がんばれ北大!

京都大学大学院・医学研究科附属
先天異常標本解析センター助教授

成 瀬 一 郎

(なるせ いちろう)1948年栃木県真岡郡雀の宮村生まれ,0才児の時より名古屋で育つ。1973年北海道大学理学部生物学科動物学専攻卒業後,転々と職を変え,現在,京都大学・医学研究科・先天異常標本解析センター・助教授。
 40才を過ぎて神経痛のリハビリにと始めた水泳がこうじて・スキンダイビングと水中写真を趣味とするようになったが,京都へ転勤後,海が遠くなって欲求不満の夏を過ごしている。


 学部卒業後,現在,6ヵ所目の職場です。留学先や休学中に勤めた職場も含めれば8ヵ所目の職場です。学部卒業後,製薬会社の研究所,看護短大の助手へと転職,助手を勤めるかたわら名古屋大学医学部に研究生として通って9年かかって学位を取りました。それから,愛知県心身障害者コロニー,国立水俣病研究センター,愛知県心身障害者コロニーへ舞い戻って,現在の職に就いています。めちゃくちゃな人生航路のわりには,うまく乗り切ってきたと思っています。
 私が先天異常に興味を持ったのは,大学2年の時,元理学部附属染色体研究施設の故牧野佐次郎先生の,タイトルは忘れてしまったのですが,「染色体異常と先天異常」の本を読んだ時からです。先天異常と染色体異常について,ただ記載した本でした。こんなバカな! 本人に何の落度もないのに,なぜ,このような先天異常の子が,やすやすと生まれてしまうのだろうかと驚いてしまいました。先天異常を持った人は,どれだけ深いコンプレックスを持って生きているのだろうか? どれだけ孤独の淵で生きているのだろうか? 同じ人間の疾患なのに,なぜ人から奇異の目で見られ,時には差別されているのだろうか? 私の中に異常は存在しないのだろうか? 自分が先天異常だったら,どれほどのコンプレックスを持って生きていくのだろうか? こう云った恐怖がふつふつと沸き上がり,先天異常児・者と正面から向かい合えば,自分の虚無的な人生感を捨てられるのではないかと思いました。
 その頃,狸小路の映画館でたまたま上映していた「まごころを君に」を見て,強烈なインパクトを受けました。精神遅滞者が,いかに差別されているかを精神遅滞者の目から描いた映画でした。原本を読みたいと思っていましたが,見つかりませんでした。映画のラストの字幕スーパーから「Flower for Algeanon」(つづりが間違っているかも)と云うタイトルであることだけは記憶してました。約20年後,ダニエル・キース著「アルジャノンに花束を」が大ブレークしたことは,皆さんご承知のことと思います。今日,トリイ・ヘイデン著「シーラという子」(早川書房)を読み終ったところです。情緒障害児と幼児虐待に関する本です。現在,大ブレーク中とか。時々は,これらの本を読んで,原点に戻って,障害者の視点から仕事を見直すべきですね。ともすれば,現実の競争社会の中で,原点を忘れてしまいそうになってしまいますから。


妊娠42日のヒト胚子。
頭臀長14mm

 学部を卒業したら,先天異常学を研究している教室を探して大学院へ行くのが通常の人生コースでしょうが,私は,その頃,先天異常の人とのお付き合いがありませんでしたので,3年生の時に1年休学して八王子にある重度心身障害者施設で保夫として精神遅滞者の介護をしました。そのまま,退学して勤めようかと思ったのですが「あと1年だから,卒業しておいでよ」と施設の人に論されて,大学に戻って卒業しました。施設での1年は,私の人生にとって大きな意味を持ち,前向きに生きられるようになりました。その後,沢山の紆余曲折がありましたが,その度に原点に戻って人生の軌道を修正しながら今の職場にたどり着いています。まだまだ漂流して行くとは思いますが。
 今,勤めている京都大学の先天異常標本解析センターは,ヒトの胎児を全国から集め,世界的にも最大規模の標本を保有する施設で,国内外の研究者が利用しています。すでに4万体以上のヒトの胎児がホルマリンの中に保存されています。その中には多くの奇形胎児がいます。彼等に向かい合いながら,今,生きています。現在のメインテーマは,ヒトの先天異常と相同な疾患を持つマウスを使って,その発症のメカニズムを解析し,それをヒト先天異常の発症メカニズムに外挿する試みと,当センターに保存されている異常胎児の絨じゅう毛膜もうまくからDNAを抽出し,遺伝子疾患を見つけ出し,胎生期での発生異常の姿を明らかにしようという試みです。

後輩へのメッセージ
 できるだけ早く自分の人生のテーマを 見つけて,突っ走れ!!
 人生は,否応無くねじ曲げられる。その時は, 原点に戻って,やり直す勇気を持て!!

 

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