The last long cruise of T/S Oshoro-maru
〜おしょろ丸第255次航海 北極海〜
文責:山崎
北緯71度30分、東経169度20分。
今回のおしょろ丸の北洋航海で記録した最北端の位置だ。
船の周りにはたくさんの海氷。気温も水温ももちろんマイナス。

北海道に7年も居ながら一度も流氷を見に行ったことがなかった私は、北極海に浮かぶ海氷を見て感動した…と思いきや、
ああ、あれが海氷か、意外にちっちゃいんだな〜、程度の感想しか出てこなかった。
それもそのはず、初めて海氷を見たのはちょうどトロールでの採集調査の真っ最中で、それどころではなかったからだ。
そう、今回私がおしょろ丸の北洋航海に乗船した目的は、北極海に生息するカジカたちを採集するためだった。
本航海の航路は、
北海道(6/14出港)→ベーリング海→(ダッチハーバー寄港)→北極海→(ダッチハーバー寄港)→アリューシャン列島沿い→北海道(8/6帰港)
であり、日程も北極海で3週間もの日数が組まれた、まさに北極海を調査するための航海であった。
6月14日におしょろ丸の出港を見送り、沖縄での学会に参加した後(先月号のリンクを貼って下さい)、飛行機で独りダッチハーバーへ向かった。
おしょろ丸の出港式(右:平譯先生撮影)。
飛行機でダッチハーバーへ行くには、アメリカ国内で2回乗り換えなければならない。
最初にロサンゼルス(大半はシアトル)、次にアンカレッジで最後にダッチハーバーに到着となるのだが、最後のアンカレッジ — ダッチハーバー間が一番厳しい。
セスナ機のためガスっていると着地できないこともあり、まぁぶっちゃけ運任せである。
ちょうど私が出発した日は天気も良い時だったようで、遅延も欠航もなく無事にダッチハーバーへ到着した。

搭乗したセスナ機。20人程しか乗れない。離陸前に渡されたガム(と思ってた)の袋を開けると、出てきたのは耳栓だった…。さらに、飛行機の中は温かい、という概念を気持ちいい程に覆してくれた。

ダッチハーバーの風景(6/29)。到着してからおしょろ丸に荷物を積み込みに行く道中。建物は臼尻以上に少なく、おまけにいい天気!でもダウンは必要。
7月1日、ついにダッチハーバーから北極海へ向けて出港した。
北極海での調査項目は今までにないくらい盛りだくさんで、1つの観測点で20もの項目が組まれていたこともあった。
私のメインの調査であるトロール(底曳網)は全部で14回、ベーリング海から北極海の、様々な特徴を持つ地点で行われた。
トロールで採集される生物のうち、目当てはカジカ科全般とホッキョクダラ。活かしたまま捕獲し、水槽で飼育して実験するため、水揚げしてから素早く海水をはったバケツに入れなければならない。
もちろん、カジカ、ホッキョクダラなんて見たこともなければ知らない学生もいるので、こんな魚を見つけたらバケツに入れて!と事前に写真付きで説明していたのだが、現場に行くと生きているものを何でも渡してくるので、魚だけじゃなく小さなヒトデやらカニやらのミニ水族館が出来上がってしまった…。

トロールで採集されたホッキョクダラとシベリアツマグロカジカの飼育個体。飼育中、お腹をすかせたホッキョクダラが小さなシベリアツマグロカジカを口に入れるという、非常にショッキングな出来事に遭遇した。食べられそうになったカジカは瞬時にほっぺたのトゲを張り、無事に吐き出された。
トロールを行う前にはROVというカメラ付きのロボットを入れて海中の様子を確認するのだが、底にいる生物の優占種が何であるかで、トロールで獲れる生物の仕分け作業の難易度がある程度予想される。
あぁー、今日はカニ地獄か…
など、その地点での成果を予想しては一喜一憂していた。

ROVを操作する山本潤先生(関口さん撮影)。華麗なラジコン操作で、画面に酔うこともなかった。

予想通りの、絶望感漂うカニ地獄。この中から活きたカジカを探すのも結構骨が折れる。北極海の生物の体サイズは小さい。写真のカニはズワイガニ。夕食には大量の唐揚げが巨大なボウルに入って出てきた。美味しかったが、ツメが刺さって痛かった…(関口さん撮影)。

