名誉教授 木下 誠一 氏は,平成15年4月13日午前2時20分札幌市の斗南病院において転移性肺癌のため御逝去されました。ここに先生の生前の御功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
木下氏は,大正13年(1924年)2月16日北海道小樽市に生まれました。北海道帝国大学理学部で物理学を学ばれ,東和ゴム株式会社勤務の後,故郷の小樽において北海道立小樽高等学校の教諭を勤められました。その後昭和25年3月より北海道大学低温科学研究所助手に採用され,昭和35年5月同低温科学研究所講師,昭和38年2月助教授,昭和39年4月教授に昇任され,計37年の長きにわたって,本学低温科学研究所における雪氷学・地盤工学の基礎的研究から応用に至る広範な分野の研究と教育に重要な貢献をされました。また,昭和55年4月から昭和61年4月まで本学低温科学研究所所長を勤められ,本研究所の研究・教育のみならず管理・運営にも多大の尽力をされ,昭和62年3月に停年により退官,同年4月に北海道大学名誉教授の称号を授与されました。
退官後は,昭和62年4月から平成6年3月まで北星学園大学教授を勤められ,また,平成元年4月から平成14年5月まで北海道立オホーツク流氷科学センター所長を勤められ,研究者・教育者としてより一層の御活躍中と伺っておりましたが,このたび,療養中に治療の甲斐なく不帰の客となられました。
木下氏の研究は,雪氷学の広範な領域に及んでおられました。研究経歴のうち,その前半にあっては積雪物理学,特に力学的性質に関する研究を行われ,破壊強度と積雪の内部構造,特に雪質,雪粒子結合状態との関係を明らかにされました。こうした成果によって,昭和36年北海道大学から理学博士号が授与され,その実験的成果については,国内外の専門誌において高い評価を得られました。また,積雪構造を三次元的に解析する手法として,積雪試料をアニリンで固定し,それを薄片化して顕微鏡下で解析する新たな手法を開発され,これに対して昭和41年度日本雪氷学会の第1回学術賞が授与されました。さらに,それらの研究成果に基づき,後に木下式積雪強度計と呼ばれた新たな測定装置を開発され,道路積雪分類や雪崩予測のための積雪調査法として広く採用されました。
その後,昭和40年に本研究所に凍上学部門が設置され,その主任教授として新たに地盤の凍結と凍上に関する調査研究を推進されました。苫小牧野外凍上観測室を設置し,自然の寒冷条件下での凍上現象の発生機構の調査研究を20余年にわたって実施され,凍上現象は,微細な土粒子表面に吸着して存在する水と,それが与えられた温度条件下での物理化学的な性質に起因して発生する拡散現象であることを明らかにされました。
さらに昭和42年度からは,当時全く外国人には開放されていなかったシベリア永久凍土に関する現地調査を行われ,地球環境変動と永久凍土の消長についての先駆的研究を行われました。
木下氏の,雪氷学に関する一連の研究成果等に対しては,昭和59年北海道新聞社文化賞授与,昭和61年日本雪氷学会功績賞授与,平成元年土質工学会功労賞が授与されており,また,これらの功労,功績が認められ,平成12年11月には勲三等旭日中綬章を受賞されました。
先生の御功績を永く記憶し,ここに心より御冥福をお祈り申し上げます。
(低温科学研究所)
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