訃報
名誉教授 太田  實(おおたみのる) 氏(享年81歳)
名誉教授 太田  實(おおたみのる) 氏(享年81歳)

 名誉教授 太田 實氏は,平成16年3月6日肺炎のため,御逝去されました。ここに,先生の生前の御功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
 同氏は,大正12年1月5日福岡県に生まれ,昭和19年9月東京帝国大学第一工学部建築学科を卒業し,同大学院特別研究生前期を修了しました。その後,昭和23年10月北海道大学工学部建築工学科の新設とともに,同学部助教授として赴任され,建築工学科の創設期より研究・教育に尽力されました。昭和38年には,教授に昇任され,建築計画学第一講座を担任,さらには,大学院環境科学研究科の新設に尽力されました。昭和56年4月から同59年9月まで同研究科の地域計画学講座を兼担し,胎動期であった環境科学の発展と環境計画学分野の進展に貢献されました。昭和61年3月に停年により退職され,同4月に北海道大学名誉教授の称号を授与されました。
 同氏は,北海道大学に奉職以来,38年の永きにわたり,工学部及び大学院工学研究科と大学院環境科学研究科において,建築計画学,都市計画学,地域計画学に関する研究・教育に専念され,建築計画設計学,都市計画設計学,環境計画学の分野における多数の研究者と技術者の育成に尽力されるとともに,わが国における近代建築学並びに近代都市計画学の普及,発展に寄与されました。特に,S・ギーディオンの大著「空間・時間・建築」の翻訳は,日本の建築界と建築の近代化に多大な影響を与えました。
 研究面においては,都市の生活環境の計画的整備に関わる実証的な研究に加えて,土地利用に関する地域構造論的な視点に基づく詳細な研究によって,都市の空間構造特性を描きだすことに成功し,その成果を取りまとめた博士論文「都市の地域構造に関する計画的研究」によって,昭和38年日本建築学会論文賞,並びに北海道科学技術賞を受賞されました。
 さらに地域社会に対する建築設計,住宅地計画など建築や都市計画の実践にも尽力され,北海道大学クラーク会館,北海道立近代美術館などの作品を通じて国内外に高く評価され,昭和54年には「北海道立近代美術館の設計」で日本建築学会北海道建築賞を受賞されています。
 学会においては,日本建築学会理事,同北海道支部長,日本都市計画学会評議委員,日本都市学会理事,北海道都市学会会長を歴任し,それぞれの学会を中心とする学術振興とその発展に尽力され,顕著な功績を残されました。
 学内にあっては,環境科学研究科長や評議員として大学運営の中枢に参画されたほか,施設委員会専門委員,将来計画委員会委員長としてキャンパス内の教育研究環境の整備に貢献されました。学外にあっては,北海道都市計画地方審議会会長,北海道住宅対策審議会,北海道総合開発委員会,北海道国土利用計画審議会,札幌市長期総合計画審議会,苫小牧市建築審査会等の会長,委員を歴任され,地方自治体の計画行政及び住宅・建築行政の運営に幅広く参画し,地域社会の発展に貢献されました。
 退官後は,引き続き北海道工業大学において建築工学科主任として建築技術者の養成に尽力され,北海道工業大学名誉教授の称号を授与されました。
 このように学術,教育,社会活動において多大な功績を重ねられ,平成11年には勲三等旭日中綬章をお受けになられました。北海道の近代建築,都市計画を牽引されてこられた太田先生を失ったことは痛恨の極みであります。
 ここに,太田實先生の御冥福を心よりお祈り申し上げます。

(工学研究科・工学部)


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