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大泰司教授を代表とする研究グループが日韓国際環境賞を受賞

 11月14日(木),「北の海の動物センター」が日韓国際環境賞を受賞しました。
 本学獣医学研究科大泰司教授を代表とする「北の海の動物センター」は,1985年に設立された北海道大学北方四島グループを前身とするNPO法人で,大泰司教授を中心に本学獣医学研究科,水産科学研究科,北方生物圏フィールド科学センターの研究者が多く参加しております。大泰司教授を中心とする研究グループは,99年から4年間で5回の現地調査を行っています。
 このたびの受賞に当たって同氏の研究活動と今後の抱負を紹介します。

(獣医学研究科・獣医学部)

〜受賞に当たって〜
大泰司 紀 之(
おおたいのりゆき) 氏
<研究活動>

大泰司 紀 之(おおたいしのりゆき) 氏 地球上で最後まで残された調査の空白地帯;「北方四島」を調査したいと思い始めたのは,30年前,後に「知床の動物−原生的自然環境下の脊椎動物群集とその保護」(1998年,北大図書刊行会,394pp.)としてまとめた,知床半島の調査の時である。対岸に横たわる国後島を眺めては,「いつかきっと……」と,戦前の資料を集めたり,衛星画像の解析を進めたりしていた。
 ビザなし交流が1992年に始まっても,しばらく調査に入れなかったが,1999年から「専門家交流」として可能となり,まず北海道新聞社主催の「択捉島ラッコ専門家交流」で団長を務めた。それ以来,2000年には文部省科研費,2001年には北大総長裁量経費と日本財団の助成金で2回,2002年には同財団とWWFなどの助成金によって,総合的な生態調査を4年間継続することができた。
 鯨類と海鳥類の調査は,沿岸約3〜12マイルを母船(約500トン)でジグザグに航行し,上甲板からセンサスを行って,種ごとの密度を算定した。沿岸性のアザラシ類やラッコ,海鳥の営巣などについては,小型船(約50トン)を岸寄りに航行させて全数を数えた。さらに小型ボートを使ってアザラシの移動を調べるための標識付けや,潜水による海藻の調査などを実施。母船からは,プランクトンや海水の物理化学的調査も行っている。
 陸では,特定の地域で数日間野営し,ヒグマなどの哺乳類,鳥類,淡水魚類,植物などの密度や分布などを調査。衛星画像の解析とあわせて,植生やプランクトンの季節的変動なども調べている。
 これまでの調査で,北方四島周辺の海域は,流氷が世界で最も南まで発達することや,おそらく深層水の湧昇によって,莫大なプランクトンが長期間発生し,それを求めて暖流・寒流の双方から魚類が集まり,さらに海獣類や海鳥類が巨大な食物連鎖のピラミッドを形成し,極めて生物多様性に富んでいることが判明した。
 今回の受賞は,「高い技術に裏付けられた多角的なアプローチで,日本とロシア,米国などが連携する海洋生態系の研究と保全体制の確立に向け,提言性のある新しいタイプの実践」として,審査した全委員の一致で選ばれた。
〈今後の抱負>
 北方四島の調査では,「日露双方の立場を害さない」ことが求められ,さらに船をチャーターする必要があるため,極めてコストがかかる。しかも年に1,2度,1〜2週間と,短期間しか実施できない。季節ごとのセンサスや,繁殖期間を通しての調査などは不可能である。
 そこでわれわれは,日露間で1999年に設置された「国境画定委員会」と「共同経済活動委員会」に並ぶ形で,「共同自然保護活動委員会」の設置を要望し,長期間自由度の高い調査ができるよう,外務省や内閣府などに要請している。今年8月に札幌で行われた外務省のタウンミーティングで,私たちは「共同自然保護活動委員会」の必要性について質問した。川口順子外相は「北方四島が世界的に貴重な野生動物の楽園となっていることは承知している」と述べた。我々の調査の結果も生かして,ロシアとの交渉に臨まれるよう願っている。
 環境省は,更新版の「生物多様性国家戦略」で,海域も含めた生物多様性の保全と水産物の持続的利用を提唱している。日本の陸地面積は38万平方キロメートルしかないが,領海と排他的経済水域を合わせると,海の面積は陸の12倍あり,ロシアをしのぐ世界6位の面積をもつ。しかも亜寒帯から亜熱帯におよぶ世界で最も生物多様性に富んだ海域である。北方四島は,その最北端にある原生的野生動物群集として,十全な保全が求められている。
 しかしソ連崩壊後,保護区の監視体制が崩れ,密漁や密猟が激化している。すでにカニやウニなどの水産物は枯渇寸前であり,さらに,収奪的で,海獣・海鳥などの野生動物を絶滅に追いやる漁法も導入されつつある。
 そうした中,木村汎・元北大教授は「プーチン大統領は2004〜2008年にかけて北方四島を日本に返還する可能性がある」と指摘している。とすれば,返還後にこのかけがえのない生態系をどういう形で保全していくかについて,早急に提示しておく必要がある。それには,経済活動との共生も視野に入れる必要があり,その鍵は,「エコツアー」にあると考えている。
 これまでの調査によって,北方四島の動物群集の構成や密度,生態系の概要は明らかとなった。今後さらに,北大は博物学の伝統を生かし,先端的な機材も駆使して,世界に誇れる北方四島保全計画立案の拠点になる必要がある。

50トンの小型調査船のそばに現れたシャチの群れ
50トンの小型調査船のそばに現れたシャチの群れ
ゴマフアザラシとゼニガタアザラシの群れ
ゴマフアザラシとゼニガタアザラシの群れ
エトピリカ
エトピリカ
現地調査団集合写真
現地調査団集合写真
航路図
航路図
保護区
保護区