名誉教授 天間 征氏は平成15年5月4日,胃癌のため御逝去されました。ここに生前御功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
天間氏は,昭和3年8月2日,東京に生まれ,昭和28年3月北海道大学農学部農業経済学科を卒業された後,同年4月農林省北海道農業試験場経営部研究員,同30年10月農林省農業技術研究所経営土地利用部研究員に配置換,同40年7月帯広畜産大学畜産学部助教授として出向,翌昭和41年4月同大教授に昇任しました。同59年6月北海道大学農学部に配置換,同学部農業経済学科農業開発論講座担当となり,平成4年3月定年退職されました。
この間同氏は農業経済学分野,とくに農業経営設計方法および農村における地域計画研究,農産物貿易自由化交渉の下での日本農業の国際化対応に関する研究などで顕著な成果をあげています。
農林省時代(昭和28〜40年)には伝統的農業経営学の分野に,当時新しく芽生えた近代経済学の手法,線形計画法を導入し,農業経営学の実践性を著しく高めることに貢献しました。その成果は「農場設計法に関する研究」として,昭和37年3月北海道大学から農学博士の学位を授与され,その後出版された著書「定量分析による農業経営学」(昭和41年3月)は版を重ねて,この分野における基本的文献となりました。特筆すべき研究成果としては,経営者能力の研究があり,その成果は「農業の経営者能力に関する研究」(農業経済研究,昭和46年6月)として学会誌に発表され,先駆的な研究として評価されています。また,日本の高度経済成長期に十勝地域で離農した約1万戸の全国規模での追跡調査は,NHKの放送番組にもなり,昭和55年に「離農−その後かれらはどうなったか」として出版され,専門以外の人々の間においても読まれ,広く感銘を与えました。その後も,地域の抱える現実的課題に応える研究を数多く出版されました。
昭和56年に北海道大学農学部へ移られてからは,日本農業の国際化問題に主たる研究の重点が移されました。とくに国際的な共同研究の成果をとりまとめた「価格の国際比較−農業資材編〈肥料,農薬,飼料,機械>」(平成3年12月)では,国際的な競争のもとで,今後日本農業が生き残るためには生産資材価格の大幅引下げが急務であるとし,それらの流通段階にはじめて実証的な研究のメスを入れ,政策提言を行いました。
以上同氏の研究は,農業経営というミクロ的視点から出発し,しだいにマクロ的な政策研究へと展開し,日本農業を担う農業者あるいは政策立案者にとっても有用な実践的研究を行ったところに最大の特質があるといえます。
学外活動としては,昭和50年5月より一年間農業専門家として国際連合食糧農業機関に出向し,開発途上国の農業発展に尽すなどの国際的貢献を行い,また国内にあっては,昭和52年1月より8年間NHK放送番組審議会委員として,とくにマスメディアによる農業者教育に尽すと共に,昭和58年8月より北海道開発審議会特別委員として第5期北海道総合開発計画の策定に尽し,さらに,昭和59年10月より北海道農業振興審議会委員として北海道農業の発展に貢献いたしました。
平成4年3月に停年退官した後は北海道大学名誉教授として後進の育成に当たると同時に,平成5年5月から平成13年3月まで株式会社酪農総合研究所長として,酪農に関する研究・普及活動を行い,その貢献により平成12年度に宇都宮賞が授与されました。
以上のように,同氏は昭和28年3月に北海道大学を卒業して以来,数々の優れた業績をあげ,多くの研究論文,著書の公刊を通じて,農業経済学分野における学術の発展,後進の啓発と斯学の発展に尽くすとともに,地域社会および酪農の発展へ貢献した功績は極めて顕著なものと高く評価されています。
先生の御功績を永く記憶し,ここに心より御冥福をお祈り申し上げます。
(農学研究科・農学部)
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