訃報
名誉教授 野田 壽雄(のだひさお) 氏(享年91歳)
名誉教授 野田 壽雄(のだひさお) 氏(享年91歳)

 名誉教授 野田壽雄 氏は,平成16年4月8日午後3時23分鎌倉市大船病院にて肺炎のため満91歳で御逝去されました。ここに,先生の生前の御功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
 同氏は大正2年(1913年)2月23日大阪府に生まれ,昭和10年3月東京帝国大学文学部国文学科を卒業し,その後,関東学院中学部教諭等を経て,昭和24年6月北海道大学助教授(法文学部)に就任されました。昭和34年4月,北海道大学文学部教授に任ぜられ,昭和51年4月1日に停年退官されるまで,27年間にわたって教育・研究に当たられました。またこの間,昭和36年6月から38年5月まで北海道大学評議員を務められ,昭和42年12月から昭和44年12月までは北海道大学文学部長・大学院文学研究科長に当たられました。また,昭和42年12月から45年1月まで北海道大学文学部附属北方文化研究施設長事務取扱の要職にも就かれました。折柄の大学紛争の難局に際しては全力を挙げて努力し,事態を切り抜けて学部及び大学院の教育研究の整備充実に献身したことはまさに特筆すべきことでした。昭和51年4月1日に停年により退官され,同月に北海道大学名誉教授の称号を授与されました。
 北海道大学退官後は,昭和51年4月より昭和56年3月まで青山学院大学教授に就任され,引き続き教育・研究に御尽力されました。
 同氏は長年にわたって近世文学研究に従事され,また,学部学生及び大学院生の教育に貢献されました。現在,その指導のもとに北海道及び各地の大学や短期大学,また,高等学校等に活躍する人材を多数輩出しております。
 同氏は,近世文学の中でも,主に「仮名草子」及び井原西鶴とその周辺を対象として研究に取り組まれました。「仮名草子」の分野では,当時まだ多くが未整備の状態にあった文献的研究を展開させ,また,仮名草子の本格的な初の注釈書として高く評価される日本古典全書の『仮名草子集』上・下(昭和35・37年,朝日新聞社)を出版しました。「仮名草子」や「西鶴」以外では,「談義本」の研究もあります。因みに,ジャンルとしての「談義本」の命名者は同氏本人です。また主要著書には,『近世小説史論考』(昭和36年,塙書房刊),『近世初期小説論』(昭和53年,笠間書院刊)等があります。
 また,同氏は,北海道大学在職中に,北海道に現存する江戸時代以前の国文学関係等の文献資料調査を総合的に実施し,『北海道国文学文献目録』(昭和44年)としてまとめました。その文献資料の保存,利用への途を開こうとする活動は,地域文化の向上に大きく資するものでありました。更に同氏は,教科用図書検定調査審議会調査員にも任命され(昭和49年4月から昭和50年3月),教科書検定にも貢献しました。実に幅広い分野に渡り活躍され,それぞれの分野でその後に与えた影響は大なるものがありました。
 また,同氏は晩年に至っても精力的に研究を進められ,昭和61年『日本近世小説史 仮名草子篇』を始め,平成2年には『同 井原西鶴篇』,平成7年『同 談義本篇』,平成12年『同 浮世草子篇(上)』等,大部な著書を陸続と発表し続けました。
 なお,同氏は,全国大学国語国文学会,日本近世文学会,日本歌謡学会の理事等を長期にわたってつとめ,それぞれの学会の重鎮として,学会の活動,発展に大きく寄与しました。
 このように長年にわたる研究・教育面のみならず,北海道大学の管理運営,また,わが国における国文学研究に残した足跡は,まさに斯界の権威の一人として,多大の貢献をなしたものであり,その功績はまことに顕著でありました。
 ここに同氏の御冥福を心よりお祈り申し上げます。

(文学研究科・文学部)


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