平成11年から毎年,各学期の授業のおしまいに,授業アンケートをとっています。学生と教師が協力して授業をよくしていくことが最大の目的です。先生方の授業を,授業の受け手であるみなさんが評価することです。だがしかし,授業アンケートをするたびに,こんな声もきこえます。 |
まあ,聞いてください 「学生が先生を評価できるはずがない」だから<学生による授業評価>としないで<授業アンケート>としたのは,その理由かな?アンケート項目は15項目,それに最後に加える2項目は学生自身の出席状況,発言などで授業に積極的に参加したかを尋ねています。だが,全ての項目に4ばかりとか,1ばかりとかの評点をつけている学生がいることも事実です。「不真面目な回答が多く信用できない」「学生の一方的言い分のみが前面にでる」「あまり勉強していない学生に評価をうけるのか」「基本的知識のない学生にとって,講義がむずかしいのはあたりまえ」「評価の前に,評価をするのにふさわしい人物であることを学生は自己評価をしてから,先生の授業を評価するべきだ」 授業アンケートが始まった平成5年と6年には,<あなたの授業への取り組みについての自己評価>として9問の設問に答え,最後に「私は,授業への出席状況,取り組みから考えて,この科目の授業を正当に評価できると思う」という設問に答え,心構えの出来たところで,授業について評価する仕組みでした。 教師側からみるとどれもが納得できる意見です。 しかし,このようなアンケートは,学生と教師との相互信頼で成り立ちます。平成11年からのアンケートは,学生を信頼するという姿勢で,最初から授業について尋ねています。最後の自己評価風の2問は,授業についての回答を解析するデータを得るためです。 結果はさまざまに利用されています 昨年の調査では,約1,500人の教員が1,000科目以上に対応しています。対応した学生によるアンケート回答数は,延べ40,000です。それぞれ17項目の設問,それに各教員のアンケートとなると,70万近いデータを扱うことになります。これらの相互関係もとなると,ほぼ150万近いデータの分析となります。膨大なデータの処理はコンピュータの世界ですね。しかし,解析は私たちが行っています。 結果は,つぎのようにさまざまに利用されています。 教員へのフィードバック まず,データは各科目で集計,そして全学教育科目,専門教育科目,クラスサイズ,講義か演習か,必修か選択かなどで全学および各学部ごとに集計します。これらの結果は,その授業に対する自由意見もそえて各教員に返されます。各先生方はこれをみて自分の授業をよくしていきます。 授業アンケートを毎年行って,変化をみたい。設問は前年と同じです。結果は,1年間に比べますと,ほとんどの項目で改善がみられました。1年しか違わないのに,改善があるということは,このアンケートを実施している立場からみると,うれしことです。 大学全体の授業をよくすることは,個々の授業を改善することから生まれます。 みなさんの意見をまとめると,授業法の立派な教科書となります 各教員にとって,その授業への自由意見は大いに参考になります。その授業がよかったという意見をもらうと,先生はやる気がさらに起きますね。だが,ときには率直な意見で,何だと反発してしまうことも少なくありません。とくに紳士的な言い方でない放言もあり,強い反発となります。しかし,冷静になると,そんな意見こそ授業改善の方向がみえます。素直に反応したいですし,結果が改善していたことは,多くの教員が,このアンケートを真摯に受け止めたことを表しています。 自由意見では,プラス意見は勧められる授業法,マイナス意見は改善への意見。いずれにせよ整理すると,学生の提案する授業改善法のテキストがでてきます。 これは,データとともに大学の報告書にまとめました。また,大学の教育改革を先導する雑誌として全国的に引用されている北大で刊行のジャーナルにも「学生アンケートによる授業改善の提案,とくに講義の改善と学生参加型授業」という記事で出版しています。また,授業法改善として,高等教育機能開発総合センターのホームページにのせ,先生方がいつでも利用できる形にしました。ここでは,学生から,教員からと,授業法についての議論がネットワーク上で展開されることを期待しています。 大学では,教育は先生から学生への一方通行のみではありません。私たちは,学生諸君からも多くを学びます。授業というのは,双方でよくしていくものです。学生からの意見は,授業改善への一歩前進へ結びつきます。 |
