先般,文部科学省国際研究交流担当職員短期海外研修プログラムの研修生として,本年1月7日から3月30日までの約3ヶ月間,アメリカ合衆国のハワイ大学マノア校に派遣して頂きました。以下,その概要を報告させて頂きます。
ハワイ大学とハワイの文化的側面
ハワイ大学は州内に3つのキャンパスと7つのコミュニティカレッジ等を持っており,今回私が研修を行ったマノア校は,ホノルル市街地から少し離れた比較的静かな地区に位置しています。キャンパスには様々な国からの学生が溢れ,特にアジア系の学生の多さが目立っていました。中でも日本人が特に多く,教職員にも日系人が多く見られたことに少々驚きました。州内における民族構成の面から見ても,アジア系が40%以上を占めていますし,文化面でもアジアの影響を強く受けており,物の考え方,感じ方にもアメリカ本土との差異を生み出しています。例えば,アメリカ本土では,一般的には自信に満ち,自己主張をするリーダーシップの強い人物が尊敬されますが,ハワイにおいてはこのタイプの人物は時として反感を抱かれることもあり,逆に謙虚で控えめな人物が好感を持たれやすいという話を耳にしました。実際3ヶ月現地で暮らしてみても,生活のテンポや人々の気質の面において日本との違いはそれほど感じられませんでした。もちろんそのため,良くも悪しくもカルチャーショックに陥ることがほとんどなかったのも事実ですが,逆に今後の交流促進は比較的スムーズに進められるのではないかと感じました。
語学研修
1月9日から3月19日までの10週間,ハワイ大学マノア校アウトリーチカレッジによるESLのひとつ,New Intensive
Courses in English(NICEプログラム)を受講しました。アウトリーチカレッジはハワイ大学キャンパス内にありながら経営方式を異にするいわば専門学校のような組織であり,正規学生向けのコースも運営していますが,語学を中心とした正規学生以外の学生のコースも多く開設しています。そのうちNICEプログラムは後者の英語コースであり,口頭表現能力の向上と文化の相互理解に重点を置いたカリキュラムを展開していました。
授業は午前8時30分から始まり,Grammar, Listening, Oral Production, Integrated
Skillsの各授業が50分ずつ行われます。どの授業も,会話力の向上を目指した内容となっており,各個人に講師の目が行き届くよう1クラスの人数は12名程度に抑えられていました。
この午前中の通常クラスの他に,午後の時間帯にTOEICやTOEFLの対策,イディオム・スラング等の選択クラスが,さらに学習したい学生のニーズに応えるべく開講されていました。しかし,アウトリーチカレッジがハワイ大学本体と異なり独立採算制で州政府からの資金提供を受けておらず,講師の給与等もすべて授業料収入で賄っているがゆえに,午後に予定されていた自由選択制の授業については,申込者が一定人数に達しなければ講師に給与を支払えないため開講しないと告げられて非常に驚きました。実は私が受講を希望したイディオム・スラングのコースも当初希望者が集まらずに,友人同士で他の学生に徹底的に声を掛けて集め,何とか開講にこぎつけたという状況でした。
なお,学生はアパートを借りて一人暮らしをしたり,ルームシェアをしたりするというスタイルが一般的で,私の知る限りではホームステイをしている学生は1人しかいませんでした。(実は私自身は当初ホームステイを希望しており事前にいろいろと業者を当たったのですが,学校に近い家庭を見つけられなかったため学内のドミトリーに滞在しました。)特にNICEプログラムの学生の間においてはホームステイはあまり一般的ではないようです。また,ホノルルは日本人の移住者が非常に多いようで,親戚がもともとホノルルに住んでいるので語学研修先にホノルルを選んだという学生が多数見られ,非常に驚かされました。
ハワイ大学内にあるESLスクールには,他に,ハワイ大学が開設しているEnglish Language Institute
(ELI), Hawai'i English Language Program (HELP)があります。このうちELIは正規の学部学生を対象としたもので,特に学術的方面における英語力の向上を目指した中・上級レベルの講義を展開していました。HELPはNICE同様高校卒業以上であれば誰でも受講できるというものでしたが,特に大学進学を目指す学生を対象としているため,扱う内容にもアカデミックなトピックを多く盛り込むようにしており,またTOEFL対策の集中講座を設けて学生のニーズに応えていました。
国際交流オフィスと事務組織について
2月からの2ヶ月は,午後にOffice of International Education (OIE) を訪問し,留学生の受け入れ等に関する業務の補助をさせていただきました。
OIEは留学生交流,研究者の受け入れをはじめとしたハワイ大学全体の国際関係業務を担っています。スタッフは,Director,
Immigration Specialist, Exchange Visitor Program Coordinator,
