8月6日から8日の3日間,工学研究科電子情報工学専攻ナノエレクトロニクス分野(武笠教授・末岡助教授)が中心となって,小中学生を対象とした「ナノテク・サマー教室」を開催しました。3回目となる今年は,本学のホームページに加え北海道新聞に開催案内を掲載したために,募集期間が短かったにもかかわらず,30を超える参加希望者がありました。実験機材や指導に当たる学生・スタッフの人数の制約から抽選を行い,当選した15名には教室参加に当たっての案内を送付し,抽選からもれてしまった子供たちには走査型トンネル顕微鏡(STM)で観察した原子像をあしらった絵はがきに本学の博物館の案内などを記載したものを送りました。教室に参加した子供たちの内訳は,小学6年生が6名,中学1年生が3名,中学2年生が3名,中学3年生が3名でした。
本年度は文部科学省の「大学等地域開放事業『大学Jr.サイエンス&ものづくり』」の支援に加え,同事業ではまかないきれなかった実験に必要な消耗品等の購入などに関して工学研究科にも御支援を頂きました。また本学の創成科学研究機構,科学技術振興事業団の研究成果活用プラザ北海道,戦略的創造研究推進事業の有志の方にも講義や実験の補助をしていただくなど,学内外の多くの方に支えられての教室となりました。
この教室では,ナノテクノロジの基盤技術の一つである走査型トンネル顕微鏡(STM)を使った原子像観察実験を自ら行うことを通して,原子の観察・操作によるボトムアップナノテクノロジへの夢を広げてもらうことを目的としています。原子を観察するに当たって,光学顕微鏡,走査電子顕微鏡,集束イオンビーム加工装置,電子線描画装置,原子間力顕微鏡などを活用し,ミリメートル,マイクロメートル,ナノメートルの世界を体験し,原子オーダの大きさを実感してもらえるように実験を工夫しました。3回目になる今回は研究室の学生が自主的に実験の提案・工夫をし,講義も担当するなど,学生が中心に運営した教室となりました。この教室は子供たちへの啓もう活動ということだけではなく,教室に携わる学生たちにとっては,最先端の科学技術をいかにやさしい言葉で説明するか,子供たちの素直な質問にどうやって対応するかといったことを考えさせられ,普段の研究についても素直に見つめ直してみる良い機会となっています。
3日間,午後の3時間の教室です。小学6年生2名,中学生各学年1名の5名が1チームで3チームの実験グループが学生たちの設定した6つの実験項目を行いました。前回より説明の時間を減らし,装置を操作する時間をできるだけ増やしました。STM用の探針を作製したり,集束イオンビームを操作してフリーハンドでシリコンの加工を行ったり,EB描画装置でミクロンサイズの名札を作製した後,これを光学顕微鏡,電子顕微鏡,原子間力顕微鏡で観察しました。STMでの原子像観察はSi(111)7x7表面を用いました。また,観察だけではなくパルスバイアス印加による原子レベルの表面加工にも挑戦しました。6年生から中学3年生までの混成チームですが,どの学年でも始めて見聞きする装置と実験内容のせいもあるかも知れませんが,学年の隔たりもなく学生たちと楽しく議論しあっていたのが印象的でした。
後日,参加した子供と保護者の方にはアンケートや感想文を書いていただきました。毎日,教室が終わったあと家族と教室での様子をよく話していた子が多かったようで,今回の教室も十分その役割は果たせました。なかには,学生実験ばりの実験レポートを送ってくれた子もいました。
教室初日に北海道新聞社の取材を受け,札幌圏版ですが,教室の様子が翌日の朝刊に紹介されました。参加者が既に抽選で決まってしまっていることを十分に伝えなかったことから,翌日になって参加を希望し研究室を訪ねてこられた方もいました。この点は反省しなくてはなりませんでした。
ナノテクに関するこのような教室は世界的にも珍しいものです。子供たちに夢を与え,その夢が手の届くところにあることを知らせることのできるこの教室を,来年度も開催したいと思っています。
(工学研究科・工学部)
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