無重力空間で水面に水滴を衝突させると,水滴の質量の一部を水面に供給してその残渣が反発して跳ね返るという現象がみられます。これは,Donn
Pettitにより実施された宇宙ステーションでの科学実験ビデオにも納められていて大変興味深い現象です。しかしながら,なぜ液体同士が衝突したときに跳ね返るのか,また,なぜ質量の一部が衝突によって一方から他方へ移動する現象が起こるのかは,ほとんど明らかになっていません。
本実験では,航空機のパラボリック飛行(放物線飛行)により作られる20秒の無重力環境の中で,直径1cm程度の液滴同士を衝突させて,そのときの液滴の挙動を観察するものです。衝突前後の液滴の速度を測定することにより,衝突時にどの程度の液体質量の移動が生じるのかを求めます。また,液滴の表面張力や粘性を変化させるために,
○「純水の液滴同士の衝突」
○「液体の洗剤を添加して表面張力を低下させた場合」
○「純水の代わりにシリコンオイルなどの油を使った場合」
○「ゲル状物質などの高粘性の液体を使った場合」
などの,液体の性質を変化させて実験を行うものです。
このような実験により,液滴同士の衝突現象に対する液体の粘性や表面張力の効果を明らかにします。
実験結果の予測としては,以下のようなことが考えられます。
液滴同士の衝突により質量の移動が起こり,液滴のサイズが変化すると表面積も変化します。このときに表面張力(すなわち,単位面積あたりの表面自由エネルギー)の液滴全体での変化は,表面張力×表面積の増減量になります。したがって,液体の表面張力が小さいほど,液滴の衝突による質量の移動が起こりやすくなると推定されるのです。
また,このような実験結果をもとに,将来宇宙空間で人類が生活をするようになったときのために,油汚れの落とし方や洗濯の仕方などについて考察を加えることも可能であると考えられます。 |