訃報
名誉教授 深澤 正一(ふかざわしよういち) 氏(享年90歳)
名誉教授 深澤 正一(ふかざわしよういち) 氏(享年90歳)

 名誉教授 工学博士 深澤正一氏は,病気療養中のところ平成14年11月18日午後2時45分急性肺炎のため逝去されました。ここに,同氏の生前の御功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
 同氏は,大正元年11月15日北海道旭川市に生まれ,昭和13年9月北海道帝国大学工学部機械工学科を卒業し,同年10月北海道帝国大学工学部副手を嘱託され,同機械工学科熱機関研究室に勤務,同15年10月助教授に任ぜられました。同36年4月教授に昇任され,燃焼工学講座を担当されました。また,昭和41年4月から同45年12月までは熱機関学第二講座を兼担されました。昭和51年4月同大学を停年退官され,同月北海道大学名誉教授の称号を授与されました。
 北海道大学退官後は昭和51年4月北海道工業大学教授に就任され,昭和59年3月同大学を退職されました。
 この間,永年にわたって北海道大学においては主として内燃機関工学,自動車工学および燃焼工学を講じ,学生の教育と研究指導を行われました。また,内燃機関における燃焼の研究に力を注ぎ,特に燃焼解析と有害排出物に関して独創的な数多くの研究を行い,この分野の研究の発展に大きく貢献されました。
 研究業績としては,奉職以来,ディーゼル機関における低温始動性および各種燃料の燃焼性に関する研究に力を注がれました。当時未知であった冷始動時における着火機構を究明するために,中間酸化物の生成挙動を詳細に観察し,また,各種補助燃料の吸入の効果を解析し,自発着火過程におぼす前炎反応の作用を解明されました。
 さらに,始動性能の向上をはかるため,吸気絞り法などの補助方法を提案されました。ディーゼル機関の低温始動に関する問題は現在なお,我が国ばかりでなく,北米,北欧,ロシアなど寒冷地において重要な課題であります。同氏の御研究は,この方面の研究発展の先駆をなすものであり,昭和36年3月,「ディーゼル機関の低温始動について」と題する論文によって,北海道大学より工学博士の学位を授与されております。
 ディーゼル機関の燃焼に関する研究においては,各種燃料の燃焼性および機関性能と圧縮比の相互関係を解明した上,低圧縮比の採用により,高効率かつ清浄な燃焼の確保が可能であることを明らかにするとともに,これを実現するための補助燃料吸入,吸気加熱,補助燃料下死噴射などの有効な方策を提唱されました。ディーゼル機関の燃焼改善に対して,この研究が果たした役割は極めて大きく,その成果は,現在,石油代替燃料の利用面においても広く活かされております。さらに,自動車用火花点火機関および連続燃焼装置に関しても研究を行い,小型ガソリン機関のアイドリングおよび暖気時の燃焼改善,噴流ガス火炎の火炎安定性などに関して多くの新知見を得,燃焼および有害排出物に関する研究に寄与されました。また,アルコールを燃料とする筒内噴射方式が窒素酸化物の低減に有効なことを見出し,また,アルコールなど石油代替自動車燃料の使用に伴う大気汚染物質の発生に関する研究の基礎を築き,燃焼工学的研究をさらに発展させました。
 これら内燃機関の燃焼および排気に関し内外に発表した報文は80余稿にのぼり,同氏は日本の代表的な内燃機関研究者として認められております。
 さらに,積雪寒冷地の自動車交通問題に対して早くから深い関心を寄せ,地域社会の直面する困難な日常問題を専門の立場から検討し,車輌の冬期運転方法並びにこれに関連して除雪融雪方法の一つとして温排水融雪方法を試みるなど独創的な研究を行われました。特に,雪氷路上における自動車制動試験方法に関しては,我が国における先駆者の一人として知られており,この研究の社会的意義は極めて大きいものがあります。
 学内にあっては,昭和41年4月から同44年3月まで北海道大学工業教員養成所専門委員としてその運営に参画し,さらに,昭和43年5月から同49年9月までは北海道大学構内交通計画委員会専門委員,同49年9月から同51年9月までは北海道大学施設計画委員会専門委員として多年にわたり,施設の改善,整備に尽力されました。一方,昭和47年からは北大工学部五十年史編集刊行委員会委員長として学部史の編纂に尽力されました。
 学外においては,日本機械学会北海道支部長,同学会理事,同学会評議員をつとめられ,昭和58年4月には同学会に対する永年の貢献により同学会名誉員になられました。また,自動車技術会北海道支部長,同会理事,同会技術委員会ディーゼル部門委員長をつとめられました。
 また,退官後の昭和51年4月から昭和59年3月まで北海道工業大学教授として,さらに,この間,昭和52年6月から昭和54年3月まで同大学教務部長として学生の教育,大学の管理運営に尽力されました。北海道大学および北海道工業大学において多くの学生を育て,我が国の産業教育の振興に大きく貢献をなした功績により昭和59年11月文部大臣より,産業教育百年記念教育功績者として表彰されておられます。
 このように,40有余年の永きにわたって学生の教育に尽力され,その真摯な教育研究態度は,教えを受けた者の等しく尊敬するところであります。また,独創的で有用な多くの研究業績をあげられ,学術研究の発展に尽くした同氏を失ったことは痛恨の極みであります。
 ここに,同氏の御冥福を心よりお祈り申し上げます。

(工学研究科・工学部)