文学研究科・教授
櫻井 義秀


 2006年7月28日から連続して3週間ほど、「摂理(キリスト教福音宣教会)」によるカルト被害が朝日新聞に報じられた。鄭明析(チョン・ミョンソク)は韓国警察から信者の強姦容疑等で国際手配を受け、1999年から7年間、海外逃亡中である。性的虐待の被害者は韓国・日本で数百名を下らないといわれる。私は被害者から直接聞き取りを行ったが、鄭明析は深夜に女性信者を自室に呼び出し、巧妙な手口で暴行した。彼女は鄭明析を再臨のキリストと信じていたため、瞬時に何が起こったのか分からず、後に幹部に相談しても、神の祝福!と受け止めよと諭されたということだった。この教団は、文化系・運動系のサークルを擬装し、サークルになじんだ学生にのみバイブル・スタディー「30講論」を教え、摂理人と呼ばれる信者にする。
  遺憾なことに、北海道大学においても摂理による勧誘がある。摂理以外にも、サークルを擬装して勧誘行為を行う複数の宗教団体が確認されている。学務部学生支援課で注意してもやめない。学生諸君には、このような勧誘行為が身に及ぶことがあると知ってほしい。
  日本国憲法第20条に定められた信教の自由には、自らの信念を公表し、同志を募る自由も含まれていよう。しかし、自らの信教の自由を主張するものは、他者の信教の自由に対しても十分な配慮を行うことが求められる。その配慮を意図的に怠ることは、悪意をもって他者の自律的な精神活動に危害を加えているとみなしてよい。別のいい方をすれば、私たちは配慮があるかどうかで、その団体の性質と目的を知ることができる。次の項目を記憶に留めて、キャンパス内の不審な勧誘に対処してもらいたいと思う。

(1) 団体名、団体代表者名、活動目的・内容を被勧誘者に明らかにしているかどうか。正しいと信じていることを隠す理由はない。そうせざるを得ないのは、勧誘された学生がインターネットで団体名を検索すると、団体の違法行為、疑惑、批判等の記事をすぐに探し出せるからである。

(2) イデオロギーや宗教的信念は一つの価値観であり、科学者集団や社会において妥当性を認められた事実に関わる事柄ではない。その考え、価値観を選択するかしないかは本来自由である。ところが、特定の教えを信じ、活動に邁進しないと地獄に行くとか、日本が滅ぶ等といって学生の恐怖や切迫感をあおり、誤った因果関係を信じ込ませる集団がある。

(3) 大学は学問をするところである。学生は科学的知識と合理的な思考力、文化伝統の知恵を身につけることが期待されるし、大学に進学した理由もそのためだったはずだ。ところが、学習時間を削ってまで新人の勧誘と団体のために資金稼ぎのバイトに没頭せざるをえない状況を信仰の名の下に要求する団体がある。頭が柔軟で感性を磨ける青年期に、一つの狭量な考え方で自分を縛ってしまうのは、本人にとっても社会にとっても残念なことである。

(4) 優しい言葉と温かい態度で歓迎してくれる団体に出会ったら、彼等があなたに何を要求してくるのか注意すべきだ。世の中にこんなに理想が高く、温かい人間関係を築く集団があるのかと心を許しそうになったら、あなたを加入させるために深夜まで対応を協議している集団であることをも知っておいた方がよい。人間関係で入信や教え込みをはかるのは学生勧誘の常套手段である。

 学生諸君にはサークルや部活を大いにやって、多くの友人と出会い、人間、集団といったものを学んでほしい。学内の99パーセントの団体には何の問題もない。しかし、残る1パーセントに注意は必要だ。
  上記の特徴を示す不審な団体が近づいてきたら、すぐ学務部学生支援課学生相談係(高等教育機能開発総合センター(2)番窓口,電話011-706-7454)に連絡を入れてもらいたい。





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