分科会報告
○生 命 科 学
電子科学研究所 教授 田 村 守
バイオ分科会は10月18日朝9時20分よりInstitute
of Molecular Biology and Genetics(IMBG)のAuditoriumでBK21のライフサイエンスのDirectorであるProf.
Sang-Gu Kimによる開会挨拶から始まり,日本側11名,韓国側9名の研究発表があった。韓国側のメンバーはIMBG及び生物学科に属している人達で,その内容は基礎的な生命科学分野をほとんどカバーしていた。内容は最近の分子生物学の手法による,転写−翻訳系を中心とした制御機構あるいは各種生理条件下やストレス下での遺伝子発現と蛋白誘導のメカニズムなど,興味深い内容であった。日本側の発表は,分子生物学の立場から,共通する課題が重なり活発な討論が行われた。
昼食時にIMBG内部を案内していただいたが,研究室の広さ,設備,その他,日本側から羨ましいとの声が強く聞かれた。民間企業との共同研究も実験室が建物内で隣り合って配置され,研究員も合同で働いており,その効率の良いやり方に感心させられた。
研究内容から,お互いにより緊密な共同研究を先ず個々のラボのレベルからスタートし,大きな共同研究体制を作ろうと意見が一致した。この件で11月末に今回のソウル大の責任者が来札し,今後の協力体制を詰める予定である。写真は今回の合同シンポジウムのプロシーディングの表紙であり,ソウル大の各所にポスターも掲示され関心の高さを強く印象付けられた。
以下に,ソウル大学のメンバーの講演で興味深い例を幾つか紹介したい。(私の個人的興味である点はご容赦願いたい。)
Dr. Chin Ha Chung:
E.ColiのATP−依存型プロテアーゼに関してモノマー構造からヘキサマーの対称及び非対称構造について分子生物学的アプローチ及びX−線結晶解析の結果を報告した。特に,X−線解析から以前にヨーロッパグループの結果とは異なった構造を発表し,最終的に彼らの結果が正しかったことはX−線解析と分子生物学的な手法による人工的アミノ酸変異の導入などや発現系を用いた蛋白質の構造解析など,強力なグループの存在が印象深かった。
D. J. H. Roe:
酸化的ストレス及び浸透圧ストレス時のバクテリアの増殖的における遺伝子発現を追ったもので,RNAポリメラ−ゼの中の制御因子の一つがカタラーゼであることを示した。ヘム蛋白質の代表的酵素の一つであるカタラーゼがtranscription−translationの直接的な因子であることに私のようなヘム蛋白屋は驚きました。まだまだ思いがけないことが見つかってくることを痛感しました。
この他,ウミウシの学習時における神経細胞内での遺伝子発現を解析した研究,そして近年注目を集めている小分子RNAの報告,アポトーシス時のDeath
factorなど興味深かった。北大側グループ及び他の発表詳細はプロシーディングにまとめてあります。
○情 報 工 学
工学研究科 助教授 吉 岡 真 治
10月18日に第6回北海道大学−ソウル大学校ジョイント・シンポジウムの一環として,大学院工学研究科(電子情報工学専攻,システム情報工学専攻)と量子集積エレクトロニクスセンターの共同で研究を行っている21世紀COEプログラム「知識メディアを基盤とする次世代ITの研究」とソウル大学校School
of Electrical and Computer Engineeringを中心に研究が進められている「Brain Korea(BK)21-IT
Program」の研究グループによる合同ワークショップがソウル大学校の工学部で開催されました。
21世紀COEもBK-21も共にこれからの情報技術社会を支えるための基盤技術の研究が行われています。本ワークショップでは,集積回路などのデバイスに関する基盤技術に関するセッションとデータ管理・コンピュータグラフィックスなどのソフトウェアに関する基盤技術に関するセッションの2つのセッションを設け,本学ならびにソウル大学の教官各5名ずつによる講演を行い,お互いの研究成果について議論が行われました。
また,どちらの研究プログラムも大学院学生を含む若手研究者の育成に力を入れていることもあり,講演セッションの後には,研究員ならびに大学院生などの若手研究者によるポスターセッションが行われました。このポスターセッションでは,本学から5件の発表とソウル大学校から9件の発表があり,次世代の研究を担う若手研究者の交流が活発に行われました。
今回の分科会は土曜日の開催にもかかわらず,60名以上の参加者を得て,積極的な交流が行われました。特に,大学院生を含む若手研究者にとっては,日本国内に留まるのではなく,広く世界に目を向けた交流が実現できたという点で,非常に有意義な分科会になったと考えています。
