拠点形成の背景と目的

 本拠点では、トポロジーという「分野を横断して適用可能な普遍的概念」を切り口にした革新的学問分野を構築します。ともすれば専門的に陥りやすい数理科学・物理工学・計測情報工学・物質科学・生命科学・経済学の各分野を有機的に(まさにトポロジカルに)連携させることにより、基礎と応用を真の意味で融合させた世界に例のない学際的研究教育拠点の形成を目指しています。
 トポロジーとは、「構造を連続変形したときの不変的性質を探る」学問であり、数学の一分野として生まれました。その概念は、一般相対性理論や量子論など、20世紀における科学の発展に重要な役割を担ってきました。また、最近、2重螺旋構造をもつDNA、液晶や超伝導体におけるトポロジカル欠陥の発見に伴い、トポロジーの概念の重要性は物質科学の分野においても認識されています。さらに、現在では臨界現象や非平衡相転移などを扱う複雑系、生命・経済・情報などのネットワーク、量子コンピューティングなどとも密接に関係していることが明らかになっています。
 しかし、多岐にわたる科学の分野を横断的・総合的に捉える試みはこれまでありませんでした。そこで、私達は、異分野の研究者が議論を交わすことのできる場として「エンレイソウの会」を平成11年に結成し、研究交流を行ってきました。このことは、メビウス結晶や8の字結晶の発見、粘菌ネットワークにおける知性の発見、トポロジカル欠陥の新しい秩序の発見、フラクトンの実証など、多くの独創的な研究成果として実を結んでいます。本COEプログラムでは、これらの研究実績と若手研究者の協力体制を基に、多様な科学における複雑現象(多自由度・非平衡・非線形・階層構造)をトポロジーの観点から統一的に理解すること、また、その帰結として得られる新しい原理をより広く科学の分野へ適用していくことを目指します。そして、北大発の新しい学問「トポロジー理工学」を創成したいと考えています。
図1:トポロジーの概念図


研究プロジェクトの概要

 本COEプログラムでは、以下の4つのプロジェクトが連携して、研究を遂行します。

A.トポロジカル物質創製プロジェクト
 メビウス結晶に代表される大局的特異トポロジーを持つ新物質を創製し、幾何学的位相が織り成す新現象の発見を目指します。特に、リング超伝導体における電子波干渉実験を通してジオメトリー効果を解明し、Dプロジェクトと連携してトポロジカル・デバイスの開発を試みます。また、種々の物質におけるトポロジカル欠陥秩序とそのダイナミクスの研究も行います。

B.臨界的トポロジー理工学研究プロジェクト
 物理現象、生命現象、および社会現象など様々な非平衡・非線形複雑現象において、多くの系は自己組織的に臨界へと推移します。このメカニズムをトポロジーの観点から理解し、臨界系トポロジー構造を定量解析する手法を確立します。また、臨界性とトポロジーとの間の関係を主に理論的に解明します。

C.生命系トポロジー理工学研究プロジェクト
 生物組織における種々のネットワークのトポロジー構造を解明し、生体組織異常とトポロジーの関係を明らかにします。また、Dプロジェクトと連携して異常組織の可視化技術の基礎を構築します。さらに、粘菌ネットワークにおける空間トポロジーにおける空間トポロジー認識のメカニズムを解明します。


D.トポロジー関連新技術開発プロジェクト
 「トポロジー理工学」研究の基本ツールとなる新しい加工技術・測定技術・解析技術の開発を行います。また、これらの技術を用いてA・B・Cプロジェクトで得られた新知見の検証を行います。とくに、レーザーを使った生体組織におけるネットワーク構造の可視化技術を開発します。

図2:トポロジー理工学の構成


人材育成・教育プログラム

 トポロジー理工学を創成し世界に発信するためには、広範な学問分野をトポロジーという観点から横断的に見渡せる能力を有し、高い国際性と強力なリーダーシップをもつ人材を育成する必要があります。基礎科学と工学を融合し、狭い専門分野に偏重することなく広い視野を持って研究を推進できるような人材を育成することが、本COEの大きな目標の1つです。そのため、世界にさきがけた系統的トポロジー理工学教育システムの構築を目指します。学生教育プログラムとして、理工学・医学・経済学にわたる幅広いテーマをトポロジーの観点から俯瞰するトポロジー理工学関連科目を開講します。また、国際化推進プログラムとして、海外の著名な研究者を招聘し、国際会議や研究集会を開催すると共に、海外の共同研究機関との連携を強化し、交換研究学生の支援を行います。大学院生による独自な研究テーマの設定・研究会の主催を支援するなど、研究活動におけるリーダーシップを養成するプログラムを設けています。さらに、独創的研究プロジェクトへの公募を通して若手研究者の本事業への参加を奨励しています。
図3:本拠点が目指すもの