(歴史の視座・日本語の歴史担当 宮澤 俊雅 教授からの回答)
A 先般本員にご照会のあった投書を以て,本員担当講義に対する
1一1 良いレポートの基準が不明だ。
1−2 当初レポートは何でもよいと言ったが,あとで,課題は「いろは歌」で「いろは歌」のことについて「なんでも書いて良い」のではなく,「いろは歌」の暗号について書いても評価しない,と言った。
1−3 「なんでもよい」として提出させたレポートで,結局は成績評価を決めるのはおかしい。
2−1 6月13日の授業では,何の話なのか説明も無しに話し始め,最初20分程を参考資料(ママ)の解説に使った。
2−2 授業が体系化されていない。
3−1 出席簿を回覧して記入させているから,授業の終わり間際に出て来て記入しても出席点がついて不公平だ。
との疑義について回答いたします。
この授業は,授業科目は「歴史の視座」,授業題目は「日本語の歴史」,そしてシラバスにある通り,歴史の視座から日本語を見ることを目標にしています。いいレポートとは,歴史の視座から課題を採り上げたものです。悪いレポートとは「受験勉強の視座」「受験科目『小論文』の視座」「K塾の視座」から課題を採り上げた歴史無視のアナクロニズム・レポートです。
この授業は,歴史視座から日本語を見ることを最終目標に,受験視座からの脱却を当面の目標にして,具体的には,そのようなレポートが書けるように体系的に授業計画を立ててあります。ですから,受験視座に立っていて,そのことに気づかない限り授業がどのように進められているのか分かりにくくなります。
レポートは,日本語を歴史視座から見る内容であれば,課題は「なんでも良い」わけですが,一応課題を例示しています。例示の方法は前半(5月23日まで)は,毎回二つ程の課題を板書します。授業参加者は複数の課題を(いくつでもよい)選んでA4用紙1枚(手書きでもワープロでも)にまとめて,次週以後の授業時間に提出します(7月11日まで)。ただ,遅く(6月以後)提出して低評価となった場合取り返しがつきませんから,なるべく前半中に内容は「なんでも良い」から出すように勧めてあります。
前半の提出レポートは350通を越え,まだ235通しか評価し終えていませんが,終えたものは逐次その評価を履修票によって知らせています。評価は A(歴史視座に立っている) B(受験視座を脱却している) C(アナクロニズム・レポート),です。この時点でA評価は「秀」となりますが,該当者はいませんでした。B評価は3通(3人各1通)は評点が確定しますのでこの分は再提出する必要はありません。多くのレポーターはちゃんと書いた「小論文」が低評価だったことで受験視座の脱却に向かうはずです。
前半で「秀」候補者が出なかったので,「秀」候補用のレポートも募りました。課題自由,4000字以上。締め切りは一般のレポートと同じ。
どのレポートも授業時間内に提出するのが原則ですが,7月25日,8月1日は兼業従事で開講できないため,その分はレポートボックスに提出できるようにしてあります(締切8月5日厳守)。
後半でのレポートの評価は一段ずつずらして,B(歴史視座に立っている) C(受験視座を脱却している) D(アナクロニズム・レポート)となります(初提出・再提出とも)。
またレポートの提出状況から勘案して,この時点で,C評価3つ以上は不合格にしない,という評価基準を決めました。
この授業の履修登録者は125名です。また現在の状況から推測して不合格者は20名以下になりそうです。従って合格者の全員を同一評価(「優」)にすることはできず,提出されたレポートで成績評価を決めざるを得ません。
この授業は,レポートの課題例示に対応させて,該当テーマの講義を逐次行っています。課題『現代仮名遣い』は4月25日の例示ですが,5月23日の講義で『現代仮名遣い』及び『外来語の表記』という文献が「内閣告示」という国家公認の形で出されているだけに審議を積み重ねた上で決定した中庸適正な現代語の音韻表であり,現代語の音韻体系をレポートするには『現代仮名遣い』と『外来語の表記』を基盤資料とすべきことを言い,レポート課題「現代仮名遣い」を「現代語の音韻」に変更しました。しかし翌々週になっても「現代仮名遣いはズサンで,歴史的仮名遣いの方が体系的で学問的だ」とするアナクロニズム・レポートが出ました。
課題「いろは歌」は5月2日の例示。6月6日の講義では「いろは歌」は西暦1000年頃の仮名文字を網羅したもので,当時の音韻を反映していることを言い,例えば源氏物語がこの頃の正しい仮名遣いで書かれていれば,当時の発音で読むことも不可能ではないことを説きましたが,念のためにこれ以後は「8世紀の柿本人麻呂がいろは歌に暗号を仕掛けた」というアナクロニズム・レポートは評価しない(D評価)旨,また課題「いろは歌」と課題「平安時代の音韻」とは同じものである旨言い添えました。
6月13日の授業では,私は12時55分に教室に入りました。3講終了後,4講の準備がすぐ始まりますので,授業は1時に開始,2時半より少し早めに終え,レポート受け取りの後,直ちに退室します。学生もそれを知っているので,1時には大半が入室しています。当日,プリントを教卓に置き,「テーマ 古典の音読」と板書し,学生は各自プリントを取って行き,板書でテーマ「古典の音読」を確認し,プリントを読んでそれが「古典の音読」に関する内容のものだと知ります。プリントは「チップス先生さようなら」(邦訳)の一節で,1900年ごろのイギリスで,「古典」語の授業でラテン語を「音読」する際,シセロ,シーザーと発音すべきかキケロ,カエサルと発音すべきか論争する場面です。
1時にプリントを読み始めましたが,英文学の作品解説をしたのではなく,ただ読んでその内容・意味を説明しただけです。ヨーロッパでは古典の音読が現代語発音から当時の発音へ移ったのに対し,日本では古典の音読が今も現代語発音であることの意味・得失を考え,次いで源氏物語桐壺の冒頭を例にとって,市販の現代語式発音による朗読,古代語がモーラ語であるとして金田一春彦氏が推定復元した平安時代式発音の女優関女史による朗詠および古代語が音節語であるとして推定復元した平安時代式発音の私の朗読とを対比して聞かせました。
この日,授業に参加した学生は108名,そのうち105名がテーマは「古典の音読」であったと履修票に記しています。
次の6月20日の授業のテーマは「音便」ですが,平安時代の漢字音の話もしました。6月27日は平安時代語が音節語であった可能性を探る「字余りの変遷」,そして字余りを契機に7月4日「サラダ記念日」,7月11日「女性語」で終了です。
平成7年度から私の授業(全学教育・文学部・他大学の授業)では履修票を作成しています。2回出席すると履修票を作成し,毎回回覧し,各自その日のテーマと日付を記入します。結果として出席をとっているように見えますが(事実,アンケートの時には履修票を見て,私は何%出席した,の項目を正確に記入しアンケートの信頼精度を高めるように指導しています),主な目的は提出レポートの確認,レポート評価の通知など,そして何よりも授業参加への意思表示です。また履修登録はしてあっても履修票のない人(今回は9名)については7月下旬に無評価の成績を入力確定します。また主に文学部学生の場合は卒業するまで同じ履修票を使い情報が蓄積され「指導」の役にも立ちます。履修票・平時レポートがなければ,授業は一方通行ですが,一人一人については僅かでも全体からすればかなりの対話が行われています。出席点はとっていません。 |