人生泣き笑い〜課外授業のすすめ〜
 
 ゆく年くる年を語る季節がやってきた。今年1年を振り返るに何より欠かせないのが硬式野球部だ。春の全日本でベスト8という大活躍を知って、自分たちもと奮起したサークルは多いことだろう。そんな硬式野球部も秋には泣いた・・。しかし、人生は泣いたり笑ったりが楽しい。硬式野球部の活躍を振り返りながら、達成感と挫折感を繰り返して人間力を増していく、課外活動の素晴らしさを伝えたい。
試合開始
試合開始。優勝が事実上消えてしまったものの、
目の前の勝利に向かって挑む北大硬式野球部 (秋季リーグ@札幌ドーム)
 
応援団
勝利を目前とした最終回に行う伝統の「下駄ワッショイ」。東京では浮浪者と間違えられた応援団が元気に盛り上げる。(秋季リーグ@札幌ドーム)












ペンハロー賞
春季リーグ戦でベストナイン等の個人賞を受賞し、本学ペンハロー賞を受賞した硬式野球部の選手、マネージャー(右から2人目が主将の城嶽さん)












泉澤さん
えるむ第134号で「神宮で勝つ」と誓ってくれた泉澤さん




















硬式野球部・全日本大学野球選手権でベスト8


 信じられないことが起きた。

 弱小チームがエリートチームを負かしてしまうストーリーは、70年代の漫画の世界ならちばあきおの「キャプテン」、同じく映画の世界なら「がんばれ! ベアーズ」。野球ドラマに限らず、弱い者が強い者を倒してしまうシチュエーションは、世界共通、万人受けする舞台設定である。しかし、そんな痛快な出来事が現実の世界で起きた。
 硬式野球部が6月に開催された全日本大学野球選手権で全国初勝利を達成し、その勢いに乗じ2連勝、ベスト8に輝いたのだ。
 前年秋季の札幌六大学リーグ戦では、一部リーグながら最下位に甘んじていた。おまけにこの春、主力投手陣が卒業と相成り、苦肉の策として捕手がエースに転向するという事態にまで及んでいた。そこからこの短期間にどうして強くなったのか、説明できる知識は持ち合わせていないが、今季の春季リーグを9勝1敗で制し、見事、神宮の切符を手にしてしまったのである。
 しかし、そんな出来事が広く知れ渡ったのは、「全国初勝利」の記事が新聞紙上で大きく報道されてからだろう。恥ずかしながら、学生支援課が本学HP上に硬式野球部の活躍を掲載したのは、2回戦を制し準々決勝の進出を決めてからだ。おまけに、ボロ羽織をまとった北大応援団が大都会で浮浪者と間違えられているという微笑ましいエピソードがスポーツ新聞やネットニュースで、ヤンヤヤンヤと紙面を踊らせた。
 準々決勝の試合をネットの速報で見守った。TV放映がなくとも一投一打が文字となって配信される。
 対戦相手は、プロ注目の好投手(後にドラフト1位で楽天入り)を擁する八戸大学。北大の先発はエース石山智也(理学4年)だが、2回裏にヒットと盗塁を絡められ先取点を献上した。しかし、4回表フォアボールをはさみ4連打で2点を取り逆転する。なおも1アウト満塁だったが後続を断たれた。敵もさるもの、5回裏2アウトからの3連打で2点を取られ、再び逆転される。好投の石山73球で降板、しかし浄野智規(経済4年)が後続を断つ。さらに、6回裏は浄野、杉谷将宏(工学3年)の継投で2アウト満塁を無得点でしのいだ。7回裏から二枚看板の佐藤輝(工学3年)が前日に続き救援、4球で3アウト! 良い流れのままに8回表はエラーで出塁、ノーアウト2塁からバントで送ると、前日の試合まで48イニング無失点という無敵のエースを引っ張り出し、3番堤篤大(工学4年)のタイムリーが出て見事同点。見つめるネット文字の裏側には、球場内の大声援がすべて北大に味方しているように見て取れる。天までもが味方したのか、最終回の9回裏・ノーアウト1・2塁のピンチを0点にしのいだ。いよいよ延長戦に突入だ!固唾を飲むというのはこういう場面か?敵のエースに負けじと佐藤も熱投で粘り、両軍に0が並んだ。13回裏、1ヒット1エラー、送りバントの後の満塁策で1アウト満塁、絶対絶命の大ピンチを三振とサード木村優斗(農学2年)の奇跡的なダイビングキャッチで断った。ここまで佐藤71球。敵のエースもスタミナが切れない。14回表3人目の吉本勝(文学4年)が三振に仕留められた球は140キロのストレートだ。(83球目)
 14回裏、佐藤が1人目を初球で仕留める。お互いの踏ん張りを見守ってジーンとなり、このまま永遠に続いてほしいと・・、思わず油断したその瞬間だった。佐藤は連投の疲れのせいか無駄球を避け初球からポンポンとストライクを入れていた。それに気づいた八戸大は前の回当たりから初球に狙いを絞っていたのだ。佐藤が投ずる73球目、札幌出身の2番打者が狙った初球のスライダーは外野スタンドにスルスルっと入った。サヨナラ本塁打、あっけなく勝負は終わった。おそらく、球場内は一瞬の間が空き、その後に大歓声が湧いたことだろう。そして、観衆の暖かな声援は勝者に増して、悔し涙に暮れる敗者に贈られたことだろう。素晴らしい試合が幕を下ろした。
 北大野球は元気に声を出し続けるも、けして相手をやじったりしない。これぞ学生野球の神髄と賞賛され、特別賞を受賞した——。

