訃報
名誉教授 佐々 保雄(ささやすお) 氏(享年96歳)
名誉教授 佐々 保雄(ささやすお) 氏(享年96歳)

 名誉教授 佐々 保雄氏は,入院加療中のところ平成15年5月16日午後7時22分に敗血症のため御逝去されました。ここに先生の生前の御功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
 先生は,明治40年3月22日北海道札幌市に生まれ,昭和5年3月東京帝国大学理学部地質学科を卒業,同年5月北海道帝国大学理学部助手,昭和9年11月助教授,昭和20年7月教授に任ぜられ,理学部地質学鉱物学科石油地質学講座(のちに燃料地質学講座と改称)を担当されました。昭和28年4月には同大学大学院理学研究科を担当され,40年の長きにわたり,地質学の各分野において優れた業績をあげ,我が国の学術の進歩に多大な貢献をされるとともに,真摯な指導を通じて多くの有為な人材の育成と輩出に尽力し,昭和45年3月に停年により退職され,同年5月北海道大学名誉教授の称号を授与されました。
 研究面では燃料地質学にとどまらず,地質学の多方面の研究を積極的に進められ,地質学の発展に貢献されました。先生は,とくに野外での調査研究を通じた学生教育を真摯に実践されました。時には厳しく学生を指導し,野外調査研究の水準を大きく向上させることに尽力されました。
 先生の研究は多岐にわたりますが,初期には北海道の日高山脈氷河地形の研究,千島・南樺太の地質学的研究,北海道各地の炭田の層序学的研究,北海道西南部新生代層の研究などを行いました。登山で鍛えた強靱な体力と意志をもって,野外調査によって得られる成果をもとに研究を進めました。これらの成果は,当時の地理学会における氷河論争に一石を投じました。千島・樺太の調査結果は理学部地質学鉱物学科の業績としてまとめられ,現在では貴重な北方領土の調査資料として学界から高く評価されております。北海道の炭田に関して特に多くの研究成果を発表され,学術的にも社会的にも高い評価を受けました。昭和19年1月,釧路炭田の地質層序学的研究によって,北海道帝国大学より理学博士の学位を授与されました。
 先生による北海道西南部における第三紀の層序学的研究によって,この地域の標準層序の基礎が築かれました。その成果は今日まで長い間多くの研究者によって踏襲され,津軽海峡鉄道トンネル(青函トンネル)掘削のための基礎資料としても広く活用されました。昭和25年頃からは,当時の石炭資源開発の緊急性に対応して,北海道内の各炭田の調査資料をとりまとめ,炭田図の編纂とその刊行に精力的に取り組みました。このころから,先生は研究成果の社会への貢献を強く意識し,燃料資源探査開発のための基礎的な研究を推進しました。海底炭田調査法の確立,海底掘削船計画の立案,航空写真の地質学への応用など,新しい技術開発につながる基礎研究を精力的に進めました。先生の燃料地質学や応用地質学に関する研究成果は,100編以上の学術論文として公表されており,今日でも国内外の学界において高く評価されています。
 先生は,学界においては日本写真測量学会会長を努められました。また,日本山岳会会長を努められ,地質学者と登山家としての御経験をもとに,広く社会に貢献してこられました。
 学外にあっては,石油資源開発促進審議会,石油および可燃性天然ガス資源開発審議会,鉱業審議会,地下資源開発審議会,産炭地域振興審議会,海洋科学技術審議会等の委員を歴任し,地下資源の開発に顕著な功績を残されました。また,青函トンネル技術調査委員会委員として青函トンネルの予備調査段階から掘削完成に至るまで,多大な功績をあげられました。
 これらの業績に対して,昭和53年4月,勲三等旭日中綬章が授与され,また,地質学の研究を通じた北海道の経済,社会,文化等の発展への功労が認められ,平成11年9月17日北海道功労賞を受賞されました。
 北海道はもとより,我が国の教育・研究の発展にも多大な貢献をされた先生を失ったことは痛恨の極みであります。
 ここに先生の御冥福を心よりお祈り申し上げます。

(理学研究科・理学部)