工学研究科では,来年以降も北大・ソウル大学校で持ち回りの形で,このようなシンポジウムを継続的に行い,より一層の交流を図ることを計画しております。
○地球環境科学
地球環境科学研究科 助教授 豊 田 和 広
10月17日に開催されたソウル大学と本学との合同シンポジウム全体会議の翌日,18日には共通プログラムの情報交換を目的に地球環境科学の分科会が朝9時から開催されました。会場はソウル大学敷地内の国際会議場(25-1番建物)で,北大からは10名が参加しました。本学の大学院地球環境科学研究科と低温科学研究所が構築中の21世紀COEプログラムの課題名は「生態地球圏システム劇変の予測と回避」であり,本分科会のソウル大学側の対応機関はBrain
Korea 21(BK21)プログラム中のソウル大学の地球環境科学研究科(SEES: School of Earth and
Environmental Sciences)です。
SEES/BK21のリーダーであるキム教授の歓迎スピーチと21世紀COE計画の拠点リーダーである池田教授(院地球環境)からの紹介講演に始まり,その後16の講演がありました。北大からは「地球温暖化の進行は人為的なものか自然現象か」,「葉から群落へ拡張した針広混交林の光合成機能に関する研究」,「環境汚染物質の影響評価と電気化学的な環境修復法」,「マンガン酸化バクテリアの活動とその環境への影響」,「西部北太平洋亜寒帯域の植物プランクトン群集に与える鉄の効果」,「植生動態を考慮した大気−陸面間相互作用の数値解析」,「オホーツク海における生物地球化学と古海洋学」,「北海道南東部十勝沖海域における表層堆積物中の有機炭素・全窒素含量とその安定同位体比」,「亜熱帯北大平洋西部のオゾン極小について」というように地球環境問題に関する研究内容を広く紹介しました。
一方,SEES/BK21からも,「沿岸海域の海底地下水湧出による生物地球化学的な影響」,「飽和地下水帯での窒素の変換と移動モデル:モデル公式化と現場への応用」,「海峡から東海(日本海)への海水輸送量の時間変化とその駆動機構」,「海洋動態変化の移動境界ボックスモデル:東海/日本海への応用」,「韓国の海綿動物が生産する抗菌化合物」,「衛星情報を用いた大気-海洋間での二酸化炭素の交換を左右する要因の研究」,「ソウル大学海洋研究所における衛星画像研究」という題目で講演がありました。今後,対応するいくつかのテーマについて協力関係を築いてゆく事で合意が得られました。
このSEES/BK21とは別組織として,ソウル大学には大学院環境学研究科(GSES:Graduate School of
Environmental Studies)という,環境政策や生態学など環境関連の研究所を束ねてきた研究教育組織があります。北大地球環境科学研究科はこのGSESともおつき合いがあり,昨年はGSESを中心にソウルから環境学の研究者が10人近く来られて,北大の地球環境科学研究科にて合同シンポジウムを行いました。このGSES設立30周年の記念国際シンポジウムが,GSES建物内で本合同シンポジウム前日の10月16日に開催されるので,18日の分科会に北大から参加する者の内5人がこちらでも発表を行いました。ロシアや中国からも参加者があり,気候変動による陸域生態系や人間社会への影響,韓国における炭素税や温暖化ガス放出量の削減問題についての研究発表がありました。このGSESとは今後,特に陸域生態系の研究について協力を進めていく事が話し合われました。
最後に,今回のソウル大学でのシンポジウムについて御協力下さいました皆様にこの紙面をお借りして感謝申し上げます。
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北海道大学の「生態地球圏システム劇変の予測と回避」計画を紹介する池田元美研究科長 |
○数 学
理学研究科 助教授 島 田 伊知朗
大学院理学研究科数学専攻は,ソウル大学校数学科と合同で=cd=ab2cMathematics
of Nonlinear Structure"と題する分科会をSangsan(象山)ビルディングにおいて開催しました。
この分科会には,数学専攻のCOEプログラム「特異性から見た非線形構造の数学」から教官6名,COEポストドク1名,大学院生3名からなる10名の代表を派遣しました。また,今年の4月より当数学教室からソウル大学校に留学中の大学院生1名も加わりました。
分科会では,参加者が多数のため,「代数・幾何系」と「解析系」の二つのセッションに別れ,それぞれのセッションで10人ずつ各人が用意したアブストラクトをもとに発表を行いました。朝9時30分から夕方6時まで大変活発な議論が交わされ,非常に有意義な研究集会であったと思われます。
