第3回「航空機による学生無重力実験コンテスト」
(独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA))選定テーマ




 平成17年度の「航空機による学生無重力実験コンテスト」に,全学教育科目・一般教育演習「無重力の科学」を履修している学生のうち,4名の皆さんで結成した「無重力研究同好会チーム」が応募し,みごと選定された『ぶつかれ青春〜粘性の異なる液滴同士の衝突』を紹介します。
 平成17年12月20日(火)に,名古屋(小牧)空港から,航空機「ガルフストリーム2」にメンバーが搭乗し,約2時間にわたって無重力実験を行いました。
 なお,この実験成果は,現在分析を進めており,平成18年3月にまとまる予定のため,今回は,実験の内容について掲載するものです。



実験参加者全員による記念撮影


1.チームメンバー 大村 益孝(工学部・1年)…代表
飯田 義規(工学部・1年)
杉山 悠理(歯学部・1年)
谷井 大介(医学部・1年)
※ 支援教員:低温科学研究所・助教授・古川 義純


奥側が搭乗した「ガルフストリーム2」


上空からの小牧市(愛知県)の風景



2.実験の目的・概要

 無重力空間で水面に水滴を衝突させると,水滴の質量の一部を水面に供給してその残渣が反発して跳ね返るという現象がみられます。これは,Donn Pettitにより実施された宇宙ステーションでの科学実験ビデオにも納められていて大変興味深い現象です。しかしながら,なぜ液体同士が衝突したときに跳ね返るのか,また,なぜ質量の一部が衝突によって一方から他方へ移動する現象が起こるのかは,ほとんど明らかになっていません。
 本実験では,航空機のパラボリック飛行(放物線飛行)により作られる20秒の無重力環境の中で,直径1cm程度の液滴同士を衝突させて,そのときの液滴の挙動を観察するものです。衝突前後の液滴の速度を測定することにより,衝突時にどの程度の液体質量の移動が生じるのかを求めます。また,液滴の表面張力や粘性を変化させるために,
 ○「純水の液滴同士の衝突」
 ○「液体の洗剤を添加して表面張力を低下させた場合」
 ○「純水の代わりにシリコンオイルなどの油を使った場合」
 ○「ゲル状物質などの高粘性の液体を使った場合」
などの,液体の性質を変化させて実験を行うものです。
 このような実験により,液滴同士の衝突現象に対する液体の粘性や表面張力の効果を明らかにします。
 実験結果の予測としては,以下のようなことが考えられます。
 液滴同士の衝突により質量の移動が起こり,液滴のサイズが変化すると表面積も変化します。このときに表面張力(すなわち,単位面積あたりの表面自由エネルギー)の液滴全体での変化は,表面張力×表面積の増減量になります。したがって,液体の表面張力が小さいほど,液滴の衝突による質量の移動が起こりやすくなると推定されるのです。
 また,このような実験結果をもとに,将来宇宙空間で人類が生活をするようになったときのために,油汚れの落とし方や洗濯の仕方などについて考察を加えることも可能であると考えられます。



3.実験

(1)実験手順
 1. 次章の実験装置概要に示すように,アクリルの透明な箱の両側面にひとつずつ小さな穴をあけます。この穴から,注射器などのノズルを容器内に挿入して固定します。ノズルは,シリコンチューブで空気圧縮器に接続します。
 2. 無重力環境になる前に,ノズルである注射器に液体を充填します。無重力環境になったときに,空気圧縮機のバルブを開いて,ノズルに充填した液体を一気に容器内に注入します。
 3. 容器内に注入された液体は,液滴となってある一定速度で容器内を運動し,反対側から来るもうひとつの液滴に衝突します。
 4. 衝突した液滴は,互いに反発して跳ね返ります。この様子をビデオカメラで記録します。衝突前後での液滴の速度をビデオ画像から読み取ることで,衝突により液滴の間で質量のやり取りの量を定量的に求めることができます。

(2)実験を実施するうえで解決すべき問題点
 1. ノズルから噴出した液滴は,重力下では放物線運動をしますが,無重力下では直線的に運動すると考えられます。無重力環境で液滴同士の衝突を実現するために,ノズルの調整が必要ですが,これを地上であらかじめ終了させておくことは困難です。このため,ノズルからの液滴の噴出し方向を,無重力環境の中で調整できるシステムを組み込む必要があります。
 2. 液滴の吹き出しには,ノズルの形状が重要と考えられます。あらかじめ,ノズルの形状の最適化を計る実験を実施する必要があります。



4.実験装置概要


実験装置
1)上図の水色の部分に液体を入れる(チューブは取り外し可能)。
2) 空気圧縮機のバルブ(もしくはスイッチ)を開け,液滴を空気圧により打ち出す。



5. 航空機に乗って実験に臨んだ感想

 今回の,「第3回航空機による学生無重力実験コンテスト」に採択されたことによって,普通は体験することの出来ない,無重力体験をすることが出来ました。スペースシャトルで,宇宙飛行士が,浮かんだ状態で宙返りをしたりするのをテレビで見て,もともと無重力状態に憧れていましたし,普段僕らの周りには当たり前のように重力が存在するけど,それが無くなったらどうなるのか。物や体が浮くだけでなく,想像できない色々なことが起こるのではないか,と思っていました。その点で,無重力実験というのはとても面白いと思います。だから,採択が決まったときは大変嬉しかったです。
 実際に,飛行機に乗って無重力を体験した感想は,率直に言って体が上に引っ張られた感じがしました。普段地球上では常に下に力が働いているからだと思います。1回に20秒間の無重力状態を10回繰り返す上に,その間に2Gという重力が2倍の状態もあるので,正直,僕は具合が悪くなって,吐いてしまいました。でも大変貴重な経験だったので,体調のことはなるべく気にしないようにして,無重力状態を堪能しました。
 今回の無重力体験で,あらためて無重力状態は面白いと思ったし,広めていくべきだと思いました。このような貴重な体験をもとに,これからも精進していきたいと思います。
チーム代表 大村 益孝(工学部・1年)


独立行政法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)の「航空機による学生無重力実験コンテスト」とは
URL:http://iss.sfo.jaxa.jp/education/parabolic/index.html
1.目的
 本コンテストは,日本が参加する国際宇宙ステーション(ISS)計画に関連して,理工系学生のみならず幅広い分野の学生(高専学生,学部学生,大学生学生)に無重力実験の機会を提供し,宇宙環境利用への理解・関心を深めてもらうとともに,将来の宇宙開発を担うべき人材の育成に寄与することを目的としています。
2.概要
 航空機による学生無重力実験コンテストとは,航空機を放物線飛行させることで,機内には約20秒間の無重力状態が作り出せます。この飛行機に搭乗し,無重力環境を利用して様々な科学・技術実験やデモンストレーションを行うことができます。本コンテストでは,学生から無重力環境で実施してみたいアイデアを募集し,選考委員会で選定された提案チームが,実際に飛行機に搭乗し実験等を行うものです。
3.無重力実験
 宇宙で行われる科学実験の多くは,宇宙環境の最大の特徴である「無重力(無重量,微小重量)環境」を利用したものです。長時間の無重力状態を地上で再現することは不可能ですが,短時間(数秒〜数十秒)であれば,落下塔による自由落下や航空機による放物線飛行を用いて無重力環境を作り出すことができます。航空機を用いた無重力環境は,主に短時間での無重力実験,宇宙実験に先立つ地上実験,さらには宇宙実験装置の検証のために利用されています。
(同コンテスト「募集要綱」から)




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