
学生の皆さんはキャンパス内外で様々な団体の勧誘に接していると思われるが、今回は「自己啓発セミナー」と呼ばれる団体について注意を喚起しておきたい。
自己啓発セミナーとは、カール・ロジャースのエンカウンター・グループ療法に端を発した心理療法が、アメリカのカウンターカルチャーであるHPM(human potential movement)と奇妙に結びついたものである。集団内の相互作用による共感、支持による癒し、示唆、介入による自己発見等を目的とする心理療法から、企業幹部候補生の訓練や自己の潜在能力の開発に力点を置いたビジネスまで裾野を広げた。日本で現在活動中のセミナー会社はアメリカの流れをくんだものが多い。1980,90年代に流行したが、現在衰退気味である。これらの会社は「自己啓発セミナー」という名称は使っておらず、それぞれの会社名で営業している。札幌にもある。
これらの会社が何をやっているかというと、ベーシックと呼ばれる二泊三日の合宿(通いもあり)で集団的心理療法とセミナーを行い、「自己発見」「本当の出会い」「生きる意味」等を実感的に考えるということである。料金7、8万円である。これが済むとアドバンスのセミナーがある。具体的に何が行われているかは、インターネットを使い、「自己啓発セミナー」で検索すればすぐ分かる。一つ紹介すると、北海道大学新聞会OBが主催するサイトhttp://member.nifty.ne.jp/jikokeihatu-seminar/が充実している。
筆者が自己啓発セミナーを問題だと思うのは、セミナーの心理療法的効果でも、セミナー料の額でもない。セミナーの受講生を使って新規顧客を開拓することである。街頭での勧誘、サークルやクラスの友人、職場の同僚への勧誘等、受講生は自分の感動を伝えようとするが、実際は集客マシーンとして利用されているにすぎない。ボランティアで参加しているスタッフもただ働きである。ここが宗教団体の信者による伝道・布教と似ている点であるし、対面販売で健康食品や日用品を売り、ボーナスポイントを稼ぐマルチ商法的なやり方と似ている点でもある。但し、セミナー参加者は欲ではなく、善意で動いているという点で信者の活動に近い。
セミナーの感動を持続させるためには、セミナーに繰り返し参加し続けるか、自分の回りを同じ感動体験を共有する参加者で固めるために、勧誘活動に勤しむしかない。学生の場合、参加費を稼ぐためにバイトを増やすか、大学で友人・知人を勧誘することに時間を費やすことになる。授業出席日数不足、クラスの友人との葛藤等、いい結果は出てこない。この点を筆者は心配している。
セミナーを洗脳体験、マインド・レイプとして批判する本もあるが、筆者の印象では、たかだか3日のセミナーで思想改造が行われるほど、人間は柔でない。また、3日で自己発見や能力開発ができるほど、人生甘くはない。セミナーで「癒し」を得るのは構わないが、セミナー空間を現実社会と錯覚してはいけない。ユートピアに安住することなく、矛盾に満ちた現実に直面し、少しでも改善するような地道な営みこそ必要ではないだろうか。
最後に一言。勧誘を断る勇気を持つこと。友人であれば、できれば、「そういうことをするのを考え直してみては。周りの教師や相談窓口に行ったら。」とアドバイスしてみてはどうだろうか。自分のことを真剣に心配してくれる人がいる、という事実に気づくことで目が覚める人もいる。