訃報
名誉教授 三本木 孝(さんぼんぎたかし) 氏(享年65歳)
名誉教授 三本木 孝(さんぼんぎたかし) 氏(享年65歳)

 名誉教授 三本木 孝氏は,入院加療中のところ 平成15年6月10日午前7時59分にすい臓ガンのため御逝去されました。ここに,先生の生前の御功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
 先生は,昭和12年3月10日北海道余市郡余市町に生まれ,昭和34年3月北海道大学理学部物理学科を卒業,昭和36年3月北海道大学大学院理学研究科物理学専攻修士課程を修了,昭和39年3月同博士課程を修了,「Fe-Ni合金の積層欠陥」により理学博士の学位を授与されました。同年4月松下電器産業株式会社に入社,東京研究所勤務後,昭和41年4月北海道大学理学部助教授,昭和58年1月同学部教授に任ぜられ,理学部物理学科固体物理学第2講座を担当されました。平成7年4月には理学部の大学院重点化に伴って大学院理学研究科教授に配置換,35年の長きにわたって,低次元電子系における物性物理学の研究で学術の進歩と発展に多大な功績を残すとともに,その概念を多くの材料科学,学際領域の研究にも展開し,これらの新たな学問領域を開拓する素養を持った人材を育成して学会及び社会に送り出してこられました。またこの間,附属図書館長,評議員,理学部長,大学院理学研究科長を務め,大学行政及びその運営に多大な貢献をされ,平成12年3月31日停年により退官,同年4月北海道大学名誉教授の称号を授与されました。
 退官後は,平成12年4月より私立北海道情報大学教授を勤められ,学生教育を通じて私学の振興に尽力され,平成13年度には,同大学情報メディア学部教務委員会委員長を勤めて教育の工夫・改善に貢献される御活躍の最中,平成15年4月から病床につき,病気療養に専念の甲斐なく不帰の客となられました。
 先生は,早くから伝導電子系の次元性とその物質の電気的性質の関係に着目し,低次元電子系を有する物質が示す新しい秩序及びその秩序が示す非線形現象について実験的研究を進め,また物質の次元性に着目し,輸送現象及び構造を中心とした測定によって,低次元電子系に特有の電荷密度波状態が示す特異な性質の解明をすすめ,我が国の,低次元電子系研究の草分けとなられました。その研究業績は大きく3つに分けられます。
 第一は昭和35年から昭和51年の間の金属における磁性の研究で,磁場あるいは1軸応力によって強磁性体に誘導される磁気異方性及び結晶変態と格子欠陥濃度の関係を明らかにされました。
 第二は昭和52年以降の研究で,電荷密度波の静的及び動的な性質を明らかにした特筆すべき低次元導体における研究です。
 第三は平成5年からの有機結晶内の双晶境界面の運動に関する研究で多自由度系における物理学の先導的役割を果たしました。この概念は,生きた細胞を1つの大きな自由度を内在する力学系としてとらえ,その動的性質を理解するという新たなアプローチとなって展開しています。
 これらの成果を101編の原著論文として発表しているほか,総説・著書21編を公表出版,国内外の学会において高く評価されています。
 この間,学内においては,平成5年6月から平成8年3月まで及び平成9年4月から平成12年3月まで評議員,平成6年4月から平成8年3月まで附属図書館長,平成9年4月から平成12年3月まで理学部長及び大学院理学研究科長として大学の管理・運営に尽力されました。特に,平成10年4月には,理学部附属であった浦河地震観測所,えりも地殻変動観測所,札幌地震観測所,地震予知観測地域センター,有珠火山観測所及び海底地震観測施設の6つの附属施設を統合し,本学では初めての大学院に附属した理学研究科附属地震火山研究観測センターを発足させ,本学の地震火山研究の発展に貢献されました。
 学外においては,北海道教育大学,室蘭工業大学,旭川医科大学,京都大学の非常勤講師を務め,学生の教育に尽力するとともに,文部省学術審議会専門委員,通商産業省工業技術院次世代産業基盤技術研究開発評価委員,北海道科学技術審議会委員として専門的立場から関係行政機関を支援するなど物理学の普及に尽力されました。また,日本学術会議第18回低温物理学国際会議委員会委員を務め,我が国の物性物理学の発展に貢献されました。
 研究業績・教育研究・大学行政いずれの分野においても,その功績はまことに顕著であり,若くして先生を失ったことは残念の極みであります。
 先生の御冥福をお祈り申し上げます。

(理学研究科・理学部)