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授業評価のランキング アメリカの大学では,授業評価の結果から,その年のベスト・ティーチャーを決め,賞を出しているところが少なくありません。いわば学生が選んだ最優秀教員賞です。大変名誉なこととなっているようです。 北大の授業アンケートでは,総合点による総合的な評価もし,点数でランキングが可能なようにしてあります。同じ教員の,同じ授業であれば,点が良くなったというハことは,授業がよくなったと結論できます。 しかし,授業が違えば,数値のみで優劣をきめるのは問題があることが明らかになりました。不可能といえます。また,多くの教員はいくつもの授業を担当しているでしょう。このアンケートでは,そのうちの一つを選んで評価を受け,授業改善の参考にするものです。授業の評価であり,人物評価とするためには,全ての科目で評価をとる必要があるでしょう。 授業評価は,授業の種類,選択・必修,講義・演習などで異なります。ここでの比較は,彫刻家の彫刻と,画家の絵をみて,どちらの人物が優れているかを判定するようなものです。選択科目,少人数の演習は評価には有利です。一方,必修の理系基礎科目,専門科目は評価がひくくでます。だから数値のみで,最優秀教員をきめることはできません。だが,40名程度の適当な人数の授業の評価がよい場合,同じような形式の同じ学部の授業などでは,評点がよい授業かどうかを示すといえます。 だから,全学教育,教養教育,学部教育の別ごとに各自がランキングのどの位置にあるかを知ることができるようにしました。各教員は,自分も位置づけを知って,授業をよくしていくことになります。 北大で進行している教育改善の努力 授業評価は,授業改善への努力です。このほかにも,北大では教育改善の努力が数多くなされています。大学には教育改革の革命がおきているともいわれています。教員の教育意識の改革には,さまざまな研修が行われ,なかでも,毎年行われている泊まり込みの研修は,北大方式として全国的にも目立っています。教育の基本要素の把握,シラバスの充実,成績評価の基準などについて学部をこえて討論し,学びます。先生方には,学生中心の授業を行っていこうと盛り上げています。 北大は,全国の大学で最も学風が明確な国立基幹総合大学です。街の真ん中でこれだけ広い緑のキャンパスに,ほとんどすべての学部があり,互いに協調できる大学は他にありません。こんなキャンパスで北大らしい教育がすすめられるように,北大の教育理念である「フロンティア精神」「全人教育」「国際性」「実学」を実現するカリキュラムが展開されています。大学が個性をはっきりさせる時代です。 こうはいっても,学生の皆さんには,こんな変化を,そして個性を身体で感じるということはないかもしれません。北大は今年,開学125周年を迎え,新しい世紀に大きく飛躍しようとしています。 学生に期待する日本の未来,世界の未来 大学の教育がいま改革的に動いている理由は,資源に乏しい日本が,戦後,世界に伍する国に発展できたのは,教育の成果によるということ,そして将来も発展するためには,知的財産に頼らざるをえないという認識によります。学生諸君が日本の,そして世界の将来を担っているということです。 高校から大学,場合によっては,予備校をへて大学に入学して,大学の先生の授業は下手だということをよく聞きます。2,000人近い教員の多くは,そんなに授業が上手とはいえないかもしれません。しかし,懸命の努力をしています。教育改善に大学全体でとりくんでいます。こんななかで学生に課せられた責任は,やはり大学で学ぶことのはずです。学生のひとりひとりに,税金から授業料をはるかにこえる投資がなされています。そして,大学の先生は,その道では,世界に有数の学者のひとりです。こんな人たちから学ばずして,なぜ大学なのだろう。授業外の時間のすごしかたでは,アルバイト,クラブ活動,その他の課外活動が忙しく,勉強する時間がないといっているようです。こんな日本の大学生の伝統は,世界に伍するためには,変わっていく必要があります。 大学の教員は学生の皆さんに合わせて,教育をよくしていく努力をしています。学生諸君もまた日本の,そして世界の将来を担って努力してほしい。受け身でなく,積極的に大学の授業そしてそこから生まれるさまざまな学習に参加してほしい。 大学での授業改善は,学生と教員が未来をつくっていく共同作業です。そして,授業アンケートもその共同作業のひとつの具体です。未来をみつめて,いまどうするのか。 北大生よ,ビ・アンビシャス! |
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