エルム街の偉人たち

下宿・ヨシムラ荘

義 村 久 子(よしむら・ひさこ)さん

 ここ北大界隈には,何十年来,北大生と関わり続けているオッチャンやオバチャン達がたくさんいる。そんな北大生とオッチャン達とのふれあいやエピソードを紹介しよう。


 遠く親元を離れて入学してきた学生にとって,下宿屋のオバサンは言うまでもなく母親代わりである。入学時にいっしょにやってきた母親が涙ながら郷に帰って行く,そんな時オバサンは「後はまかせなさい」と心の中で見送る。そんな大事な息子たちを毎年18人も抱えているのが義村久子さんだ。北21西7。ナナメ通りを少し北方面に進んだところで下宿・ヨシムラ荘を営んでいる。
 30代の初めから始めて30数年になるという年齢不詳(?)の久子さんはとにかく若々しく,ポニーテールの後姿なんかは娘さん並み。昔はきっと,学生にとって憧れのマドンナだったに違いない。
 自宅の空いていた部屋を仕切り,3畳間にして3人の北大生を預かったのが始まりで,増築を重ね15年ほど前から現在の規模になった。
 「30数年はあっという間だったわ」という笑顔からは,少しの苦労も感じさせない。毎日欠かさず,朝は4時半,夕方は16時過ぎから18人分の御飯を作るのは並大抵ではないのに「慣れたら何でもないものなの。学生たちが助けてくれるしね」学生たちは,久子さんが用事で朝早くから外出する時などは,食器を洗っておいてくれるそうだ。冬はもちろん除雪,春にはチラシを作って新入生の勧誘(下宿の)までしてくれるという。一度急病で倒れ,救急車で運ばれた時には学生が朝まで付き添ってくれた。
 そんな「息子たち」の後姿を見ていると久子さんは胸が一杯になる。「とにかく学生が好きなの。おいしいものを食べさせて,喜ぶ顔が見たいの」
 ヨシムラ荘の下宿生である千葉一成君(獣6)は「とにかくオバサンは気さくな人,オバサンを中心として下宿仲間もアットホーム」落研に所属していた千葉君は,みんなの前で一席を披露したこともあるとか。「今の若い子は……って良く聞くけど,うちの子は先輩たちが偉いのかいい子ばかり」卒業したOBたちは,出張の折りに良く訪ねてくれるし,手紙もくれる。
 そんないつも楽しそうな久子さんだが,今年7月に長年病床に伏していたご主人を亡くした。落ちこむ久子さんを,バイト帰りの学生が特売で線香を買ってきて慰めた。「何かあったら手伝うよ」息子たちは,ますますやさしくなっていった。
 久子さんには,実の息子さんと娘さんが一人づついて,家庭教師には事欠かない環境を生かしてか(?),二人ともりっぱに育ち,独立している。「一人暮らし」の形になった久子さんは,食事の支度で旅行など家を空ける事はできないけれど,昼間の空いた時間に趣味の日本舞踊や福祉のボランティア活動を続け,18人のかわいい息子たちのため,今日も元気にポニーテールをなびかせている。

(夢 一夜)

 

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