明けましておめでとうございます。
本学の教育研究および管理運営に尽力されている教職員の皆さま,本学で学ぶ学生の皆さま,諸外国から本学を訪れ研究・学修に励んでいる研究者および留学生の皆さま,そして,日頃それぞれの場で本学の活動にご支援いただいている皆さまにとりまして,新たなる年が希望と活力に満ちた年でありますよう心から祈念しております。
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総長 中 村 睦 男 |
戦争と殺戮(さつりく)が絶えなかった20世紀から,異なった言語,文化,宗教を持った人々の共生を求める21世紀へという願いもむなしく,去る2001年は,世界を震撼(しんかん)させた大規模なテロ行為とそれに続く武力行使によって新しい世紀を迎えました。憲法前文でいう「平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼する」だけで事足りるのか,という問題が改めて問われていることは確かです。しかしながら,学問の府にある私どもにとっては,地球社会に多様に存在する異なった文化,宗教,民族の存在を理解し,留学生や外国人研究者との人間的な交流によって異文化理解を深めていくとともに,テロや戦争によらない国際紛争解決の手段を学問的に追究することによって平和の創造に寄与していくことが,国民から負託された重要な任務であると考えております。
私どもは,昨年創基125周年を祝うなかで,125年の歴史で培ってきた「開拓者精神」,「全人教育」,「国際性の涵養(かんよう)」,「実学の重視」といった教育研究の理念を改めて確認するとともに,これらの教育研究の理念に今日的な意味を付与して行かなければならないことを表明してきました。年頭に当たり,基本理念の新たな具体化に向けた全学的な取り組みのうち,特に教育研究環境の整備に関する4点を取り上げ,現況と展望についてお話ししたいと思います。
まず第1に,創成科学研究機構の設置計画概要が,昨年6月より設置検討委員会での10回に及ぶ審議を経て,昨年12月の評議会で了承され,具体化に向けての第一歩を踏み出すことができました。最初にこの問題に取り組んだ平成12年3月設置の未来戦略検討ワーキンググループ,平成13年1月設置の創成科学研究機構検討ワーキンググループ,そして今回の設置検討委員会に関係された教職員の皆さまのご苦労に心から感謝申し上げます。創成科学研究機構の設置によって,旧来の学問体系を超える研究領域の創成を目指した研究を推進するとともに,中長期的な視野で部局横断的な研究体制を確立することが可能になると考えております。幸い平成13年度第2次補正予算と平成14年度予算によって,創成科学研究棟や電子科学研究所附属のナノテクノロジー研究センターの建設が認められ,研究推進の基盤となる環境が整備されることになりました。
第2に,大型計算機センターと情報メディア教育研究総合センターを発展的に統合するとともに,本学の情報インフラを支えるための情報基盤センターの設置については,「北海道大学情報基盤センター(仮称)」の設置構想が昨年10月の評議会で了承され,具体化に向け設置検討委員会を設けて検討を行っているところであります。
第3に,昨年9月に設置された将来構想ワーキンググループは,大学院研究科の再編を当面の課題として,本学の教育研究組織のあり方の検討を始めており,現在,教育組織と教官所属組織の分離を中心とする学院・研究院構想について,各部局の意見を聴取しながら,検討を進めているところであります。大学院重点化を実現した本学においては,世界水準の研究の推進と並んで,社会に有為な人材の高度な養成が重要な任務であり,学ぶ者の視点に立った魅力のある大学院改革を進めていただきたいと考えております。
第4に,情報学を基盤として,自然科学,人文社会科学,人間福祉科学等の分野の活動を総合的にデザインし,新たな学問分野ならびに文化活動および経済活動を創出できる人材を養成すべくワーキンググループで鋭意検討されている「情報学フロンティア研究科(仮称)」設置構想の検討状況は,12月の評議会で報告されましたが,引き続き関係部局との調整を図るとともに大学院再編構想をも視野に入れて,文理融合型の新しい大学院組織の実現に向けて検討を進めていきたいと考えております。
深刻な経済的不況と財政赤字の下での平成14年度予算の政府案は,これまでにない緊縮型でありますが,科学技術振興費は前年度比5.8パーセント増と予算項目のなかで最大の伸びであり,大学にとって大いなる追い風となっています。また,国立大学の施設も,昨年3月に閣議決定された「科学技術基本計画」において,大学施設の老朽化・狭隘(きようあい)化の改善が国の最重要課題として位置づけられたことに伴い,文部科学省が「国立大学等施設緊急整備5か年計画」を策定し,この5か年計画に基づいて,本学でも,平成13年度第2次補正予算および平成14年度予算で,研究棟の新設や改修が例年になく大幅に認められました。先に述べました創成科学研究棟,ナノテクノロジー研究センターのほか,農学研究科の総合研究棟,次世代ポストゲノム研究実験棟の新設,理学研究科,工学研究科,高等教育機能開発総合センター,触媒化学研究センター研究棟の改修など,本学の施設の老朽化・狭隘(きようあい)化の改善が図られることになります。
このような科学技術振興と人材育成への国民からの負託に応えるべく,私どもは,日々の教育研究活動に一層の努力を積み重ねていくことはもとより,研究成果の社会への還元にも積極的に取り組んでいく必要があると考えます。これらの活動を通じて心も物も真に豊かな社会を実現することによってこそ,揺るぐことのない平和の創造に寄与できるという思いを,新しい年の始めに当たって新たにしている次第であります。
最後に,新渡戸稲造先生夫妻の遠友夜学校の精神を受け継いで創基125周年記念募金の浄財で建設された遠友学舎を,学生,教職員,同窓生,市民の交流の場として活用していくことをお願いします。広く社会に開かれた大学を目指し,1月から8月まで,総長,副学長および総長補佐の専門を異にする16名が,普段研究していることを,市民や高校生・学生の皆さまに聞いて貰うために,「総長室炉辺談話 2002」を遠友学舎行事として開催します。今年は,本学の構成員各層,各グループからいろいろな企画が出されることを期待しております。
2002年がすべての人々にとって実り多い年でありますことを念願して,年頭のあいさつを結びたいと思います。
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