【特集3「受け継ぐ」―総合大学の強み―】

北海道ワイン教育研究センター


旧昆虫学及養蚕学教室(1901年建設)。オリジナルの建設部位を可能な限り残
した改修工事を行い、北海道ワイン教育研究センター棟として生まれ変わる。


北海道を真のワイン銘醸地へ

北海道のワインを巡る多面的な教育研究を行う拠点として
2022年4月に新設された北海道ワイン教育研究センター。
地域とともに歩み、ワインを核とした幅広い産業の発展、地域経済の活性化を目指す。



 北海道におけるワイン生産の歴史は、札幌農学校開校の1876年に設立された開拓使葡萄酒醸造所から始まった。この歴史は戦前に一度途絶えるが、十勝の池田町で再スタートし、1960年代に十勝ワインが生まれた。それから約60年、富良野や函館、七飯、小樽など道内各地に数多くのワイナリーが作られ、北海道のワイン産業は大きく発展してきた。

 その一方で、北海道の厳しい冬は生産者達を常に悩ませ、収穫量の伸び悩みなど、現在でも課題は多い。ブドウの栽培から醸造、マーケティングに至るまでの過程で改善すべき点はまだまだ残されている。

 こうした状況を踏まえ、北海道ではワイン生産などに携わる方を対象として、2015年から「北海道ワイン塾」、その後名称を変更し「北海道ワインアカデミー」(2016年〜)という研修事業を開催しており、本学の研究者らが講師として参加してきた。この事業が、ワインの生産地と地域の大学が連携し、教育や研究を通してワイン産業の発展を目指す1つのきっかけになったのだ。


総合大学ならではの分野融合拠点を形成

 2021年4月、株式会社ニトリホールディングスや生活協同組合コープさっぽろなどからの寄附を受け、寄附講座「北海道ワインのヌーヴェルヴァーグ研究室」が設置された。曾根輝雄教授(農学研究院応用分子微生物学研究室を兼任)を中心とし、専任の佐藤朋之特任准教授、他機関から招聘されたワイン専門家らをメンバーとしている。



  大学院共通科目「北海道サステイナブルワイン学」
  の講義で行われたテイスティング(2021.12月)。
  ワインを注いでいるのが曾根教授。
  知識だけではなく感覚とあわせた体験が重要だという。

 この講座で曾根教授が特に力を注いだ取り組みの1つが、2021年度後期に全大学院生を対象に開講した「北海道サステイナブルワイン学」である。学内外の複数の講師によるオムニバス形式で、ブドウの栽培からマーケティングまで、ワインのテイスティングも交えながら講義が行われた。「様々な専門性をもつ大学院生らが、ワインと自らの研究との関連を見出す機会になったり、あるいは、将来的にはサポーターとして北海道のワインを国内外に広めてくれたら」と、曾根教授が期待を込めるこの講義には、予想を上回る60名以上の大学院生が参加した。

 力を注いだもう1つの取り組みが「北海道ワインシンポシオン」(2022年2月15〜16日)。道内外の大学・研究機関などの研究者や学生のほか、ワイナリー関係者、高校生など様々な立場の方が一堂に会し、「持続可能性= サステイナビリティ」をキーワードとして北海道のワイン産業発展の道を探った。

 そして、この寄附講座「北海道ワインのヌーヴェルヴァーグ研究室」が中心となり、ワインを核とした総合的な教育研究を進める拠点として2022年4月に開設されたのが「北海道ワイン教育研究センター」である。この拠点には、気象学、土壌学、栽培学、醸造学、農業工学などの自然科学分野から、教育学、経済学、人文地理学、マーケティング学といった社会科学分野まで、実に多様な人材が集っている。「総合大学の強みを活かし、幅広い分野にまたがる大型のプロジェクトを進めていきたいです」と曾根教授。学際的で先進的なワイン研究の展開を目指している。

 また、センターの開設と同時に「北海道- ワインプラットフォーム」が発足。北海道や道内研究機関とともに道内ワイナリーなどを支援する相談窓口として機能している。「このプラットフォームを通して北海道のワイン産業が抱える課題を洗い出し、ゆくゆくは、このプラットフォームが資金集めや様々なサービスを提供できるような機関へと成長することを期待しています」と、曾根教授は語る。


ワイン産業の持続的な発展に向けて


  「HOKKAIDO WINE VALLEY」キックオフ
  ミーティング(2022.4月)で、ワイン産業
  の未来を語る鈴木直道北海道知事と寳金清博
  北海道大学総長。

 現在は農学部の建物の一室で活動している北海道ワイン教育研究センターだが、2023年4月からは、農学部前に広がるエルムの森内の「旧昆虫学及養蚕学教室」への移転を予定している。札幌キャンパスに現存する最古の建物教室を保存改修し、北海道ワイン教育研究センター棟として活用する計画だ。北海道産ワインの研究やプロモーション、人材育成の拠点とし、ワインの熟成庫を設け、さらにはワインを楽しめるカフェを併設し、市民や学生、生産者や研究者らが日常的に語り合う空間を作り出す。この空間が北海道ワインツーリズムの出発点となり、道内のワイン産地を巡るという好循環が生まれ、北海道経済の活性化につながることが期待される。

 本学が長い歴史の中で培ってきた叡智を結集しつつ、地域の協力・連携の輪を広げながら、北海道が世界に通用する競争力をもつワイン産地となるよう、オール北海道での挑戦は始まったばかりだ。



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