International Exchanges Coordinatorの4名で,それぞれが個々のオフィスを持っており,学生アルバイトを含む1〜2名のアシスタントが配置されていました。私はこのうちInternational
Exchanges Coordinatorのオフィスで業務補助をしました。スタッフの主な業務は,交流協定の締結や留学生の受け入れ・派遣に係る事務等で,留学を希望する学生が頻繁に相談に訪れていました。私が任された仕事は主に文書整理,数回実施された留学生向けオリエンテーションの準備作業及び外国からの訪問者のスケジュールアレンジ補助等で,これらを通して研究者・留学生交流業務の一端を垣間見ることができたと思います。
OIEは私が想像していたよりも忙しく,定時は午前7時45分から午後4時30分までですが,スタッフは皆夜遅くまで仕事をしており帰宅が深夜に及ぶこともあるとのことでした。OIEは,外国人研究者および留学生に対するサービスを供する組織としては,アメリカ国内でも最も分散された構成を持っており,集中化されればより効率的な運営ができるであろうということです。外国人研究者向けのサービスは組織全体で行われていましたが留学生サービスは各キャンパスごとに行われており,キャンパス間で重複している業務もあるとのことでした。実は,以前人事担当部署により行われていたこの外国人研究者向けのサービスは,1996年の組織改編時に効率化を目指して国際教育担当副学長の指揮監督の下に置かれるようになったOIEにより提供されていますが,この組織改編の際にも留学生サービス担当部署との統一はなされずに今に至っていました。担当者は,同様の業務は一つの部署にまとめるべきで,今後はそういった方向に動かしていきたいとおっしゃっていました。しかしそのように分散された組織の中にありながらも,留学生を対象としたオリエンテーションは全学的な行事として特に力を入れて実施されており,複数に分かれている国際関係業務担当部署の間で円滑な連絡調整が行われ,デメリットをさほど感じさせないものであったことは確かです。
OIEの中でも特に多忙を極めていたのがImmigration Specialistでした。非常に複雑な業務を持っており,特にアメリカ政府の出入国管理政策に関しての専門的な知識を有していなければならないため,なかなか後任を育てにくいことが悩みであるという話を聞きました。現在は後任で入る予定のスタッフがそのオフィスに見習いという形で入って一緒に仕事をし,徐々に覚えていくという体制で引き継ぎを行っているとのことです。スタッフは皆多忙であっても専門性を持った職務に誇りを持って業務にあたっており,その姿勢から学ぶべきものは沢山あった様に思います。
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ハワイ大OIEのスタッフと |
研修を通じて
同大学においては,外国人研究者と留学生に対しオリエンテーションを頻繁に行うなど,生活環境に早く適応させるためのケアが実に丁寧に行われていたように思います。特に,留学生向けオリエンテーション実施の際は,留学生受け入れ担当部署と留学生サービス担当部署がうまく連携を取り合い活動していました。今回私の滞在中にはスペインのマドリッドにおいて列車爆破テロ事件が起きましたが,その際にも関係各部署への素早いアナウンスや,スペイン方面からの学生・研究者一人一人に対してのメール連絡など,細かい対応がなされていました。こういった配慮が研究者,学生からの信頼を生み,交流を活発にしていくために軽視できない部分ではないかと思います。
また,日本の国立大学等では2〜3年毎に配置換が行われるのが一般的であり,職種(系)をまたいだ異動も珍しいことではありませんが,そのことをOIEのスタッフに話したところ非常に驚かれました。アメリカではそういった異動は通常は行われることはなく,例えば会計なら会計,国際交流なら国際交流といった具合に各スタッフが大抵一つの職種に特化して仕事をしているとのことで,各スタッフがスペシャリストとしての高い意識を持っているように思われました。スタッフの交代の際には,前任と後任がある程度の期間同時に業務に就き,時間をかけて引き継ぎ等を行う場合もあるとのことです。また,日本においては特に高い給与を用意して研究者を招聘することがありますが,アメリカにおいては雇用に関する法律で国籍等による差別を禁止しているため,外国人であっても待遇に差を設けることはありません。このことが,外国人であるという意識を持たずに研究者を受け入れる土壌を既に作り上げているという印象を受けました。今後,段階的にでも日本人研究員と外国人研究員との境目をいかにしてなくしていくかが課題になっていくのではないかと思われます。また,同大学に外国から来る研究者の目的は,大学と私企業との連携が多いとのことでした。本学も今後は産学連携を従前以上に活性化させていくものと思われますが,それが外国人研究者の受け入れの促進にも繋がっていくことを期待しています。
最後になりましたが,北海道大学,文部科学省及びハワイ大学マノア校の多くの関係者の方々に心より御礼申し上げます。 |