調査研究報告31

-受験生必読- 日本産のメダカたちと早押し問題
                                                                               宗原弘幸

 初版本が出てから21年。改訂版の噂がささやかれてから数年。『日本産魚類検索 第三版』がようやく出版された。改訂版が待望されるのは、分類体系が変わることの他、次々と新しい種が見つかるためだ。ここでいう「新しい種」とは、世界で初めて見つかった文字通り「新種」のほか、日本以外では知られていたが、初めて日本でも生息が確認された「初記録種」、それまで同種と思われていた同所的集団に生殖隔離があると分かって識別された「隠蔽種」なども含まれる。新種のキマダラヤセカジカ、ラウスカジカ、ヒメフタスジカジカ、初記録のヤセカジカや再発見されて初めて標準和名が付けられたウスジリカジカも第三版で初掲載となった。本ホームページで生態をすでに紹介してきたこれらのカジカたちも、最新の図鑑でなければ載っていない「新しい種」なのだ。

 メダカ科のページを開いた。今回研究成果を報告する論文のためだ。メダカは日本には、1種しかいないとされていたが、2012年に青森県から新潟県までに分布する北日本集団と奥羽山脈をはさんで岩手県以南に分布する南日本集団が別種であるする論文が出されていたからだ。第三版ではどんな扱いになったかを知りたかった。

 この2つの集団が遺伝的に異なることは、初版でも紹介されていた。第三版では、ついに2つの種として扱われることとなった。南日本集団が従来の学名であるOrzyias latipes (Temminck and Schlegel, 1846)で、標準和名がミナミメダカとなった。北日本集団は、メダカの性決定遺伝子の発見やメダカの集団遺伝学など今回の発見でも大きく貢献されたメダカ研究の第一人者の酒泉満先生に献名され、Oryzias sakaizumii Asai, Senou and Hosoya, 2012(2011)、標準和名がキタノメダカとなった。

 的を射たネーミングではあるが、紛らわしい場合もある。これまでは、キタノとくれば、ホッケと続くのが定番だったが、そうとは限らなくなるからじゃ。大学院入試などの早押し問題で出題されても、「キタノ」と聞いて、喜び勇んで目の前の回答ボタンをポンと押さないことだ。それは引っかけ問題かも知れぬ。受験生は、とにかくあわてないこと。早押し問題は、回答者の「心」と「知」の調和を問うておるのだ。

 ともかくとして、今回、報告する論文は、第三版の出版前に掲載が決まっていたが、研究材料の採集地から判断して、Oryzias latipesミナミメダカで間違いない。ひとまず、安心。

 メダカの理解が深まったところで、その前のページも見た。すると、驚くべき種が載っていた。コクチモーリーにスリコギモーリー、さらに前のページには、ソードテール、カダヤシ、グッピーが出ていた。いずれも外来魚であるが、後ろの2種を除く3種は、第三版になって新登場した。雑種起源の全雌2倍体クローン生物、*アマゾンモーリーの母種であるPoecilia mexicana がスリコギモーリーという標準和名が付けられ、日本の自然水域に悠々と溶け込んでいるとは、露程も知らなかった。

 初版では日本産魚類として、約3,600種が掲載され、第二版では258種、第三版ではさらに317種が追加されている。これらの中には、先のメダカのように遺伝学的な手法により大きく分化した集団の存在が分かり、形態を見直すことで別種と判断されて、新たに加わった種もいる。一方で、こうした残念な「初記録種」が増えていることも現実だ。

 ここまで読んだ受験生諸君は、「外来魚は、スリコギモーリー、キタノメダカ、キタノホッケの3種の内どれか」という早押し問題なら、速攻で回答ボタンが押せるはずだ。さすれば、早さが歓喜と残念な結果の分かれ道となることは火を見るより明らか。反応速度ゼロコンマ1秒以内を目標に、ボタンの早押し練習も抜かりなくやっておく。「心」と「知」の調和に加えて、「術」も鍛えること。これが、万事成功の極意じゃ。

*アマゾンモーリーはメキシコと米国南部に分布し、アマゾン川には生息しない。ギリシャ神話に出てくる女部族のアマゾネスに因んでHubbs先生が付けた英名である。また学名がPoecilia formosa と付けられているが、近縁種の雄に依存して繁殖する全雌クローン生物は、命名規約では、独立した学名は付けられない。Poecilia mexicana-latipinna と母種と父種の種小名がハイフォンでつながれて表記するのが本来であるが、繁殖様式が分かる前に命名された。)

Two patterns of parasitic male mating behaviors and their reproductive success in Japanese Medaka, Oryzias latipes

(邦題:メダカ雄の2パターンある寄生的繁殖行動とそれらの繁殖成功度)

Yasunori Koya, Yukai Koike, Rie Onchi and Hiroyuki Munehara

Zoological Science 30: 76-82 (2013)

【要約】

 ミナミメダカの繁殖の際に、1個体の雌に対してペア外の雄が参加する寄生的繁殖行動に2つのパターンがあることを水槽内で観察した。ひとつは、ペア産卵中の雌雄にラッシュして、ペア雄と同時に放精する『同時放精』。もうひとつは、ペアが産卵して数秒後に生殖口に卵をぶら下げている状態のなった時に放精する『産卵後放精』である。102回の実験で、『同時放精』が20回(19.6%)、『産卵後放精』が18回(17.7%)観察された。また、父性分析による繁殖成功度は、それぞれ41%と20%であった。『同時放精』のペア外の寄生雄の繁殖成功度は、2個体の雄の繁殖行動のタイミングや時間に相関はなかったが、『産卵後放精』では、ペア雄が雌に寄り添っている時間が長いほど、ペア外雄の繁殖成功度は低かった。同じ雄を繰り返し使った実験では、決まった雄がいつもペア雄になる傾向があった。しかしながら、両者が入れ替わることもあり、決まった繁殖戦術を採るわけではないことが示された。

1.2パターンのメダカ雄の寄生的繁殖行動図中の白抜きのメダカは雌、薄いグレーがペア雄、濃いグレーが寄生雄を示す。(A)同時放精.1: ペアに近づく寄生雄、2: 定位した寄生雄、3: ペア雄の反対側から放精する寄生雄。(B)産卵後放精.1: 産卵中のペア、2: 放精後雌から離れるペア雄、3: 雌に近づく寄生雄、4: 定位した寄生雄、5: 雌に密着して放精する寄生雄

1.実験に使ったプライマーの特徴

2.ペア雄(PM)と同時放精した寄生雄(SE)の体サイズ、及び各回の繁殖成功度などSEの変数.

3. ペア雄(PM)と産卵後放精による寄生雄(PE)の体サイズ、及び各回の繁殖成功度などSEの変数.

2.産卵後放精の繁殖成功度とペア雄の抱接時間との関係(A)およびペア雄の抱接の始まりから寄生雄の放精までの時間との関係(B).

4.2個体の同じ雄を使った繰り返し産卵実験.(いつも決まった雄がペア雄になることが多いが、時々入れ替わる)


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