この度,「丹保基金による事務職員海外派遣事業」により,アメリカ合衆国ポートランド州立大学において研修を行う機会をいただきました。6月15日から9月14日までの3ヶ月間にわたり国際交流に関する事務の調査及び語学研修を行いましたので,その概要を報告します。
ポートランド
私が滞在したポートランド市は,オレゴン州最大の都市であり,メジャーリーグ屈指のチーム,マリナーズの本拠地として有名なシアトルから車で約3時間南下した場所に位置します。市内の人口は約50万人,周辺地域を合わせると,姉妹都市である札幌市と同じ約180万人です。北西部第2の都市でありながら,周辺は海や山など豊かな自然に囲まれており,1年中アウトドアスポーツを楽しむことができます。別名「ローズシティ」と呼ばれ,私が過ごした季節には,バラ園はもちろんのこと,通り沿いや民家の庭など,街のあちらこちらで美しいバラが咲いていました。
ポートランド州立大学(PSU)
PSUは,ポートランド市中心部に位置する都市型の大学です。大学には大学と街を区切る門や塀のようなものはありません。ポートランドへ着いた日に,ボランティアの方の車でホームステイ先へ向かう途中,ある建物の前で「ここがあなたのオフィスになるところですよ。」と言われたのですが,いつ大学に入ったのかわからず,大変驚いたものです。大学構内にはバスはもちろん,電車も走っています。また,構内にはサウスパークという公園が数ブロックに渡って続いています。木々の生い茂る中,天気の良い日には芝生の上やベンチに座って勉強したり,外でランチを取る学生で大変賑わいます。街の中にありながら緑に囲まれた,素晴らしい環境の大学であると感じました。
PSUではIES(International Education Services)にインターンとして在籍しました。そこでは主に,IESでの仕事について教えていただいたり,見学等をさせていただきました。
IESには9名の事務職員がおり,それぞれが海外留学プログラムや留学生の受入れ,学生へのアドバイスなどを担当しています。各人が独立したオフィスを持っていますが,このオフィスとは別にレセプションがあり,日本人を含む数名の学生アルバイトが受付を担当しています。IESに来る学生は,まずこの受付で誰と話をしたいのかを申し出て,順番に担当者のオフィスで話をするというスタイルです。入学時の書類の提出のような簡単なものであれば,アルバイトの対応のみで手続が完了することもあります。たくさんの職員が1つの事務室を共有し,事務室にある窓口で学生に対応するという北海道大学の方法とは全く違っていました。
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PSUで
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また,PSUには4つのプレジデントイニシアチブ(評価,多様性,学生へのアドバイス,国際化)があります。これは,現学長が就任した際,PSUの今後の発展のために特に必要な方針として掲げたものです。IESはこのうち学生へのアドバイスと国際化を意識しており,学生の海外への留学やインターンシップ派遣,海外から来た留学生のケアなどに大変力を入れています。各担当者は,それぞれがスペシャリストとして深い知識と経験に基づき仕事をしていますが,だからと言って決して孤立しているわけではなく,学生のためにできる最良の方法を見つけるため,お互いに情報を共有し,協力し合って仕事をしています。
また,IESのほか,国際関係のプログラムに携わる方々にお話を伺う機会も多くありました。PSUでは,アジアでリーダー的役割を果たす学生の育成を目的としたアジア研究室,アジアに特化した国際経営学修士号(MIM)取得のコース,早稲田大学と学生交流を行う早稲田・オレゴントランスナショナルプログラムなど,ユニークなプログラムが展開されています。この他,海外からの長期・短期留学希望者に対する様々なプログラムを企画し,運営する部署もあります。7月も半ばを過ぎると,4週間ほどのプログラムに参加するため,日本や韓国の大学から多くの学生が次から次へとPSUへやって来ました。ただし,今年はSARSやテロ,戦争の影響で,参加する学生の減少や,プログラム自体の中止もあったとのことです。
このようなお話を通じて,PSUでは国際化というイニシアチブが,学内に共通意識として浸透しているということを感じました。
また,IESの職員や国際関係プログラム等を担当している方々は,プロフェッショナルとしての誇りと強い責任感を持っていました。学生や教員のために働くことにやりがいを感じており,この仕事に就いて本当に良かったという言葉を何度も聞きました。
語学研修
PSU附属の語学学校で英語の授業を受講することも,今回の目的の1つでした。グラマー,リーディング,ライティング,スピーキング・リスニングの4つの科目が開講されており,習熟度に応じて初級から上級までの5つのクラスに分けられています。この中から,私はライティングとスピーキング・リスニングの授業を受講しました。
私が在籍したクラスには,約15名のクラスメートがいました。そのうち約半数は日本人で,そのほか韓国などのアジア諸国,中南米,中東出身の学生がいました。日本人学生があまりにも多いため,先生方は学生同士が会話をする際には,異なる国出身の学生がペアを組めるよう工夫をして授業を進めていました。クラスメートの平均年齢は20代前半で,英語を学ぶ理由はアメリカの大学へ進学するためや,家族の就職に伴いアメリカで生活するためなど,様々でした。日本人ではこのほか,日本で在籍している大学の留学プログラムに参加している学生や,日本の看護師がアメリカの医療現場を体験するという,PSUの看護留学プログラムに参加している人などがいました。
