年頭のあいさつ

総長 中 村 睦 男
総長 中 村 睦 男
 明けましておめでとうございます。

 北海道大学の教育研究および管理運営に尽力されている教職員の皆さま,本学で学ぶ学生の皆さま,世界の諸国から本学を訪れ研究・勉学に励んでいる研究者および留学生の皆さま,そして,日頃本学の様々な活動をご支援くださっている皆さまにとりまして,新たなる年が希望と活力に満ちた年でありますように心から祈念しております。

 今年は,国立大学にとりまして,国立大学法人に移行するという,第二次大戦後の新制大学の設置に次ぐ大きな変革の節目の年にあたります。北海道大学が,「知の創造」,「知の伝達」および「知の活用」という三つの面で国民から負託された任務を,それぞれ,「世界水準の研究」,「真に学生のための教育」および「広く社会への貢献」の視点で遂行する大学であることを,法人化を契機に,いっそう明確に社会に示していかなければならないと考えます。年頭に当たりまして,私ども大学人に社会から託された任務と期待の大きさを改めて確認いたしたいと思います。

 目下私ども国立大学関係者にとって最大の関心事は,法人化2年目となる平成17年度以降の運営費交付金算定ルールであります。国立大学協会は昨年11月の総会で,「国立大学関係予算の充実について」という要望を決議し,さらに,12月6日に招集された臨時総会で,文部科学大臣宛の「運営費交付金の取り扱いについての要望」を決議しております。12月18日には国立大学長懇談会が開かれ,文部科学大臣をはじめとする文部科学省の責任者から,現在財務省と折衝中の平成17年度以降の運営費交付金算定ルール案の説明を受けました。
 その骨子は,平成16年度における収入・支出予算を基準年度として一定の効率化係数をかけて17年度以降の交付金を定率削減するとともに,新たな教育研究ニーズに対応するための増額の仕組みとして「特別教育研究経費」の枠組みを設定するところにあります。また,平成17年度以降の運営費交付金算定ルールの決定の時期について,当初予定されていた年末の政府予算編成時を1月まで延ばし,その間,効率化係数の縮減と,効率化になじまない教育研究の基幹的部分を効率化係数の対象外にするよう,厳しい状況にあるが,文部科学省として財務省との折衝で最大限の努力をするということでありました。
 私どもとしては,財務省から要求されている教育研究費1%減,一般管理費3%減という効率化係数によって交付金が削減されると,国立大学が任務とする教育,研究および社会貢献が大きく阻害されることは明らかですので,文部科学省の尽力に期待したいと考えます。1月上旬に地区ブロック別の学長懇談会が開かれ,北海道ブロックでは1月9日に予定されていますが,そこで文部科学省から財務省との折衝の状況や運営費交付金算定ルールのより詳しい説明を受けることになっております。

 北海道大学が当面取り組まなければならない課題として,次の4点を指摘したいと考えます。

 まず第1には,今年4月からの法人移行に向けて大詰めを迎えた準備作業を滞りなく終えることであります。一昨年7月から組織運営,目標計画,人事業務および財務会計の4つの専門委員会に分かれて具体的問題について鋭意検討を行ってきた法人移行準備委員会の報告書「法人移行に向けて(案)」は,各部局にお示ししただけではなく,昨年12月1日に本学ホームページに全文を掲載し,全学の教職員および学生の皆さまの意見を広く求めたところです。皆さまから寄せられた意見は部局からが23件,個人からが93件になっております。その内容は多岐にわたっておりますが,事項別に専門委員会で検討し,法人移行準備委員会の審議を経た後に,1月26日に開催が予定されている評議会で報告書を確定したいと考えております。その後,就業規則につきましては,教職員の過半数を代表する労働者の意見を聴取する手続きに入ります。法人移行に向けての準備作業に携わっている教職員の皆さまには格段の苦労をおかけしておりますが,引き続きよろしくお願いいたします。

 第2には,新たに設置される学部段階での医学部保健学科および大学院段階での情報科学研究科と法科大学院に4月より新入生を迎えることであります。医学部保健学科は,医療技術の高度化に伴う専門職業人の養成を目的に医療技術短期大学部を改組して設置するものであり,大学入試センター試験の導入や受験科目の増加で今年は受験生に戸惑いもあるかもしれませんが,ますます社会的に必要とされる職業的資格に結びつくことから受験生に人気のある学科になるものと思っています。情報科学研究科につきましては,昨年の年頭のあいさつで,「情報学という新しい学問分野での研究を推進し,社会的需要の大きい領域での人材を養成するための大学院組織を新設することは,客観的情勢の判断からも,もはや待ったなしの状況にある」と皆さまの協力をお願いしたところでありましたが,関係者の格段の尽力に心から敬意を表しますとともに,21世紀COEプログラムに採択された研究教育拠点を基盤とする特色ある情報科学の研究科を作り上げていくことを期待しております。本学における専門職大学院の第1号として発足する法科大学院は,その特色の一つとして,21世紀COEプログラム採択による知的財産法に関する国際的な研究教育拠点としての位置づけを生かした法曹の養成をあげております。「知の創造から知の活用まで」を重点政策の一つとする本学にとって,優れた理系の学生をも受け入れ社会に役立つ法曹に育てる法科大学院の存在は,力強いものがあります。

 第3に,新しい組織の設置および既存組織の再編の検討であります。昨年9月の評議会で了承された「文理融合の教育研究に関する推進方策について」に基づき,10月に設置された「北海道大学公共政策大学院(仮称)設置準備委員会」は,法学,経済学および工学の各研究科の協力により文理融合による公共政策系の専門職大学院設置の検討を行っております。文理融合は,日本の学術研究の重点課題の一つでありますが,「言うは易く,行うは難し」であります。公共政策系の専門職大学院教育で実行するのはその第一歩であり,文理融合型の人材養成は,社会的需要が大きく,学生にとっても魅力的なものになるものと確信しております。公共政策系専門職大学院が経済学研究科で鋭意検討されているビジネススクールとともに,平成17年度に発足できることを願っております。昨年12月の評議会で設置した「先端科学技術共同研究センターと創成科学研究機構との統合に関する検討委員会」は,産学官連携について,本学の窓口を外部の方々に対して明確にし,学内の推進体制を整備することを当面の課題として,これら二つの組織の機能の在り方と統合に関する事項を審議しております。今後,国立大学の予算において,新たな教育研究ニーズに対応した教育研究施設の新設や新規プロジェクト事業に係る経費の比率が増大することが予想されることからも,知の創造から知の活用に至る本学の研究体制の整備は重要な意味を持っております。また,懸案の学院・研究院構想につきましても,具体化に向けての検討を鋭意進めております。

 第4に,新たな教育研究プロジェクト事業に対する全学的取り組みのいっそうの推進であります。平成15年度は全学的な取り組みの中で,21世紀COEプログラムでは6件のプロジェクトが採択され,また,「特色ある大学教育支援プログラム」では,本学が伝統とする教養教育とそのシステムが採択されました。平成16年度の申請につきまして,部局を中心にすでに準備を進めていただいておりますが,21世紀COEプログラムに関しては,平成16年度はすでに募集された分野での敗者復活戦は行わず,学術革新的な分野開拓を目指す研究教育拠点形成に限定した公募を実施する方針になると言われています。改めて全学的な取り組みを始めておりますので,全学の英知を結集して貰いたいと願っております。

 新たなる2004年が,世界における紛争の平和的解決をもたらし,すべての人々にとって実り多い年でありますことを心から念願して,年頭のあいさつを結びたいと思います。


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