名誉教授 工学博士 足達富士夫氏は,病気療養中のところ平成14年6月24日(月)午後10時25分に急性肺炎にて穏やかに息を引き取られ,奥様のもとへ旅立たれました。ここに,先生の生前の御功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
同氏は,昭和7年京都府竹野郡網野町に生まれ,昭和30年3月京都大学工学部建築学科を卒業し,昭和32年3月同大学大学院工学研究科建築学専攻修士課程を修了し,同年4月日本住宅公団(現・都市基盤整備公団)に勤務されました。昭和38年3月同公団を退職し,同年4月奈良女子大学講師(家政学部)に採用され,昭和40年6月助教授に昇任されました。昭和49年3月北海道大学教授に昇任,同年4月より新設された工学部建築工学科住居地計画学講座を担当,昭和61年4月から平成4年3月まで本学大学院環境科学研究科において協力講座の教授として,授業を担当し,住居計画・都市計画の分野の発展に努力され,平成7年3月に停年退官されました。同年4月より請われて福山大学工学部教授に就任され,教育と研究に専念されたほか,大学院博士課程設置に尽力され,建築学科長などの学務にも貢献し,本年3月に定年退職されました。
同氏は,昭和38年から同49年までの奈良女子大学においては住居学を中心とする住環境計画関連の講義,演習を担当され,この間,昭和39年10月から同49年3月まで京都工芸繊維大学非常勤講師を併任,昭和47年4月から同年10月まで和歌山大学教育学部非常勤講師を併任されました。昭和49年以降の本学在職中,学部においては住居計画第一,同第二,計画・設計演習第一,同第三,建築学ゼミナール第一など,大学院工学研究科においては住環境計画特論,設計特別演習第一,同第三,計画学特別ゼミナール第三,計画学特別講義第三,計画学特別研究第三などの講義・演習を担当されるとともに学部学生及び大学院生の研究指導に当たり,多くの研究者・計画等実務者・行政担当者などの育成に努力されました。平成7年3月の停年退官時に,北海道大学名誉教授の称号を授与されました。
研究面では,京都大学大学院在学時代から西山卯三教授の指導の下で住宅・住環境の計画に関する研究を行われ,日本住宅公団在職時には住宅計画の実践面での経験を積まれ,奈良女子大学ではこれらを踏まえて,本格的な研究活動に入られました。昭和45年11月には住環境計画の新しい視点としての景観の側面から,「地域景観の計画に関する研究」により京都大学から工学博士の学位を授与されました。この論文は地域景観の計画に関して景観が生活環境にもつ意味,景観計画の枠組み,特に歴史的景観を中心にわが国近代の景観思想の展開とその特色,景観規制制度の体系とその運用実態の解明と課題,具体事例に即した計画手法のスタディ等について,理論的実証的に考察したものであります。この論文で1973年度日本建築学会賞(論文部門)を受賞され,景観計画研究者としての中心的な地位を不動のものとされました。その後,奈良県今井町や本道をはじめ各地の景観整備に関する調査研究や整備構想の提案や著作に活躍しておられました。また,住宅に関しては北海道大学へ赴任以来本道の地方特性に着目され,横山尊雄教授らと北海道の農村住宅の調査研究(これは後に時系列研究としてその変貌動向を追うという新しい研究方法の視点を拓くことになります)を皮切りに,地域の住宅の主として住様式・住空間構成・住宅計画の面で精力的な研究を始められました。この成果は昭和57年5月に,わが国初めての現代住宅の地方性に関する研究書「北海道の住宅と住様式」として,講座内の研究者のみならず道内の主要な住宅関連研究者を指導し,まとめあげられました。その後も,積雪寒冷地の住空間構成や住宅計画に関する研究を進めるとともに,後進の研究指導にも熱心に取り組まれました。また,その研究対象範囲は道内のみならず,高知等の温暖地の住宅との比較研究,さらに同じ積雪地域でも異なった条件にある北陸・東北地方の住宅との計画面での比較研究を行われ,住宅計画の側面での研究貢献も多大であります。これらを踏まえて平成2年2月に北海道大学図書刊行会より「北の住まいと街並」を著され,平成4年3月に1991年度日本都市学会奥井賞を受賞されました。また,平成4年度北海道大学放送教育委員会委員として北海道大学放送講座「北海道の住まい」の講師を努められるとともに,全体の企画立案とテキスト「北海道の住まい−環境の豊かさを生かす」の執筆を分担されました。この内容は単なる防寒技術の解説ではなく,自然環境の特色を生かす生活様式の提案に力点がおかれ,これまでの研究成果をふんだんに取り入れたものであります。さらに,「建築教材・雪と寒さと生活」(彰国社,共著)と,農村住宅研究のひとつの集大成であります「北海道農村住宅変貌史の研究」(北海道大学図書刊行会,共著)も平成7年3月に出版されました。
学内においては,大学院環境科学研究科の協力講座教授としてその運営や研究に貢献され,工学部では図書委員長をはじめ多くの委員を歴任され,機構改革推進委員会の初代のカリキュラム委員として社会工学系・建築工学科の学部カリキュラムの基本づくりに貢献されました。
学外においては,日本建築学会評議員,同北海道支部長,北海道都市学会理事,同会長,日本生活学会評議員など,建築学・都市学・生活学関連の学協会の役員及び学術審議会専門委員を歴任され,学術の発展に大いに寄与されるとともに,北海道住宅対策審議会委員,札幌市住宅対策協議会副会長,北海道開発審査会委員,札幌市景観委員会会長,札幌市屋外広告物審議会委員,北海道文化財保護審議会委員,北海道屋外広告物審議会委員,函館市都市景観委員会委員,北海道都市景観委員会会長なども歴任され,地域の住環境政策検討などに重要な貢献をされました。
このように,学生の教育,学術研究の発展,本学の運営並びに地域の住環境計画などの面で地域社会に対する多大な貢献をされました同氏を失ったことは痛恨の極みであります。
ここに,同氏の御冥福を心よりお祈り申し上げます。
(工学研究科・工学部)
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