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地球温暖化の防止
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昨年12月に,京都で気候変動枠組条約第3回締約国会議(別名COP3)が開かれ,日本は西暦2008〜2012年に温室効果気体の排出量を1990年の水準から6%削減する(1990年水準の94%とする)ことが決められました。この削減の対象となった温室効果気体とは,二酸化炭素(CO2),メタン(CH4),亜酸化窒素(N2O)および3種類の代替フロンガス(ハイドロフロロカーボン類(HFCs),パーフロロカーボン類(PFCs),6フッ化硫黄(SF6))の6種類の気体です。これらの気体は地球が出す赤外線を強く吸収します。そのため,これらの気体は暖まり,その結果これらの気体自身が再び地球に向かって赤外線を出し,地球はより多くの熱エネルギーを受け取ることになって,温度が上がります。これが温室効果による地球の温暖化です。
これまでの予測では,このまま何の対策もせずに温室効果気体が増加し続けると,2025年までに地球の平均気温は現在より約1℃上昇し,21世紀の末までには3℃上昇する,特に北半球の高緯度地方で冬に余計に温められ,例えば北極圏では1958年に比べて2030年に冬季の平均気温が5〜7℃も上昇すると言われています。また,海面も21世紀の末までに65cmも上昇するだろうと予測されています。
この結果,北半球において気候帯が来る50年で数100kmも北方に移動し,次に示すような様々な悪影響が生じると考えられています。
このような悪影響が予想されるため,京都会議において温室効果気体の排出量削減が決められたわけです。その削減対策として,現在次のような方策が考えられています。
まず第一は,石炭・石油に替わるエネルギー源の利用を促進することです。例えば,石炭・石油よりも二酸化炭素の排出量の少ない天然ガスの使用の促進,原子力の利用,水素の利用,水力・地熱・太陽光・風力などの自然エネルギーの利用の促進,燃料電池の開発と普及などが上げられています。
東シベリア,ヤクーツク市の住宅地風景。永久凍土地帯であるため,平屋建ての家などでは暖房の熱で床下の凍土が融けて傾いてしまう。そのためビルを建てる場合にはパイル(基礎杭)を数m間隔で打ち込み,地上1m以上の高さに床を張る。永久凍土地帯では,今後の温暖化により,地盤・地形の不安定化など大きな影響を受ける恐れがある。
次に,省エネルギー対策です。発電などにおいて電気だけではなく熱も同時に供給するシステム(コジェネレーションシステム)の普及や,工場などにおける廃熱の利用,さらに自動車の燃費の向上と低公害化などが考えられます。
3番目として,二酸化炭素そのものを直接に除去,回収する,あるいは固定化することが上げられます。現在,特に火力発電所からの排煙中の二酸化炭素を除去・回収し,深海底に貯蔵する技術の開発が進められています。また,植物は光合成により二酸化炭素を吸収してくれることから,森林の保全と再生,砂漠化の防止が進められており,また海草やサンゴの保護育成や,人工光合成技術の開発が考えられています。
北海道泊村の風力発電風景(北海道電力ほりかっぷ発電所)
さらに,私たちの毎日の生活の場,すなわち社会・経済システムを見直して,二酸化炭素の排出量の少ないまち造りを行うことが考えられます。具体的には,自動車輸送から鉄道輸送への転換を促進すること,公共交通(バスや地下鉄,鉄道など)の利用拡大,低燃費・低公害型の自動車の開発・普及,清掃工場や下水処理場の廃熱の利用,都市の緑化と透水性舗装を促進し,ヒートアイランド(都市の高温化)現象を緩和させること,廃棄物の減量化と再利用の促進,住宅の気密化と断熱化,照明の効率向上,ソーラーハウスの普及促進などが考えられています。
1995年時点で,日本の二酸化炭素排出量は1990年に比べてすでに8%増加しています。その後も増加傾向にあると思われることから,現時点(1998年)で1990年の水準から6%減の排出量とするためには14%以上の削減を行わなければならず,さらにこの増加傾向が続けば,2010年頃には20%以上もの削減を行わなければならなくなります。
このような状況を考えると,温室効果気体の排出量の削減は出来るだけ早く実施しなければなりません。なお削減方法として,これだけで充分という決定的に有効は方法はありません。地球の温暖化を防止するためには,これまで述べてきたような多くの分野における様々な対策を,しかもできるだけ早く実施していくことが,現在強く求められています。
(おおた さちお,大学院工学研究科 環境資源工学専攻)
「子供の森」計画で植林に励むフィリピンの子供たち
(土木学会誌1994年4月号別冊増刊より)