トロール担当の学生と手伝いとしてかり出される学生たちは写真のような場所(ウィンチルーム横)で投網から揚網まで待機・見学する。初回はほぼ全員が手伝いにきてくれたが…(阿部さん撮影)

最後の方には寒いのと(外での待ち時間は40分程)、かなりの重労働で疲れるのと、汚れてしまうため、残念ながら嫌厭されてしまった。最後の方は魚類チーム(北洋研)とクジラチーム(宮下研)の6人程で作業を行っていた(藤田さん撮影)。

網のコッドエンドから採集された生物を出している様子(関口さん撮影)。危険と隣り合わせのトロールは船員さん総出で実施される程のビッグイベント。マヒトデやニチリンヒトデの仲間がたくさん獲れた地点。

採集された生物は大まかな分類群ごとに個体数を計数し、重量を測定する。このうち、数の少ないものや計測し忘れたものは船の中の第3研究室に持ち帰り別個に計数、測定する(阿部さん撮影)。先ほどのカニ地獄、是非全個体を計数することを想像してほしい…。

トロールで採集された生物は必要な分だけ採取し、不必要な分は捨てられたり、ツブやエビなど美味しいものは船員さんのおつまみになってしまう。そんな中、学生側がタラバガニをゲットした。本当にタラバガニか確認するために図鑑を開いた。すると、あろう事か、タラバガニの廉価版:アブラガニだった…。それでもレンチンして食べるとそれなりに美味しかった。蟹味噌はとても不味かった。
ここまでずっとトロールの話ばかりだったが、船の上ではもちろん他の観測も手伝う。
私が手伝ったのは稚魚ネット、ボンゴネット、フレームトロール、鯨目視。ネット類はトロールがある地点では必ず組み込まれるため、その日1日の労働時間はとてつもなく長くなる。一番強烈だったのが、トロール3回、ボンゴ2回、稚魚ネット1回だ。加えて飼育している魚の世話もある。寝る暇なんてなかった。
また、この期間はほとんど毎日朝2〜4時にソーティング(仕分け)が終わり、すぐに休めばいいものを、ついつい誘われてアルコールを摂取してしまった。6時から2時間程寝て、翌日8時からトロールに出る、というのは当然ながら毎日続くとかなり堪える。言わずもがな、最後の方はみんな生気のない、死にそうな顔をしていた…。

稚魚ネット曳網中。稚魚は夜暗くなる少し前に表層に浮上しプランクトンなどを摂餌する。このため、稚魚を採集するこの稚魚ネットは日没後1時間後を目安に行われる。しかし、ここは北極海。白夜が存在するこの海域では夜1時をすぎても暗くなることはなかった…。仕方なく、12時頃に明るい状態で曳いてみたが、意外にも稚魚が獲れた。白夜は夏のみと短い期間だけであるため、稚魚の日周性は体内時計等で維持されるのだろうか…。

ボンゴネットの様子(藤田さん撮影)。このネットで狙う生物は主にプランクトンであり、ついでに採集される稚魚を分けてもらっている。担当はプランクトン講座。

最後の仕事:稚魚ネットのソーティングが終わった時の北洋研メンバーの記念写真(河野カメラ)。他の人たちは既に観測が終わった後で飲み会中。そして翌日は待ちに待ったダッチハーバー入港!さあ、私たちもたらふく飲むぞー!と言ったところ。

今回私は手伝うことはなかったが、実習でも行われるCTDの様子(左:阿部さん撮影、右:藤田さん撮影)。それぞれ設定した深度でボトルの蓋が開き、海水を採水する仕組みになっている。

海氷の採集も行った。手頃な大きさの海氷に近づき、大きなネットを沈めて氷を水揚げする(阿部さん撮影)。失敗のできないUFOキャッチャーのよう。北極海の海氷はしょっぱかった。ロックには向かなさそうだ。お土産に北極海の海氷をたくさんもらってきたが、お酒を冷やすくらいしか使い道はないのか…!?ちなみに、お土産用の海氷はロシア側から流れてきた海氷なので、何が含まれているか分からないため食用禁止令が出されている。

