功 績 等
本学名誉教授鈴木 章先生は平成16年3月,「パラジウム触媒を活用する新有機合成反応の研究」に関する貢献により,日本学士院賞を受賞されることが決まりました。
先生は,昭和34年本学理学研究科博士課程を修了後,昭和36年工学部合成化学工学科助教授,昭和48年同応用化学科教授に昇任され,平成6年停年退官,その後平成6年から岡山理科大学教授,平成7年から平成14年まで倉敷芸術科学大学教授を務められ,先生のライフワークでありますホウ素化学の研究を展開されました。この間,昭和38年から2年間H.
C. Brown研究室(米国Purdue大学)博士研究員として,有機ホウ素化合物の合成と利用に関する研究に従事,帰国後この分野をさらに発展させ世界をリードする多くの卓越した業績を挙げております。中でも1979年に報告されたパラジウム触媒を用いる有機ホウ素化合物のクロスカップリング反応は有機合成化学のみならず,触媒化学や材料科学などの広い分野に多大な影響を及ぼした御研究であり,今回の受賞理由となった“Suzuki
coupling反応”として広く世界的に認知される新たな研究分野を開拓されました。反応は広範な一般性と実用性を有しており,leukotriene
B4(佐藤史衛),DiHETE(Nicolau),chlorothricolide(Roush),rutamycin B(Evans),プロスタグランジン(Johnson),epothilone(Danishefsky),ciguatoxin(橘)など医薬品を含む数々の生理活性天然物合成に利用され,特に海産毒Palytoxinの全合成(岸,Harvard)の最終工程を可能にしたことにより世界的注目を浴びました。また,アリール型ボロン酸のカップリング反応を用いるビアリール化合物の合成法も特筆される御研究であり,近年注目されている芳香族系機能性分子や材料開発に多大の貢献を果たしました。アリールボロン酸は水・空気に安定で取り扱い易いこと,また反応は高い触媒効率,選択性や一般性を有していることから,医薬品・機能材料の探索研究や導電性高分子・LEDsなど分子設計に基づくπ-共役系高分子材料の開発を幅広く可能にし,米国メルク社における血圧降下薬losartan,またドイツメルク社やチッソ化学における液晶など工業的スケールでの製造法にも採用されております。これらの業績に対して,米国Weissberger-Williams
Lectureship Award (1986),韓国化学会功労賞(1987),日本化学会賞(1989),米国DowElanco
Lectureship Award (1995),the H. C. Brown Lecture Award (Purdue
大学, 2000),the 2001 Distinguished Lecture Award (Queen's 大学),有機合成化学協会特別賞
(2004) を受賞,またアルゼンチン有機化学会名誉会員 (2001) にも選ばれております。また,日本化学会副会長・理事・北海道支部長,有機合成化学協会東北・北海道支部長,ホウ素化学国際会議組織委員を務めるなど我が国の学術の発展,国際交流に顕著な貢献をはたしてこられました。
(工学研究科・工学部) |