投書箱「学生の声」に答える |
英語教育系教育計画委員
伊 藤 章 |
7月上旬に農学部の1年生から,つぎのような投書がセンターの投書箱に寄せられた。「北大は入試英語が比較的易しく,新入生の時点でさえも英語力の開きが大きいのは分かっているはずなのに,なぜランダムにクラス分けするのでしょうか。(中略)英語力の差によって英語のクラス分けをすることを望みます」
この投書には署名も入っており,中身も検討に値するしっかりしたものであるので,英語教育系教育計画委員として,回答したい。
この手紙は,週2コマ開講されている英語IIのテキストの「内容が浅く,表現も易しく,一読すれば分かるようなものばかり……」という不満から始まっているので,まずは,この点から。表現も易しいと言うが,それでは実際にテキストに書かれている内容をきちんと英語で表現できますか。読んでわかるということと実際に表現してみるということの間には非常に大きな差があります。日本の英語学習者は,えてして,基本動詞の使い方も日常会話レベルのイディオムもしっかり習得しないまま,むやみに背伸びしようとする傾向があります。これにはいわゆる受験英語に責任の一端があります。落とすために作ったとしか思われない,しかも実用性から遠くかけ離れた,難解なだけの入試問題です。北大では,高校の指導要領も参考にしながら,得点分布がノーマルカーヴを描くような,ごく標準的な入試問題をいつも心がけております。一部の受験生にはたしかに易しいと映るでしょうが,こういう問題だからこそ,受験生の英語学力を的確に判定できるのです。もし難解な入試問題が良い問題だと思っているとしたら,大変な勘違いです。
さて,話を英語IIに戻すと,英語IIのそもそもの目的が,高校までの英語教育で養成された基礎的な語彙や構文,文法を補強し,基礎固めを行いながら,さらにもう一段上のステップに進むことに備えるという狙いがあります。やさしめのものをたくさん読んで,大意を把握する能力の育成も目標の一部です。農学部の英語のカリキュラムは,1年次の第2学期には,外国人教師による口頭表現能力の向上を狙った英語Iがあります。スピーキングとリスニング,ライティング,リーディングと技能別の英語IIIが1年次第2学期と2年次の第1学期に展開しますし,最後に総仕上げ的なものとして,英語IVが2年次第2学期にあります。そのほかにも,言語文化部では外国語特別講義として,必修単位以外にいくらでも外国語の授業を自分のレベルにあわせて受講できます。これもご利用ください。北大の外国語教育は,しっかりとした動機付けをもった,やる気のある学生のために,道を開いております。英語のカリキュラムを全体として理解していただきたいと思います。
つぎに,投書を寄せてくれた方のメインポイント,「能力別クラス編成」という,じつに大きな問題について。これがこれまでさほど大きな問題にならなかったのは,以前は現在ほど英語学力にそれほど大きな開きがなかったということがあるかもしれません。現在は学力の開きが顕著になっているようです。したがって,入学してからの英語の授業を円滑に行うためには,たとえば,大学入試センター試験で7割程度,2次試験では6割程度の足切りラインを設けて,これを下回る受験生は総合点のいかんにかかわらず,合格させないという方針を導入すれば,どんなに北大の英語の授業はやりやすくなるでしょうか。でも,北大では,こういう方針を打ち出すだけの合意は形成されておりません。
以前であれば,おそらくは英語の学力がかなり高い学生たちから,今回の投書に見られるような声がでてこなかったのは,こういう質の高い学生たちは,教師の側が多少放っておいても,自分でどんどん勉強してくれたということがありました。ただ,今回のようにこの問題が浮き彫りにされた以上は,英語教育系としても真剣に検討しなければならないと思っております。
(いとう あきら,言語文化部教授)