秋季リーグ敗退


 「秋に帰ってこいよ!」神宮の観衆が北大ナインに贈った言葉は暖かかった。その言葉を胸に、学生たちは厳しい夏の練習に励んできた。しかし、秋の結果は意外にも学生たちに試練を与えた。
 秋季リーグ第2節第5日目、前試合の結果で事実上北大の優勝は消えてしまった。既に覚悟していたこととは言え、皆はやるせない気持ちのままに淡々と試合をこなした。「もう一度神宮」を合い言葉に、4年生は引退を先延ばしして秋にかけた。第1節では「没収試合」という思わぬ敗戦もあったが、春季王者としての見えぬプレッシャーがあったのかもしれない。皆の落ち込みようを察知して無理におどけて盛り上げようとする上級生もいた。ガランとした札幌ドームに響き渡る第100代北大応援団の声援。選手も応援団も、皆、それぞれに最後まで力一杯戦った。結果は通算5勝5敗で4位に終わり、今季の日程を終えた。
 今期硬式野球部主将の城嶽祐太朗さん(工学4年)は4年間をこう振り返った。
 自分は神宮に行くために北大を志望した。幸いにも最終学年で全国初勝利を達成することができたが、今年の結果がすべてではない。試合でチームに迷惑をかけたり、4年間のいろいろな思いが蘇る。うちのチームは4年生全員が中心となって部を運営するので主将のプレッシャーはなかった。チームワークは「全員で勝つ」という方針でまとめてきた。1年生から4年生までそれぞれが自分の役割を考えた。全国の有力校は個人のレベルが高いので、自分たちはチーム全体で対抗しないと勝てない。そのために「すべての人間が試合に入り込もう」と何度もミーティングで話してきた。今年の後輩たちはとにかく元気。声で相手チームにプレッシャーをかけてくれた。勝てたのはそんな力が大きかった。自分が1・2年の時はそこまで元気だったか…、今になって悔いが残る。そして、神宮球場で八戸大に負けた悔しさも残っている。後輩たちには、その元気をそのままに全国のトップレベルに対抗できる力をつけてもらいたい。そしてまた、次の世代につないでほしい。

 えるむ134号の特集「一年の計」で「神宮で勝つ」と誓ってくれた泉澤知宏さん(水産2年)は、先輩たちの活躍をこう振り返った。
 一言では言えませんが、あの時(全国初勝利)のみんなの雰囲気は何かが違っていました。1人1人のモチベーションとか…、うーん、簡単には言えない、言えるものじゃないす。今回は東京ドームで打席に立たせてもらったけど、来年はレギュラーとして、神宮で勝ちたい。10月から函館キャンパスに移行しましたが、今年の中心選手でもあった福田裕先輩(水産・3年)に練習パートナーになってもらって、先輩を目指したいす。
 人生は、泣いたり笑ったりが楽しい。泣いたり泣いたりは散々だが、笑ったり笑ったりもつまらないと思う。敗北もまた勉強だ。北大生には、正課の他、一つの目標に向かって打ち込めるものをぜひ見つけてもらいたい。(K)

 
 

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