訃報
名誉教授 片岡 隆四(かたおかたかし) 氏(享年81歳)
名誉教授 片岡 隆四(かたおかたかし) 氏(享年81歳)

 名誉教授 片岡隆四氏は,入院加療中のところ平成14年6月7日午前2時7分,御逝去されました。ここに,先生の生前の御功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
 同氏は,大正11年5月14日,兵庫県城崎町に生まれ,昭和20年9月に東京帝国大学農学部農業土木学科を卒業された後,直ちに母校の助手に採用されました。翌21年1月には盛岡農林専門学校に新設された農業土木学科の講師に転任され,22年12月,同校の教授に昇任されました。その後の学制改革に伴って同校は岩手大学となり,同氏はひきつづき昭和25年9月に農学部助教授,38年3月より教授として教育研究にたずさわられ,昭和45年3月には「カンガイ水温の特性と上昇に関する研究」により北海道大学より農学博士の学位を授与されました。昭和45年4月,北海道大学農学部教授として転任され,昭和61年3月に停年で退官されるまでの16年間,農学部農業工学科土地改良学講座を担当されたのち,同年4月に北海道大学名誉教授の称号を授与されました。
 同氏は一貫して農業土木学,農業水利学に関する研究に従事され,東北,北海道といった寒冷地をフィールドとされたこともあって,とくに水田灌漑水温に関する研究を推進されました。水田水温は気象条件のほかに水田への流入水量,湛水深,灌漑方法などの水利条件に影響され,時刻や場所によって異なります。従来は,水田水温を特定点で代表させることが多かったのですが,実態にはそぐわない点がありました。そこで同氏は,水田湛水に対して流入水の押出し2次元流を仮定したモデル化を試み,流入水塊の熱量をシミュレートして実態との検証を行い,モデルの有効性を確認しました。
 また,水田用水送水施設規模は灌漑期間中の必要最大水量に支配され,代掻き期,又は深水期のピーク用水量に相当します。しかし,水田減反対策,それに伴うスプロール化,品種や栽培様式の変化,機械化の進展,汎用農地化などに応じて,送水施設の機能を見直さざるを得ない状況が発生してきた中で,従来の施設を活用し,水資源を有効に利用する計画と水管理に関して研究をすすめ,多くの成果をあげられました。
 学内においては,農学部農業工学科土地改良学講座にあって学生,大学院生の教育指導に当たられ,農林水産省,都道府県,試験研究機関,実業界に幾多の人材を送り出し,斯界の発展におおきく寄与されました。また学外にあっては,農業土木学会理事,同北海道支部長,学術審議会専門委員として専門分野の発展に尽力されるとともに,岩手大学,帯広畜産大学の非常勤講師をながく務められ,学生教育はもとより大学間交流にも尽くされました。
 北海道においては,土地改良事業調査計画非常勤調査員,土地改良事業計画に関する専門技術者,総合開発委員会委員,開拓審議会委員等として参画し,地域社会に貢献されました。
 停年退官後は,請われて(株)フロンティア技研の技術顧問に就任され,御専門であった農業水利構造物の実験,解析に関する指導にたずさわり,情熱を持ち続けられました。
 以上のような研究,教育を通じて農業と社会の発展に多大の功績を重ねられたことに対し,平成10年には勲三等旭日中綬賞をお受けになられました。
 先生の真摯な研究姿勢と教育への情熱は終生変わることはありませんでした。先生の御遺志は後輩,卒業生に受け継がれることと確信しています。
 ここに,先生の御冥福を心よりお祈り申し上げます。

(農学研究科・農学部)