マイナー生物の世界へようこそ 〜ツマグロカジカとアイカジカの臼尻物語〜
文責:山崎
ツマグロカジカにアイカジカ。皆さんは一度でもこの名前を聞いたことがあるだろうか?
講座の人たちは知っていて当然だが(今さら知らないなんて言わないで!),十中八九知らない人の方が多いだろう。
私もツマグロカジカ属魚類については研究を始めるまで,その存在すら知らなかったのだから。
今回はぜひともツマグロカジカとアイカジカについて理解を深めてもらえるようお伝えしたいと思う。
まず,ツマグロカジカ属Gymnocanthusはカジカ科に属する魚類の中でも非常に原始的なグループに分類される。
現在は6種が含まれており,うち当実験所付近に生息するのがツマグロカジカとアイカジカの2種である。ちなみに,日本には5種が生息,残りの1種は北極海と大西洋に分布している。北半球高緯度域全体に生息する本属は,カジカ科の中で最も広い分布域を持つ,グローバル化に熱心に取り組んだグループだ。

左がツマグロカジカ,右がアイカジカの稚魚(6月)。両方とも体サイズは1〜2cmほど。
この2種は,4月終わりごろから砂地に着底し,同じ群れの中で生活するようだ。
上の写真をよくよく観察すれば,両種の見た目が何となく違うことがお分かりになるだろう。模様が細かいのがツマグロ,茶色い色素がはっきりしているのがアイカジカだ。
昨年は全く見分けがつかなかったのだが,彼らに出会うのが2度目となった今年は水中でもしっかりと見分けがつくようになった。ここで私流の「ダイビング中のツマグロとアイカジカの見分け方」を紹介しよう!
・スマートでちょっと透明な感じのする方がツマグロカジカ。
・白っぽくて茶色の色素がはっきりしていて,ピッコロのような皮弁がついていて,さらに目が大きくて可愛いと思えるのがアイカジカ。
※眼上皮弁は成長しないと出てこないので,皮弁がない時期は体色等で見分けましょう。
※顕微鏡下ではアイカジカの肌の方ががたまご肌。ピンセットでつまみにくく,顔は可愛いのにイライラさせられるので要注意です。
この知識があれば,北海道での5-8月のダイビングがより楽しくなるはず。
ちなみに,下の写真がだいぶ成長したアイカジカ幼魚。模様がかなりはっきりしてきた。これでも体サイズは3cm程だ(8月)。
何とも地味な模様だが,これでも立派に砂を真似た模様。それにしても,お隣のベロ(カジカ科)のように可愛くなろうと思ったことはないのだろうか…。それにしてもベロの黄金色の色素はとても美しい。


続きまして,下がそれぞれの成魚。左がツマグロ(釣り),右がアイカジカ。


ツマグロカジカは体長3cmごろから深場に移動し,ダイビングでは観察できなくなってしまうため,それ以降の生活様式は想像しか出来ない。それでも水深60mの臼尻沖へ出かけるとツマグロカジカが釣れるのだから,臼尻付近にはちゃんと生息している。
一方でアイカジカはというと,ツマグロカジカと別れる頃から一人で生きていくべく,砂に潜る技術を磨くことに専念するようだ。胸鰭を広げて,尾びれを3回ほどゆっくり左右に振りながら潜っていく。そして何故か鼻先に砂を付ける。
「私は砂です」とでも言いたげだ(右写真)。
これが一段落すると,今度は目だけを砂から出して,眼上皮弁をピンとアンテナのように立てて餌を探し,敵または私が近付くと一目散に逃げていく…待ってよ!写真だけだから!
臼尻では,9〜10月の高水温期には北の魚たちは暑さに耐えきれず,こぞって深場の避暑地へと涼みに行くのだが,水温が下がった最近は再び姿を見せ始め,繁殖の準備を始めている。
残念ながら,臼尻浅海に生息するアイカジカですら,その繁殖現場を目撃したのは当実験所ボスの1度きり。卵保護をしていたそうだが,卒業するまでにぜひこの目で見てみたいものだ。未知な部分が多いのも,マイナーな魚の醍醐味だ。卒業するまでに,幾つこの魚の謎を解くことができるのだろう?
以上がツマグロカジカとアイカジカの紹介だが,2種の生態+主観的な形態についてお分かりいただけただろうか。カジカの中では確実にマイナーな種類ではあるが,この実験所ではこんなにも魅力的で可愛らしい魚を研究している人がいるんだなと思って頂ければ幸いだ。