通常の数学のシンポジウムは,より限定されたトピックをテーマに開催されることが多く,このように多彩な分野の研究者の話を聞くことができたのは大きな刺激となりました。例えば,「代数・幾何系」のセッションにおいては,古典的な曲面論から数論に至るまでの話題が提供され,あたかも数学を端から端まで縦断したかのような趣がありました。そこで,来年度も是非,同じようなシンポジウムを札幌で開催しようという話になりました。
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Brain Korea21数学代表のKim Hyuk 教授
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COE数学専攻拠点リーダーの小澤 徹 教授
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分科会参加者全員による記念写真
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○法 学
法学研究科 教授 鈴 木 賢
COEプログラム「新世代知的財産法政策学の国際拠点形成」の研究グループは,ソウル大学BK21法学研究団をカウンターパートして,重厚な雰囲気漂うソウル大学校近代法学教育百年記念会館を会場に共同シンポジウムを開催した。
北大からは拠点リーダーの田村善之教授をはじめ,教官6名と大学院生5名が報告,討論に参加した。土曜日にもかかわらず,ソウル大側からも多くの教員,院生が参加した。他の分科会と異なって,この分科会では報告要旨を事前に相手国語に翻訳し,それを配布した上で,報告は自国語で行い,討論は日韓の通訳を介して行われた。北大から参加した崔光日助教授,大学院生の金桂香さん,金勲さんが通訳を務め,両国間のコミュニケーションをとりもった。おかげで,言語の壁を意識することなく活発に討論を行うことができた。特に知的財産法分野は専門家同士の対話だけあって,最初から問題意識を共有した噛み合った議論を交わすことができたのは,印象的であった。
昼食会は法科大学の安京煥学長が外国出張直前のお忙しい中,日本料理でおもてなししてくださった。また,長時間にわたるシンポ終了後は心のこもった韓国料理による晩餐会に全員招待を賜った。こうした機会を通じて,学生たちもブロークンな英語を交えながら,ソウル大の若手研究者と交流を深めることができたのは収穫であった。
ソウル大学とのシンポジウムに法学研究科の教官,学生が参加したのは,今回がはじめてであったが,お互いの問題関心に意外なほど共通性があることを発見した新鮮な出会いとなった。今後とも法学分野においても両大学間で交流を継続する意義は大きいことが確認された。
報告者およびテーマ,スケジュールは以下のとおりである。
○第1セッション(9:30〜11:00)知的財産法 I
司 会 稗貫俊文 教授(北大)
通 訳 崔光日 助教授(北大)
報告者 田村善之 教授(北大)
「日本におけるpublicity権の保護」
丁相朝 教授(ソウル大)
「韓国での商標希釈化の現状と問題点」
コメンテーター 宋沃烈 教授(ソウル大)
○第2セッション(11:10〜12:40)知的財産法 II
司 会 丁相朝 教授(ソウル大)
通 訳 金桂香(北大院生)
報告者 丘大煥 助教授(ソウル大)
「実用新案によるコンピュータプログラム保護」
吉田広志 助教授(北大)
「日本における職務発明制度の概説」
コメンテーター 田村善之 教授(北大)
○第3セッション(14:00〜15:30)商法
司 会 鈴木賢 教授(北大)
通 訳 金勲(北大院生)
報告者 山本哲生 助教授(北大)
「Claim and notice made型保険と事故発生の不通知」
朴痒根 教授(ソウル大)
「専門従事者の商人性」
コメンテーター 権純姫 教授(ソウル大)
○第4セッション(15:40〜17:10)比較法
司 会 鄭肯植 教授(ソウル大)
通 訳 文竣暎(ソウル大院生)
報告者 鈴木賢 教授(北大)
「東アジアの法曹制度改革−−日本の法科大学院を中心として」
韓寅燮 教授(ソウル大)
「司法改革と参与司法への道」
コメンテーター 田村善之 教授(北大)
○総合討論(17:20〜18:00)
司 会 鄭肯植 教授(ソウル大)
通 訳 文竣暎(ソウル大院生)
崔光日 助教授(北大)
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第1セッションの様子
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