約60年前にカムチャッカ半島付近で,ロシア人研究者によって発見,新種発表された甲虫が,大学院農学研究科,昆虫体系学教室の丸山 宗利さんによって昨年,再発見されました。丸山さんは,このロシア人研究者の論文を99年春に入手,比較的カムチャッカ半島に近く,気候もやや似ている道東にもいるのではないかと考え,99年夏に調査を開始,浜中町で60年ぶりにその甲虫を発見したとのことです。 |
大学院農学研究科資源環境学専攻 博士後期課程1年 日本学術振興会特別研究員 丸山 宗利 | ![]() |
Q | 60年ぶりに発見された甲虫・ホテイウミハネカクシについて,生態等をご紹介ください。 |
A | ホテイウミハネカクシ(学名:Liparocephalus litoralis リパロケファルス・リトラリス)は,甲虫目・ハネカクシ科に属する体長4〜5mm程度の小さな昆虫です。この昆虫の生態に関することはまだよく判っていませんが,海岸の岩の下に住んでいて満潮時には岩の下に溜った空気で呼吸していると考えられます。腹部が大きく膨らんでいるので,七福人の布袋(ほてい)にちなみ,ホテイウミハネカクシという和名を提唱しました。 |
Q | 甲虫を探そうと思った経緯をご紹介ください。 |
A |
こういった海岸に生息するハネカクシ科甲虫(潮間帯性ハネカクシ)の研究は未開拓の分野で,北海道ではほとんど調査されていませんでした。そこで,当初の目的は,道内にどのような種類がいるかを徹底的に調査することにありました。今回は,ひょんなきっかけからロシアの論文を入手し,この甲虫を調査の一番の目的にしていました。 |
![]() ホテイウミハネカクシ |
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Q | 甲虫を発見された時の状況をお願いします。 |
A | 道東調査2回目の最終日,浜中町の藻散布という小さな漁村を最後の調査地と決め,夕方数時間探索しました。そして薄暗くなり,あきらめて帰ろうとした際に,ようやく発見することができました。見つけた瞬間,この甲虫であることがわかり,本当に驚き,歓喜しました。昆虫採取の醍醐味は,何と言っても,狙いをつけて見つけることにあり,その愉しみを強く実感したわけです。思わず「ヤッタ−!」。 |
Q | 甲虫の発見から論文が発行されるまでに,どのような作業をおこないましたか。 |
A | 韓国に潮間帯性ハネカクシの専門家であるアン・キジュンという研究者がいて,論文を書くにあたり,まずその人の意見を求めました。今回の論文では,この甲虫を改めて記載し直し,この甲虫が属する Liparocephalus属の種への検索表を作りました。論文完成後,共著者としてアン氏の名前を加え,昨年の2月にカナダ昆虫学会誌に投稿。約半年の審査を経て受理され,その年の11月に発行となりました。 |
Q | 今後,この甲虫についてどのような研究をされる予定ですか。 |
A | 潮間帯性ハネカクシの生息域は,護岸などがされていない自然のよく残った海岸に限られていますが,そういった場所が日本各地で消滅しつつあります。にもかかわらず研究は非常に遅れており,このままでは何も調べられぬままに絶滅するような種類があるでしょう。ですから,なるべく早く日本にいる種 類とそれらの分布の実態を調べ,基礎資料を作る必要があるのです。将来的には,この種類のみならず,日本産潮間帯性ハネカクシのモノグラフ(分類学的総まとめ)を作りたいと思っています。今年も春から調査へ出かけます。 |