訃報
名誉教授 岡田 宏明(おかだひろあき) 氏(享年71歳)
名誉教授 岡田 宏明(おかだひろあき) 氏(享年71歳)

 名誉教授 岡田 宏明氏は,平成16年2月13日急性肺炎のため御逝去されました。ここに,先生の生前の御功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
 同氏は,昭和7年10月5日東京都に生まれ,昭和30年3月東京大学教養学部アメリカ分科を卒業,さらに,昭和32年3月同大学教養学部文化人類学分科を卒業されました。同年4月,東京大学大学院生物系研究科修士課程(人類学専攻)に入学,昭和35年3月に同修士課程を修了ののち,同大学院博士課程に進学されました。同大学院博士課程在学中の昭和39年9月から,米国ウィスコンシン大学人類学科に客員研究員として招へいされ,昭和41年3月に帰国。同年4月成蹊大学文学部専任講師を経て,昭和43年4月早稲田大学理工学部助教授に採用され,昭和48年4月に同大学教授に昇任されました。昭和49年3月に北海道大学文学部助教授(附属北方文化研究施設文化人類学部門)に採用され,昭和55年10月北海道大学文学部教授(行動科学科社会生態学講座)に昇任,平成7年3月に北海道大学を退職,同年4月北海道大学名誉教授となるとともに,北海学園大学人文学部教授に就任,平成13年3月同大学を退職されました。一方,平成8年4月からは北海道立北方民族博物館館長に就任,7年間その要職を務められたあと,健康上の理由で平成15年3月退職されました。
 同氏は永年にわたって,北方地域における文化人類学及び生態人類学の研究に従事され,また,講義や演習・実習並びに論文指導をとおして学部学生及び大学院生の教育に貢献されました。同氏の指導のもとに,現在,大学や研究機関の研究者,博物館学芸員,高等学校等の教員,地方自治体の埋蔵文化財担当者,専門職員等として活躍する多数の人材を輩出しております。
 同氏は,北方諸民族,特にエスキモーと北米インディアンの人類学・考古学的研究に取り組まれました。なかでもアラスカ地域における民族考古学的研究は従来の研究上の空白をうめるものであり,西南アラスカ・ネルソン島,アラスカ半島ホット・スプリング遺跡,東南アラスカ・ヘケタ島等での現地調査に基づく民族誌及び民族考古学分野での研究成果は,パイオニア的業績として後進の研究者から頻繁に引用されるに至っています。さらに,これらの研究成果を踏まえて,環北太平洋圏における海洋文化の成立と発展の問題について,内外の研究者を広範に組織し,実証的並びに理論的な研究を展開されました。そうした研究成果の一端は,同氏が企画されたハワイでの日米セミナーなど,国際的な研究交流の場においても発表されています。
 学会活動においては,日本民族学会(理事),日本考古学協会,北海道民族学会(会長,運営委員)に所属され,役職を歴任,日本民族学会においては,特別な功労が認められ,同学会名誉会員に推挙されました。特に,北海道民族学会では学会設立に尽力,昭和56年から7年間,初代会長を務められ,北海道地区における文化人類学・民族学の発展に指導的な役割を果たされました。また,国際的にも極北社会科学協会(IASSA)評議員,Arctic Anthropology誌(事務局米国アーカンソー大学)編集委員を務められました。
 また,北海道大学在任中は,大学院委員会委員,国際交流委員等の文学部及び全学における各種委員会の委員を数多く務められました。特に,平成7年度からの改組へ向けた文学部将来構想委員会においては委員長を務められ,文学部・文学研究科の改革の実現に多大な貢献をされました。
 一方,学外においても,北海道文化財保護審議会委員,北海道文化振興審議会委員,北方文化振興協会理事などを歴任され,北海道立北方民族博物館の設立に尽力,同館長の要職も務められました。その間,同博物館主催の北方民族文化シンポジウムを毎年企画・運営,自ら講演・座長を担当されるなど,北海道における文化振興にも多方面にわたる貢献をされました。
 以上のように,同氏は,多年に渡る北海道大学における教育と研究において,文学部及び文学研究科の充実に尽力される一方,早稲田大学,北海学園大学等私学教育の場にあっても重要な寄与を果たされました。また,国内外の学界に貴重な研究成果を数多く発表され,北方地域における文化人類学・民族考古学の研究水準を引き上げるとともに,多くの後進を育成されました。また,公立博物館の館長をはじめ様々な機会をとおして,社会的な活動の面でも一般市民の啓蒙・文化振興に積極的に取り組まれました。教育と研究並びに社会に対する多大な貢献をされました同氏を失ったことは痛恨の極みであります。
 ここに,岡田宏明先生の御冥福を心よりお祈り申し上げます。

(文学研究科・文学部)


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