北大リサーチ&ビジネスパーク構想

科学技術振興調整費・戦略的研究拠点育成プログラム
「北大リサーチ&ビジネスパーク構想」について

 平成15年度文部科学省科学技術振興調整費・戦略的研究拠点育成プログラムに創成科学研究機構を中心とした「北大リサーチ&ビジネスパーク構想」が採択されました。
 本格的活動の開始に当たって,教職員の皆様に本構想について御理解いただきたく,長田創成科学研究機構長からお話しいただきます。

−長田副学長(研究担当)・創成科学研究機構長からごあいさつをお願いします。
創成科学研究機構長 長田 義仁
創成科学研究機構長
長田 義仁

 北海道大学は,平成15年度の文部科学省科学技術振興調整費戦略的研究拠点育成プログラムに,創成科学研究機構を育成機関とする構想を提案し,採択されました。

 この振興調整費の活動の拠点となる創成科学研究棟は,昨年の11月27日に北キャンパスエリアに竣工し,研究者とそれを支えるスタッフ,事務の陣容も整い,いよいよ本格的に活動を開始しております。

−科学技術振興調整費・戦略的研究拠点育成プログラムの目的は?
 科学技術振興調整費とは,総合科学技術会議(議長:内閣総理大臣)の方針に基づく科学技術の振興に必要な予算で,平成13年度から抜本的に改革され,下記の3点が目的です。
 1)優れた成果の創出・活用のための科学技術システム改革
 2)将来性の見込まれる分野・領域への戦略的対応
 3)科学技術活動の国際化の推進
 このプログラムは,8プログラムから構成され,中でも戦略的研究拠点育成プログラムは,その中心課題で,以下の3点を目的としています。
 1)新しい時代を拓く研究開発システムを構築する。
 2)研究開発機関の組織改革を進める。
 3)国際的に魅力ある卓越した研究拠点の創出を図る。

−今までに採択されたプログラムは?
 このプログラムは,平成13年度に開始され,平成14年度までに大学3校,独立行政法人1研究機関が採択されておりました。昨年度は,全国研究機関から43件の応募があり,北大は東北大,(独)物質・材料研究機構と共に採択された訳です。

<表−1 採択されているプログラム>
採択年度 採択機関 テーマ
平成13年度 東京大学 先端科学技術研究センター
大阪大学 大学院工学研究科
「人間と社会に向かう先端科学技術オープンラボ」
「フロンティア研究拠点構想」
平成14年度 京都大学 大学院医学研究科
(独)産業技術総合研究所
「先端領域融合による開放型医学研究拠点形成」
「ベンチャー開発戦略研究センター」
平成15年度 北海道大学 創成科学研究機構
東北大学
(独)物質・材料研究機構
「北大リサーチ&ビジネスパーク構想」
「先進医工学研究拠点育成」
「若手国際イノベーション特区」


−北海道大学の提案した構想は?
 申請課題名は,“北大リサーチ&ビジネスパーク構想”であり,メインコンセプトは,「知の創造」(ニューサイエンスの創成)と「知の活用」(創成されたニューサイエンスの社会還元)です。
 創成科学研究機構(以下「機構」)を育成機関とするこの構想は,以下の3点を目指しています。
 1)「知の創造」では,先端科学をベースに北海道の地域性,北大の特徴,文理融合,科学技術基本計画(重点4分野)等を生かした研究を実験的に行い,そこから得られた成果は,時代の要請にあった学問領域や教育科目を開拓し,横断的専攻や新しい研究組織を創設する。
 2)「知の活用」では,「知の創造」で得られた成果を社会に還元し,地域・経済の発展に供する。知の流通の為のスタッフ組織を構築し,トップダウン型マネージメントを導入する。こうして社会・地域に根付いた新しい大学像を創る。
 3)上記の研究システム改革を通して生み出されるニューサイエンスの創成により,国際的に魅力ある卓越した研究拠点化を図る。
−この拠点で実施される「知の創造」とは?
 機構は,平成14年度より,生命,情報,環境,ナノテクノロジー・材料,エネルギー,広域文化,未踏領域の7重点研究分野で,新しい「知」を創造するために,特定研究部門と流動研究部門を設置しております。
 特定研究部門では,複合・融合分野の創成及び異分野ネットワーク構築の為,2名の教員,寺倉清之教授が北大シミュレーションサロンを,田中順三教授がバイオ・ナノ技術ネットワークを立ち上げ,また流動研究部門では,次代を担う若手研究者の育成と時代に即応した研究の為,既に学内公募で採用された9名の教員がそれぞれの分野で研究をしております。

