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おおい,北大生諸君!
西 田 泰 典 |
昨年の秋,火山観測のため鹿児島県の桜島へ出かけた。島内に,東桜島小学校という小学校がある。この学校には,我々のように地球科学を専門とする人間にとって,はなはだ耳の痛い文章を刻んだ石碑がある。桜島では大正の噴火(1914年)に先立ち,有感地震が頻発するなど,不気味な現象が多発した。しかし少なくとも当時の学問水準では,この現象が噴火の予兆であると断言することができなかった。その結果,村当局も避難命令等を発令する機会を失い,1月12日の噴火を迎えるに至った。南岳の東側と西側の中腹から流出した約2立方キロメートルの溶岩は,一部は海中に流れ込み,大隅半島と連結した。そのため,島内は阿鼻叫喚の巷と化し,溺死を含む63名の死者を出してしまった。そこで後に島民は,「……住民ハ理論ニ信頼セズ,異変ヲ認知スル時ハ,未前ニ避難ノ用意,尤モ肝要トシ云々」という有名な文章を刻んだ石碑を建てた。私は,観測をともにした大学院生と,放課後で生徒の姿も見えない東桜島小学校を訪れ,校庭の隅に置かれたこの碑文を見た。
碑文を見終わって立ち去ろうとしたところ,校舎の正面に,どこの小学校にもあるように,大きな字で書かれた校是が掲げてあるのに気がついた。それには,「がんばる」「かんがえる」「たすけあう」とあった。私は,これらの校是はなかなかのものと感じた。「がんばる」はともかくとして(それでも,さすが薩摩だと思ってしまったのだが),「かんがえる」というスローガンは極めて新鮮に思えた。「がんばる」はとりあえず勉強のこととし,「かんがえる」と組み合わせれば,「学びて思わざれば,則ちくらし。思うて学ばざれば,則ちあやうし」(論語)ということになりはしないか。「たすけあう」がまた良い。「なかよく」の方が多く流布されているような気がする。しかし,人間べつに,べたべたと仲良くする必要はないが,困ったとき助け合うのは筋であろう(人を助けるということは,なかなか度胸のいることではあるが)。3つの校是をまとめると,「物事を成さんとするときは,深い思慮に裏打ちされた努力こそ大切である。しかし必ずしも成功するとは限らず,挫折することもあろう。そのような時こそお互いに助け合おうではないか」ということになろうか。
小学校と同じとは,と思われるかもしれないが,以上は大学にも十分あてはまるような気がする。そこで提案がある。クラーク先生には大変申し訳ないが,多少無理をして be ambitious を「がんばる」に当てる。しかして新しい北大の校是を Girls and boys, be ambitious, think deeply, and help one another! としたらどうだろう。
(にしだ やすのり,大学院理学研究科教授, 前学生委員会第2小委員長)
桜 島 火 山
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