アメリカ帰りの医者,特にあちらで始めて扱いはじめたヒトが困りモノなんだそうである。まあ,彼の地の大らかなRI事情を思い返せば,あれが当たり前と信じているヒトの周りには余り近づきたくないような気はする。 東海岸からとある医学校に赴任してRIセンターで見聞したお医者さんの実験,確かにチョイと大変だった。RIの実験が終わったら次のヒト達のためにサーベイをして安全を確認しておきましょう…などというのは,全く実態から外れていた。RIの実験を始める前に身の安全を守るために(かつは汚染の犯人と間違われないために)サーベイをする。特に念入りにやらないといけないのが小型の遠心機,チューブの口についた微量のトレーサーを知らずにまわして汚染がおきていたりするから御用心。 ピペットマンをラボで共有している時はこれも要注意。液体には粘性があるので急激な運動には追随できないってのは当たり前。ところが,勢い良くピペッテイングを繰り返している図なんてのは良く見かける。あ,そんなことしても定量性が下がって汚染が起きるだけだよ…。 よくよく見ていると,RI実験の最中に手順が判らなくなったのか,電話で問い合わせているヒトがいる。あのねえ,実験用の手袋したままそこら辺に触れるんじゃないんだよ。 冷却遠心機の蓋を開けたまま帰ってくるヒトがいる。あらら,冷却遠心機ってのは冷蔵庫と同じなんだから蓋は開けっ放しにしないの。おいおい,片バランスで遠心機まわしたらモーターに負担がかかるだろうに。いくら共通の機器だからといって,そう粗末に扱うなよなあ。そこのキミ,蒸留水のタンクの水を使い切ったら次のヒトのために補充しとくもんだよ,膨れっ面せずに。 なんてことを云っていたら,よほど煙たがられたんだろう,ある時実験室の床の汚染の犯人だという噂を流されてしまった。実験が終わった時にもサーベイしてたから犯人じゃないことは確かで,ま,この事後のサーベイも身を守るのに役にたった。一緒に実験してた院生が(一度,汚染事故を起こしたあと何かあると疑われていたらしい),今度は疑われずに済んだとずいぶん喜んでいた。 一度だけ汚染事故に巻き込まれたことがある。退出時にハンドフットクロスモニターで汚染なしだと思っていたのが甘かった。事故は廃棄物室で起きたらしい。誰かが廃棄物室と廊下を隔てる簀の子(安全のために簀の子の前後,つまり実験室側の廊下と廃棄物室でスリッパを履き替える)の上にRI廃液をこぼしたまま残していったらしい。で,次の誰かが知らずにこの廃液を踏みつけたらしい。結果,靴下が汚染してスリッパの内側が汚染された。同じことが繰り返され廃棄物室のスリッパと実験室のスリッパに次々と汚染が広がり,今度はスリッパをはいたヒトの靴下が汚染され…。悪いことにハンドフットクロスモニターで手とスリッパの底,実験着のサーベイはしても,靴下までチェックをするヒトがいなかった。スリッパの底のサーベイではスリッパの表側の汚染までは検知できない。 この悪魔の連鎖のどこかに巻き込まれたらしい。安全と思って外に出たので靴下と靴は汚染ゴミになってしまった。知らずに履いたスリッパの汚染が軽度だったらしく,幸いなことに自宅にまで汚染は広がっていなかったけれど…。 実験室の皆さん,キミの周りに居るのは天使ばかりじゃない。身を守るために気をつけよう。できれば,その実験危険だよという忠告にも耳を傾けよう。法人化など夢にも考えもしなかった遠い昔のことだけど。 |
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札幌キャンパス安全衛生委員会 藤 田 博 美 |