<表−2 戦略重点プロジェクト研究部門>
<表−2 戦略重点プロジェクト研究部門>

 新たに本振興調整費で設けられた戦略重点プロジェクト研究は,ナノ,バイオ,IT,環境という我が国の科学技術基本計画の4重点分野を基本に,北海道の地域性,北海道大学の得意技,文理融合の観点を踏まえて,以下の4テーマを戦略的に設定しました。
 1)人獣共通感染症の迅速診断・治療法の開発
 2)移植医療・組織工学
 3)食の安全・安定供給
 4)環境・科学技術政策

 既に中核を担う研究者の人選も終了し,創成科学研究棟を拠点とした研究が開始されています。
 このプロジェクト研究を通じて,時代の要請にあった学問領域が創成され,大学のプレゼンス・ポリシーが明確に発信できます。研究成果をもとに,新しい教育態勢,研究システムの改編を実施しようという訳です。

−この拠点で実施される「知の活用」とは?
 創造された「知」の活用には,2通りの道筋を設定してあります。一つは基幹大学として国内産業の基盤を強化すべく研究開発にすぐれた企業との包括的連携であり,他方は北海道の大学としての地域の連携です。
 包括的連携に参加する企業には,「知」の創造段階から参加願い,協力しあってビジネスモデルを作成し,そのモデルを基にパテントマップを作り,共同で知的財産権を確保します。こうして確保された知的財産権をベースに,北大は北海道,日本国内,さらには全世界での新産業創成に寄与して行きます。既に日立製作所,三菱重工業との連携協定が交されており,包括的な取り組みとして新しい領域の創成ばかりでなく,人材の交流,人材の育成分野でも連携が進んでいます。

<図−1 北大の目指す包括連携>
<図−1 北大の目指す包括連携>

 この北大方式と言うべき包括連携は,全国の主要企業から熱い視線で見られ,従来の共同研究先であったメーカーは勿論のこと,金融機関,ベンチャーキャピタル,シンクタンク,独立行政法人,地方自治体からも申し入れがなされています。
 地域連携は,北大・北キャンパスに隣接する各研究機関が中心となって,各機関が持つ従来の大学には無い機能をフルに活用する事で,大学の創造した「知」を地域社会に還元されるような仕組みです。機構の立地する北キャンパスは,約30ヘクタールの広大な土地に北大関連の研究施設・科学技術振興機構・研究成果活用プラザ北海道・北海道立の4試験研究機関・北海道産学官協働センター等のまさに「知」の一大集積地です。北キャンパスは「さっぽろベンチャー創出特区」として認可を受けており,機構はそのヘッドクォーターとして「知」の創造とその社会還元を推進していくための新しい時代を拓く研究開発システムを構築します。

<図−2 北大を核とした地域連携>
<図−2 北大を核とした地域連携>

 こうした包括連携,地域連携を通した知の活用により,社会及び地域との連携が強化されます。これらの事をスムーズに遂行するには,特定問題解決のスペシャリストの存在が不可欠で,企業等で調査・企画,知的財産権,事業化等の経験豊富な方々を戦略スタッフとしてお迎えしております。

−マネージメント体制は?
 機構は,総長直轄の全学組織として,組織の長の構想力とリーダーシップが発揮し易いトップダウン型のマネージメント体制をとっており,そのトップダウン型マネージメントを支える組織として,研究企画室,北キャンパス合同事務部が配置されています。本振興調整費により,トップダウン型マネージメントを監査する組織としてアドバイザリーボードが,知の活用のサポート組織として戦略スタッフ部門が創設されました。戦略スタッフは,学内外の関連部門と協力しあいながら,創造された知が社会還元出来るシステムを構築します。

