読売新聞東京本社 社会部記者
 新庄 秀規

 学生時代は一にパチンコ,二にパチンコ,三に麻雀,四にプロレス観戦……といった感じで,何のために大学に行ったのか今でも定かでない自分が,現役学生向けに何を語れるのかと大いに自問しながら書いています。
  九七年春に卒業後,無事就職。富山支局に配属になった後,一昨年秋から東京に移り,現在は警視庁担当として,事件取材に明け暮れています。
  一応,普段から何となく目にしていた新聞。モノを考え,文章を書くという職業なら自分でも出来るのではと思ってこの職業を選びました。
  まあ,このへんが甘かったのでしょう。就職してから気付かされました。「考える前に,まず取材しなきゃいけない」と。
  記者になると,大抵は最初に警察を担当させられますが,私も例外ではありませんでした。初めて味わった取材の大変さは,いまだに悪夢のようによみがえります。
  上司から「オイ,警察署で窃盗事件の発表があったから,聞いて来い」との命令。警察署なんて行ったこともない。交番にいるお巡りさんと刑事の違いも分からない。そんな不安いっぱいで刑事課の部屋の戸を開けると,まず「誰だお前は!」と刑事から怒鳴られました。脂汗をかきながら自己紹介をし,何とか発表内容を確認して会社に帰ったのですが,緊張のあまり,どうも肝心なところが聞けていないみたいで,「何を取材してきたんだ。もう一回行って来い」と自分の目の前で上司に原稿をビリビリに破られる始末。心まで切り裂かれたような気持ちで,会社と警察署を何度か往復して,ようやく十行ちょっとの小さな記事が完成しました。これは大変な所に来たと思ったのを覚えています(不思議なことに,今でも事件記者をやっているのですが……)。
  情報を読者に買ってもらっている以上,他社と横並びの記事では面白くないし,当局の公式発表の内容も事実のごく一部。そこで,当局者の自宅に朝,晩と押し掛けるなどし,自分だけの情報を得るなんてことも必要になります。公務員の守秘義務違反スレスレ。夜中に,帰宅を待って何時間も電柱の陰に隠れていたら,あまりにも不審なため,地元の警察署に通報されるなんてことも。
  「自分はただの寄生虫じゃないか」と悩むことも。ただ,「情報があふれている時代」と言われながらも,本当は見えていない重大な事実がたくさん社会に埋もれています。拉致問題もそうだったですよね。事実を掘り起こす作業のひとつとして,当局での裏取りというのはどうしても避けられない――最近になってようやくこう思えるようになりました。
  記者というのは,取材される側にとっては話を聞かれるだけで基本的には迷惑な存在です。取材では,自分自身を売り込むしか手がありません――そういった意味で,今の自分自身を形作ったのは紛れもなく北大での生活でした。
  あの生活を思い返すと,なつかしいことばかり(親への罪悪感も同時に芽生えてきますが)。時間に関係なく友人らと話したことや,よくあれで死ななかったなと思えるような無茶な行為。誇れるべきことは一切なく,しょうもないことばかりに心血を注ぎましたが,自分と他人とのかかわりの基本みたいなものを覚えたのはまさしくあの時期でした。
  学生生活の中では,目標を見失って孤独感に耐えられないようなこともあるかと思います。突然,人生の選択肢を示されて困ったり,失恋の痛手からなかなか立ち直れない人もいるかもしれません。でも,そこで自分から目を背けないことで,きっと後で役に立つことがあると思います。時には思い切って先輩や友達の力を借りることも忘れないでください。
  皆さんのご活躍を願って。