訃報
名誉教授 榊原  彰(さかきばらあきら) 氏(享年81歳)
名誉教授 榊原  彰(さかきばらあきら) 氏(享年81歳)

 名誉教授 榊原 彰 氏は平成15年12月22日,食道ガンのために御逝去されました。ここに生前の御功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
 先生は,昭和19年9月,北海道帝国大学工学部燃料工学科を御卒業。日本揮発油株式会社技師を経て,昭和21年3月に北海道林業試験場に御勤務されました。昭和39年1月,林業試験場林産化学部木材化学科木材化学研究室長から,北海道大学農学部林産学科木材化学講座教授に着任されました。
 昭和60年3月に停年退官されるまでの間,専門分野である木材化学の研究に従事されるとともに幾多の優れた人材を社会に送り出されました。
 先生は,その最終講義「リグニン遍歴の道程」の中で,最も愛されたリグニン化学に関する研究に対する思いを述べておられます。樹木において極めて重要な役割を担っているにも関わらず,その実体が混沌としていたリグニンの化学構造の解明という難題に挑まれました。先生のリグニン研究を方向づける契機となったハイデルベルグ大学のフロイデンベルグ研究室での研究から,当初高価なフェノール類を製造する目的で始められたリグニンの高圧還元とともに,独自のアイデアと試行錯誤の末,ジオキサンー水によるリグニンの穏和な加水分解法を発見しました。この発見は,研究室の宝の山となり多くの輝かしい成果を生みだし,その後の穏和な水素化分解による成果と併せて,昭和54年日米合同化学会における針葉樹リグニンモデルの提出に至りました。その後,リグナンの研究において2量体のみならず,新リグナンとして3,4量体リグナンの発見,応用研究としてのパルプ化の研究等に進まれ大きな足跡を残されました。先生の35年間のリグニンとの付き合いの中で,Eine Puppe mit Kleifussen(粘土の足をもった人形,即ちリグニン)に何とか陽の目を見せてやりたいとの思いで御自身の研究にまい進されたものと推測いたします。日本木材学会賞,木材科学国際アカデミー会員,日本農学賞,木材とパルプの化学に関する国際シンポジウムにおけるノータブル・アチーブメント・アワードの受賞等,数々の栄誉に見られるように,これらの業績は国内外で高く評価されております。
 先生は,また御自身の専門分野である木材化学に精力を傾注するとともに,教育にも力を注がれ,国内外で活躍する多数の門下生を輩出されました。研究室の直接の門下生でなくとも,先生の講義を聴いた学生は,その真摯な態度に打たれたに違いありません。先生の短歌「白墨の粉はらいつつ淡々と21年の講義を終えし」は,先生の人柄を良く表しているとともに,私共教職員の襟をも糺させるものであります。
 さらに,その活躍は研究室の外にも向かい,北海道公害対策審議会特別委員,学術審議会専門委員,北海道大学国際交流委員会委員,北海道大学発明委員会委員,日本木材学会理事,日本木材学会北海道支部長などを歴任され,北海道大学の発展と学会活動,そして社会活動にも貢献されております。
 このように学術,教育,社会活動において多大な功績を重ねられ,平成10年には勲三等旭日中授章をお受けになられました。リグニンとともにあった巨木榊原先生と永遠のお別れをしなければならない悲しみの中,その御遺徳を偲びつつ,北海道大学は一層の発展に向けて,ここに決意を新たにするものであります。
 先生の御功績を永く記憶し,ここに心より御冥福をお祈り申し上げます。

(農学研究科・農学部)


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