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学士院会員に名誉教授 四方英四郎氏

 本学名誉教授 四方英四郎氏(植物病理学)は,平成13年12月12日に日本学士院の新会員に選ばれました。
 現在本学からは,石塚喜明名誉教授(農芸化学),高橋萬右衛門名誉教授(育種学),故今村成和名誉教授(行政法理論),横山泉名誉教授(地球物理学)に続き5人目となります。
 四方名誉教授のおことばと功績等を紹介します。

(農学研究科・農学部)
 
○四 方 英四郎(しかた えいしろう) 氏 四 方 英四郎(しかたえいしろう) 氏
 此の度はからずも日本学士院会員に選定されました。これも偏(ひとえ)に元会員故平塚直秀先生,現会員石塚喜明先生,高橋萬右衛門先生など農学部の諸先輩の御高配によるものと深く感謝申し上げる次第です。
 北大農学部に進学して,宮部金吾,伊藤誠哉,木原均,福士貞吉,平塚直秀の諸先生が日本学士院会員として活躍されているのを身近に拝しながら学んで来た者として,今回その驥尾(きび)に付す栄を頂きましたことは,誠に身に余る光栄と存じます。北大の永い歴史の中で多くの優れた師と学友に恵まれて今日に至りましたことを心から御礼申し上げます。今年は自然科学部門(第2部)にノーベル賞の白川秀樹筑波大名誉教授を含め4名の選定でしたが,各界の碩学(せきがく)に伍(ご)して些(いささ)かでも我が国の学術の振興に資することが出来れば幸いであります。
 北大125周年に農学部は宮部金吾博士を語るシンポジウムを開催され,私は「金吾は内村,新渡戸,廣井らと協力して,札幌に北のアテネ,学術と文化のセンターを創造したいと壮大な抱負を婚約者(後の夫人)に書き送っています。生涯を学問と信仰に徹し,北辺の植物研究によって世界にその名を顕(あらわ)わし,まさに創成期北大の研究基盤を築き,当大学の学問の象徴的学究である」と語りました。
 系譜の伊藤誠哉は日本菌類誌を著すと共に,稲作後進地の北海道に於いてその防除法を確立して本道の稲作を安定させ,本邦の病害防除上歴史的成果を挙げました。後を継ぐ福士貞吉は本道に発生しない稲萎縮病の虫媒伝染を研究して世界を瞠目(どうもく)させましたが,北海道の馬鈴薯ウイルス病の研究により本邦の健全種子馬鈴薯生産に多大の貢献をされました。私の卒業論文に始まった植物ウイルスの電子顕微鏡的研究と,稲ウイルス病の研究も北海道との接点は少なくなかったのですが,馬鈴薯,豆類,ホップなどの北海道の作物ウイルス病の研究に多くの時間を費やして来たのも,師の教えの賜物(たまもの)であろうかと思います。
 北海道グリーンバイオ研究所は,本道の農業関係者が熱望して,各県に先じて立ち上げた農業に関する先端的研究を目指す第三セクターの研究所であります。私が今この研究所に居るのも,この様な北大の学問的底流の一環であるように感じます。昨今の自然科学研究の急激な進展と広範な展開を考えますと,北海道にとって北大の果たす役割は重く,また私どもの期待する所も大であります。北大は北海道の将来を担っていることを自覚して戴き,北海道の素材を活用して世界に雄飛した先達に学び,それを越える研究,教育の場となることを切に期待しています。
略  歴  等
生 年 月 日大正15年(1926年)9月25日
出    身函館市
昭和25年3月北海道大学農学部農業生物学科植物学専攻課程卒業
昭和25年12月北海道大学助手(農学部)
昭和33年4月北海道大学助教授(農学部)
昭和36年10月農学博士
昭和48年4月日本電子顕微鏡学会理事(昭和50年3月退任)
昭和49年7月北海道大学教授(植物ウイルス病学,菌学講座担当)
昭和61年6月植物ウイルス及びウイロイドの研究に対し,日本学士院賞
昭和63年4月日本植物病理学会会長(平成元年6月退任)
平成2年4月北海道大学名誉教授
平成7年4月(株)北海道グリーンバイオ研究所取締役所長
平成13年12月現在に至る
功  績  等
 四方英四郎氏は,植物病理学とりわけ植物ウイルス学の分野で,多大な研究成果をあげられるとともに,国内外の学会の発展にも努められ,日本植物病理学会長を歴任されました。
 同氏は,植物ウイルスの電子顕微鏡的研究で先駆的な成果をあげました。イネ萎縮ウイルス粒子をはじめとして多くの植物ウイルスの,形態或いは超微構造をはじめて明らかにしています。これらは,電子顕微鏡を用いて,植物ウイルス病原の実体を明らかにした,世界的に先駆的な研究であり,植物病原学に大きく貢献しました。さらに,媒介虫増殖型植物ウイルスの昆虫と植物宿主細胞内所在様式を明らかにして,虫体内増殖を明確に証明しました。これら一連の研究は世界的に高く評価されております。
 以上のように同氏は,本邦のみならず世界の植物ウイルス研究上先駆的な成果をあげ,とくに虫媒性植物ウイルスに関しては,諸外国の追随を許さぬ広範な研究をなし遂げております。虫媒性植物ウイルスや植物ウイルスの電子顕微鏡的研究,イネウイルス病等に関する多くの国際的研究集会に招へいされて,その成果を発表あるいは講演を行い,或いは諸外国の大学,研究所に招へいされて共同研究,研究指導,講義等を行っております。同氏の研究によって,本邦の植物ウイルスの電子顕微鏡的研究が急速に盛んとなりましたが,同氏は常にその指導的立場にあって大きな貢献をしました。
 同氏は,また本邦で初めてウイロイド病を発見しました。ホップより分離されたこのウイロイドの分子構造を決定して,これが新種であることを明らかにし,さらに発展させて,世界中の多くの果樹に同種のウイロイド病があることを示すなど,優れた業績を残しました。
 さらに,ウイルス・ウイロイド病の診断法の開発にも取り組みました。ELISA(Enzyme-Linked Immuno-Sorbent Assay)をいち早くジャガイモウイルス病の診断に取り入れ,従来血清検定が利用できなかったジャガイモ葉巻ウイルスをはじめ,多くのウイルスの検出が可能となったことを示しました。そのほかに,核酸プローブによるハイブリダイゼーションやPCRによるウイルス遺伝子の検出法を応用して,現在の植物ウイルス・ウイロイド遺伝子診断法を確立し,それの実用化に努めて,農業上も大きく貢献しました。