総長メッセージ
国立大学法人移行への準備にあたって
総長 中村 睦男
国立大学協会は,去る4月19日に開催された臨時総会で,国立大学の法人化の基本制度をまとめた文部科学省調査検討会議の最終報告を承認し,最終報告の制度設計に沿って,法人化の制度設計に入ることを決定しました。
法人化の準備に入るために,国立大学協会のなかに二つの特別委員会が設置されています。一つは,国立大学法人化特別委員会(石 弘光委員長)で,国の法制化の作業はもとより,就業規則の作成,事務系職員の採用,人事交流など人事関係の指針の策定,財務会計関係の指針の策定に対して,国立大学側の意見を適切に反映させるために設けられたものであります。会長,副会長,常置委員会委員長の12名の学長メンバーに,法学者,経済学者,事務局長による10名の専門委員が加わり,現在精力的に作業を行っているところであります。もう一つは,国立大学協会の在り方検討特別委員会(松尾 稔委員長)で,国立大学協会の構成員である各国立大学が法人格を取得して独立の存在になることに伴い,新しい連合組織の理念や担うべき役割・機能を検討する委員会であります。会長,副会長,各地区を代表する学長,専門委員の11名のメンバーで構成され,新しい連合組織の基本設計を11月の総会に提出すべく検討を行っています。国立大学に共通する指針の作成,事務系職員の採用と人事交流,経営や労使関係問題への支援,国の高等教育政策への発言,政策集団としての機能など,新しい連合組織の役割・機能は,現在よりかなり大きくなることが論じられています。
法人化の受け入れにあたっての国立大学協会の基本的な考え方は,今年4月1日に国立大学協会設置形態検討特別委員会により作成された最終報告の検討結果および4月19日の臨時総会に提出された国立大学協会会長談話に表れています。
設置形態検討特別委員会の検討結果では,最終報告の法人像は,全体として,「国立大学法人法による法人化,国を設置者・経費負担者とすること,大学と法人一体の組織,教学経営の双方に配慮した運営組織,大学業務の特性を尊重した中期目標・中期計画,外部意見を入れた学長選考制度,さらには柔軟な人事制度等において」,「基本的に国の経費で教育研究等を行う開かれた自主・自律の責任組織となっており,国立大学におおむね適合的な法人像になっている」という評価になっております。また,会長談話では,中間報告から改善のあった点として,中期目標は,「文部科学大臣が定めるとはいえ,大学側がその基本的な目標に基づいて提出した原案を十分尊重して定めるための制度的な担保が加えられている。また,法人の責任者である学長も,学内の選考機関における選考を経た者について文部科学大臣が任命するなど,大学の意向を尊重するとしている。さらに,組織業務,人事制度においては,多くの重要な部分は実質的に各大学の規則レベルに委ねられることになった」と述べています。そのうえで,「これらは,法人化が大学の自主性・自律性の発揮をねらいとしている主旨からして,妥当なものである」と評価しています。
もとより,最終報告の法人像に問題点や懸念があることは否定できません。設置形態検討特別委員会の検討結果は,「とくに職員身分の非公務員型については,環境整備や法的整備などの点で多くの検討課題があり,また,財務会計制度の財政的基盤を確保する方式や運営費交付金の積算・配分方式等が依然不明である」ことを指摘しています。また,会長談話は,「特に法人化後においてはもちろん,移行に際しても,各国立大学の意向と自主性・自律性を十分に尊重し,各大学が個性の輝く大学としてより良い発展をするよう,財政面を含め支援の充実を強く要請する」としております。
4月19日の臨時総会では,一部の学長からの異論がありましたが,多数の賛成で最終報告による国立大学の法人化の受け入れが承認されました。私も国立大学協会の基本的な考え方を支持し,賛成いたしました。
以上のような経緯による国立大学協会の法人化の受け入れとその後の国および国立大学協会での法人化作業の進捗状況を踏まえて,本学としても北海道大学法人移行準備委員会を設置して,法人移行への準備作業を始めることにしました。現在,国立大学の教育,研究および社会貢献に対する社会からの要望が強く出されており,法人化をこのような社会からの要望に応え,本学を大きく発展させる契機にしたいと考えています。当面は,学問の府としての大学の特性を尊重した国立大学法人の法制化が実現されるよう努力をはらっていく必要があります。しかし同時に,法制化のなかで,教育研究の内容や組織運営の実際が大学の大幅な裁量に委ねられるのは当然ですので,学問の自由と大学の自治の精神に則った運用を図るための準備作業を,大学として独自に進めることが大事であると考えております。
全学の教職員ならびに学生の皆さまにあっては,国立大学法人設置に向けての準備作業の趣旨を十分理解され,北海道大学が,建学以来培ってきた「フロンティア精神」,「全人教育」,「国際性の涵養」および「実学の重視」という教育研究の理念を継承し,21世紀の世界で個性輝く大学になるような制度設計を行うためにご協力下さるようお願いいたします。
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