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教育学研究科で日米シンポジウム「POVERTY, INEQUALITY AND SOCIAL JUSTICE: Making Invisible Poverty Visible」開催される

 9月3日,教育学研究科大会議室にて,日米シンポジウム「貧困・不平等・社会的公正−「見えない」貧困を見えるように−」が開催されました。研究者,ソーシャルワーカー,院生などの参加の下に,会議室が満杯になる盛況なシンポジウムとなりました。
 このシンポジウムは,文部科学省科学研究費基盤研究B「子どもを持つ生活保護世帯に対する教育福祉的介入に関する研究」(青木紀代表)の成果を基礎に,現在の日本とアメリカの貧困・不平等問題を社会的公正の実現という視点から議論するものでした。底知れない不況の中で,貧困が徐々に表面化し,福祉国家の変質とともに個人や家族の不平等が拡大される中で開催されるシンポジウムとして,また個人主義・家族主義・資本主義といった概念との関連で,日米の研究者が共通して貧困・不平等問題を考えていこうというものでした。
 具体的には,日本側は,教育学研究科・教育福祉論研究グループの共同研究の成果及び青木紀編著『現代日本の「見えない」貧困』(明石書店)の出版,アメリカ側からは,1960年代の貧困研究で著名なM.ハリントンの『The Other America』出版40周年記念と銘打って出版された,K.キルティ教授(オハイオ州立大学),E.シーガル教授(アリゾナ州立大学)編著『Rediscovering the Other America: The Continuing Crisis of Poverty and Inequality in the United States』(Haworth Press, 2003)の出版の成果を基礎に,企画されたものです。
 シンポジウムの内容は3つのセッションに分けて以下のように行われました。
(1)家族の中の貧困:1.報告者(岩田美香・北海道医療大学),コメント(教育学研究科・間宮正幸),2.報告者(Madelaine Adelman・アリゾナ州立大学),コメント(札幌学院大学・松本伊智朗)(2)貧困と不平等:3.報告者(青木紀・教育学研究科),コメント(東京都立大学・岡部卓),4.報告者(Elizabeth Segal・アリゾナ州立大学),コメント(北星学園大学・Deborah M. Aoki)(3)貧困と排除:5.報告者(杉村宏・法政大学),コメント(教育学研究科・椎名恒),6.報告者(Keith Kilty・オハイオ州立大学),コメント(教育学研究科・鈴木敏正)
 このシンポジウムを通じて,確認されたことはいくつかありますが,一つは,貧困・不平等あるいは社会的排除の帰結は,日米共に驚くほど類似性を持っていることでした。いま一つは,では両国の国民の貧困観・不平等意識はいかなる特徴を持っているのか,本当にアメリカは個人主義,日本は家族主義と特徴付けられるのか,あるいは市場経済との関連だけで問題を単純に特徴づけていいのか,といったような課題でした。こうして,このシンポジウムを契機に,本格的な共同研究に取り組む気運が醸成され,無事終了しました。なおシンポジウムの成果は,アメリカ側の意向もあり,日米同時に出版という形で話が進んでいます。

(教育学研究科・教育学部)

シンポジウムの様子
シンポジウムの様子

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