授業中は,日本では考えられませんが,先生のことを名字ではなく,ファーストネームで呼びます。もちろん学生同士もファーストネームやニックネームで呼び合います。私も最初は先生の名前を呼び捨てすることに抵抗がありましたが,次第に親しみを覚えるようになり,ちょっとしたことでも気軽に質問することができるようになりました。文化の差と言ってしまえば簡単ですが,先生と学生との距離を感じさせないこうした雰囲気も,とても大切であると感じました。授業が進むにつれて,宿題や発表の準備などで大変な思いをしましたが,年齢や国籍を超え,英語の習得という同じ目的を持ったクラスメートと楽しく学ぶことのできた,とても貴重な時間でした。
ポートランドでの生活
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友達の家の前で
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ポートランドでは,渡航前にボランティア団体に紹介していただいた家庭にホームステイをしました。ホストマザーと韓国人のルームメートとの共同生活です。ルームメートは私よりも1月ほど早くポートランドに来ていたので,バスの乗り方や大学までの行き方,市内の案内など,いろいろと親切に教えてくれました。異国での初めての生活に対する不安な気持ちを,彼女のおかけで和らげることができ,新しい生活にすんなりと溶け込むことができたように感じます。彼女とは偶然にもPSUの語学学校でクラスメートになったので,家で一緒に宿題をしたり,図書館から借りてきた映画のビデオを見たり,多くの時間を一緒に過ごしました。また,ホストマザーはとても行動的な方で,家でバーベキューパーティを開いたり,所属する教会の集まりなどに連れ出してくれました。大学と家との往復だけでは知り合うことのなかった人たちとの出会いは,良い経験となりました。
週末など時間のあるときには,ポートランド市内を歩き回りました。バスや電車などの交通が発達しており,その上,市内中心部は無料で乗車できるので,車がなくても不便を感じることはありませんでした。また,家から歩いて20分ほどのところにあるウィラメット川沿いの広場は,市民の憩いの場として整備されており,たくさんの人がランニングやサイクリングを楽しんでいました。私も天気の良い日には遊歩道を散歩をしたり,ベンチに座って本を読んだりして過ごしました。7月4日の独立記念日には,ここを会場にブルースフェスティバルが開催されましたが,夜の花火大会を含め,日本とはひと味違うアメリカならではのお祭りの雰囲気を味わうことができました。
研修を通じて感じたこと
PSUは州立大学ですが,州からの予算が年々カットされてきており,様々な国際関係プログラムを収入を得るためのビジネスチャンスとして捉えています。そのため,海外からの留学生の受入れを例に挙げてみても,学生を対象にしたものはもちろん,先に述べた日本人向けの看護留学プログラムなど,社会人や幅広い年齢層をターゲットにした様々なプログラムを提供しています。北海道大学では現在,市民などを対象とした公開講座や,協定大学からの学生を受け入れるHUSTEPなどを運営しています。今後はこうしたプログラムに加えて,あらゆる学問分野をカバーする北海道大学の特長を生かし,職業を持っている人がその専門性を高めるための講座など,社会のニーズに応えるためのプログラムを,海外からの参加者を視野に入れつつ展開していくことが必要ではないかと思いました。
また,海外の大学等との学術・学生交流が盛んになるにつれ,国際交流関係を担当する職員に求められる役割は,ますます高度化してきています。PSUでは,IESの職員はNAFSA(アメリカの大学等で国際交流・教育を担当する職員の全国組織)等に所属し,セミナーなどに参加することで,国際交流担当としての自らのキャリアを磨いています。私たちも今後,幅広い視野を持ちつつ,スペシャリストとしての専門性を高めるための努力が必要になってくると感じました。
さらに,学生,特に留学生を国際関係部署のインターンとして採用することも,非常に有効なことだと思われます。PSUでは多くの日本人留学生がIESの受付をしていましたが,初めて海外の大学へ来た人にとって,応対してくれた人が自分と同郷であった時の心強さは,計り知れないものがあります。この制度は,インターンとして採用される学生にも大学側にも大きなメリットがあると思います。
終わりに
今回の研修の大きな目的は,アメリカの社会や大学のシステムについて学ぶということでしたが,いろいろな人と話をする際にはいつも,「では,日本ではどうなのか」ということを反対に聞かれました。また,ホームステイ先でも,ホストマザー,ルームメートとそれぞれの国の生活習慣等の違いについて話す機会がありました。今回の滞在では,異文化を知るためには,まず自分の国の文化や自分自身を知らなくてはならないということを学んだ気がします。最後になりましたが,このような貴重な機会をくださった丹保前総長を始め,北海道大学並びにポートランド州立大学の関係者の方々に深く感謝いたします。
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