていない。しかし、振り返ってみると、ヒヤリとすることやハッとする出来事は近年も少なからずあった。ファイル4ほど大きなトラブルがなかったために、ファイルしなかっただけだ。今回を機に小さなトラブルも、自分が繰り返さないためだけでなく、後輩たちのためにもファイルする習慣をつけよう。」




ファイル7

事故者:宗原弘幸

事故の内容:中圧ホース破断

発生日時:20111028日 午前1100

事故の経緯:その日は、四年生のS氏とクジメの親子DNA試料採集のため、エントリースロープ前の水深1?3mのエリアを潜水していた。採集が重複しないように少し離れて作業にあたっていた。40分くらい経ち、水深2m弱くらいのところで、その日3つ目のクジメのなわばりを見つけ、親魚のフィンクリップを終えたところで、トラブルが発生した。水面近くに浮かびながら、カットしたフィンをユニパックに入れていた。その時、「バーン!」という大きな乾いた破裂音が背中の方から鳴った。と同時に「ジュワー」という音を伴って、ものすごい勢いで空気が噴出した。周りはみるみる泡だらけになった。急ぎ水面に浮かび、レギからシュノーケルに咥え直し、少し落ち着くことができたが、後ろから聞こえてくる「ジュワー」という音を止めることが出来ず、ユニットを外すため、岸に戻ることにした。岸に辿り着くまでの間は、レギが吹っ飛びタンクが爆発しやしないかと、恐ろしかった。やっとの思いで岸に戻り、ユニットを外し、タンクのバルブを閉め、ファーストステージに接続する金属部品のところで中圧ホースが破断したことを確認した(写真2)。

事故発生の要因:いつの頃からか、中圧ホースには、金属部分のところから急角度で曲がらないように保護チューブが被せられるようになった。今回使用していたレギも、3年前に購入した比較的新しく、保護チューブが取り付けられていた。もちろんホースも耐用年数以内と考えられ、劣化も進んでいないはずだ。なのに、破断した。原因は何なのか。

  中圧ホースは潜水中、ダイバーの頭部を常に半周している。この曲線がホース全体で弧をなしていれば、使用中はどこにも無理がかからない。柔軟であることが中圧ホースには必要で、長らく使い硬直してきたら、新しいホースと換え時だ。しかし、それが仇となることもある。柔軟すぎると、金属部品との接合部分できつい弧を描いて曲がることになり、ホースに無理がかかる。そうならないように、保護チューブが開発されたのだろう。金属部分をすっぽり覆う保護チューブを被せることで、接合部分にかかる曲がりの力を分散させることができる。

  今回のトラブルの原因は、保護チューブが金属部分をカバーし根元までしっかり嵌っていなかったことだ。金属部分と保護チューブの間で露出していた部分に、限度を超えた曲がりの力がかかり、破断したのだろう。チューブがカバーされているか、潜水前にチェックすべきだった。が、思えば、そのようなことは一度としてしたことがなかった。安全目的で普及したモノであったが、その使い方を正しく理解していなかった。むしろ破断のリスクを高めていたようだ。

  中圧ホースの破断は、2回目の経験である。前回の時は、保護チューブがついていなかった。破断箇所以外にもひび割れが数箇所あったので、明らかに柔軟性を失った古いホースだったことが原因だ。その時の破断は、潜水前であった。深場を潜っていた時に破断したら、うまく対処できるだろうか、、、(¨;)

事故後の対応:チェックを心掛けるようにした。


  

写真2. 破断した中圧ホースと本来そこに被せて使う保護チューブ。矢印が破断箇所。




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