宮下研の三谷先生が行った“クジラボート”。ホッキョククジラに衛星発信器を取り付け、行動を追跡する、というもの。クジラの発見と同時にゾディアックを走らせ、ボーガンを撃って発信器を付ける。安全のため船員さんたちも数名、おしょろ丸2号(救命艇)に乗って後ろに付いて行くのだが、高速で移動するゾディアックには引き離される一方だった(左:阿部さん撮影、右:関口さん撮影)。

クジラボート終了後に調査員全員で撮った集合写真。北極での調査中、最も調査員の人数が多かったレグであり、賑やかでとても楽しかった(藤田さん撮影)。
以上が航海中の様子であるが、北極海での調査が終了した後のダッチハーバー寄港中に、せっかくの機会なので、おしょろ丸に航海士として乗船されている拓三さんに協力してもらって、潜水でカジカを採集してきた。
潜った地点はキャプテン湾の湾口(Little South America)と湾奥部。初日はハゲカジカ採集を目的に、比較的浅い砂地の湾奥部で潜水した。

エントリーポイント
準備して、いざエントリー。何となく嫌な予感はしていたのだが、潜ってみると…
真っ赤で何も見えない。上を見ても真っ赤…。
おしょろ丸をおりる時に、何だか海が赤っぽく見えると思ったのだ。すり身工場が近くにたくさんあるからだろう、富栄養化が進み、赤潮が発生。レギュレーターから入ってくる空気も何だか魚臭い…。うえー。
それでも、何も見えないのは2m程までで、それ以降は急にスカーっと視界が開けた。
と思ったのもつかの間、7mになると真っ暗で何も見えない…。
そんな中でもハゲカジカを見つけ、
手網で捕まえようと試みる
↓
ダッシュで逃げられる
↓
横を見ると、何故か拓三さんのサンプル瓶に入っている…
水深9m程までくるとナイトダイブでもしてるんじゃないかと思う程、本当に真っ暗になった。
スガモの草原を抜けて開けたところに行き、ごそごそと腰から取り出したのは…
“スクリーンネット”!
小型の刺網のようなネットで、横幅は2〜3m程。近くにやってきたハゲカジカを追い立ててはスクリーンネットに絡ませる。5匹くらいかかったところで網から外し、サンプル瓶に移していたのだが、立派なトゲが見事に絡まるため1匹外すのに結構時間がかかる。
そうこうしているうちに、何もしていないのに新たに絡まるハゲカジカやらカレイやら…しまいにはコマイまで絡まった。まるで漁師だ。
結局1ダイブで漁獲したハゲカジカは10匹。午後も近くのポイントで潜り、同じ位のハゲカジカを捕まえてミッション終了。

左:表層で見つけたクラゲ 中央:ギスカジカ属sp 右:ハゲカジカ
2日目はキャプテン湾の入り口にある、地元でも有名なLittle South Americaというポイントで潜った。ここでは色んなカジカを採集した。

Little South Americaの景観。上から見ると地形が南アメリカに似ていることからこの名前がついたそう。
できればカジカの中のアイドル:クチバシカジカを見つけたかったのだが、15m以深には行かないように、との宗原先生の忠告もあり、13m程度をうろうろしていたのだが、発見できず断念。
ここではギスカジカ属、オニカジカ、ヨコスジカジカ属、オコゼカジカ属などが獲れた。
このポイントは大きな岩場で、オーバーハングした岩もあり、1m近くにまで成長したヒダベリイソギンチャクが繁茂していたのが印象的だった。もちろん、その根元にはヨコスジカジカの仲間(red Irishroad)がひっそりと隠れている。

ヨコスジカジカ属sp
長くなってしまったが、以上が本航海での仕事内容となる。
北洋研の桜井先生に頼まれていたホッキョクダラも無事に活かしたまま持ち帰ることができ、一学生である私に席を譲って下さった恩が少しは返せただろうか。
あちこちに調査に出たがる私の行動をいつも寛大な心で許して下さる宗原先生、貴重な機会を与えて下さった桜井先生、乗船中に北洋研メンバーを監督して下さった綿貫先生をはじめお世話になった先生方、研究者、乗組員の方々にお礼申し上げます。
また、長い航海をともに過ごした学生たちにも感謝です。
本当にありがとうございました。
今回得られた結果を少しでも良い論文に発表できるよう、尽力しなければ!