<図−3 創成科学研究機構組織図>
<図−3 創成科学研究機構組織図>

−予算の規模とその使い道は?
 平成16年度は,約8億円の予算が確定し,
  ・戦略重点プロジェクト研究の実質的なスタートの年
  ・研究成果のビジネスモデル化・パテントマップ構築の試行の年
  ・育成機関終了後の研究開発型NPO立ち上げの為の基本計画策定の年
と位置付け,研究成果の発信に努めていきます。
 また,本予算で購入された設備は,基本的には創成科学研究棟のオープンファシリティーに設置され,全学共通で使えるシステムになっております。

<図−4 平成16年度予算と基本的な考え方>
<図−4 平成16年度予算と基本的な考え方>

−育成期間終了後の姿は?
 育成期間終了後の具体的な姿は,以下の通りです。
 1)「知の創造」では,先端科学をベースとした北海道の地域性,北大の特徴,文理融合,科学技術基本計画等を生かした研究が行われ,そこから得られた研究成果は,どこの大学にも無い部局横断型・文理融合型の新しい研究組織及び教育科目等を創設する。これらをベースに北海道の地域性,風土,経済等に根ざした新しい学問体系を色濃く反映した北大の教育プログラムが,学生のみならず,社会人・職業人教育へ寄与します。
 2)「知の活用」では,「知の創造」で得られた研究成果が,地域・経済の発展に供される。また知の流通の為に構築されたスタッフ組織は,創造された知を社会還元出来る若手を育成します。こうして,社会・地域に根付いた新しい大学像として,北キャンパス周辺に大学の知を活用するリサーチ&ビジネスパークを運営する企業体の構築を目指しています。
 3)システム改革,組織改革後の北大は,創成されたニューサイエンスの成果等をベースに国際研究機関を誘致し,魅力ある卓越した国際研究拠点となります。

−包括連携とは?
 包括連携とは,大学と企業などが,「特定の目的の個別契約ではなく,ある大きな目的の達成のために,互いに出来ることは全部やりましょう」という包括的な協約を交わすことです。これまでは,ある特定の研究成果が,ある特定の企業・部署によって利用される個別連携のみでした。ある研究成果を持った研究者個人と企業の特定部署が互いに巡り合う機会は極めて限られていますし,その企業が製品開発を途中で諦めれば研究成果(特許)は死蔵されてしまう,などの問題がありました。包括連携は,二つの組織の間に道路を作ることです。日立へ行くには緑色の道路を,三菱重工なら赤い道路をたどれば良いわけです。個別の連携案件は,協議会(お見合い)を開いて,後で幾つでも取り決めることが出来ます。既に包括連携協約があれば,協議内容を覚書で取り交わすだけで連携が成立します。一々本格契約を交わす必要はありません。大学では実に様々な知が創造されていますし,一つの製品には様々な技術が集約されています。包括連携で一つの組織の多くの機能部署との「お見合い制度」を持つことは,大学が創造した知を活かす機会を増し,また大学内の複数の知を融合した新たな産業技術の創出をも図ることができます。

−最後にこの構想にかける意気込みは?
 我が国の科学技術をリードすべき国立大学は,本年度から国立大学法人化され,各大学は,その存在を賭けて種々模索している時です。北大の先駆的・実験的な取り組みの数々は,先進的な大学のモデル像として,他大学のみならず産業界,地域を含めた各界から,極めて大きな関心を持って注目されています。
 本学の取り組みが今後の大学改革の雛形になるよう是非成功させたいと思っております。その為には,実行部隊である我々の情熱は勿論の事,全学の皆様方のご支援,ご協力が欠かせません。我々の狙いをご理解頂き,今後とも宜しくお願い申上げます。

(創成科学研究機構)

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