寺岡 隆先生は昭和4年7月20日に東京府で生まれ,昭和28年3月に東京大学文学部心理学科を卒業後,同大学院心理学専攻(旧制)に進学,昭和31年7月に北海道大学文学部助手に採用されました。昭和39年3月北海道大学文学部講師,昭和41年8月北海道大学文学部助教授を経て,昭和52年4月北海道大学文学部行動科学科比較行動学講座教授に就任し,平成5年3月退官,同年4月に北海道大学名誉教授となられました。同年4月駒澤大学文学部教授に就任し,平成12年3月定年退職されました。その後,平成14年末から病床に伏されたものの,一時は学会参加ができるほどの回復の御様子でしたが,平成16年4月18日世田谷(せたがや)の御自宅にて逝去されました。
寺岡先生の研究分野は,思考心理学を中心として,実証的研究から理論的考察までの非常に幅広い範囲に及んでおり,それぞれが独創的な観点からの研究でした。昭和40年代までは,主として思考心理学の研究を続け,概念達成場面を独自のアイディアで統合的に解析した論文「行動論的選択方略分析の基礎的研究」によって昭和50年3月に東京大学から文学博士号を授与されました。これは高次学習機能として重要な概念の獲得や達成のプロセスを,明確に定義された刺激集合を用いて,学習時に採択する方略を分析する手法でした。この方法開発によって,学習場面の状況の効果,そのような状況における反応の効率分析などが可能となる新しいパラダイムを提供し,その研究領域を確立なさいました。
その後,行動論的選択方略分析を発展させた事態構造分析という研究領域を開発し,ゲーム行動研究を中心に,心理学の様々な分野で実験課題場面を構造化する手法を提供し,その集大成は著書「事態構造論序説−心理学におけるひとつの視座」(平成元年出版)にまとめられ,学会から高い評価を得ています。この著書は様々な心理学的状況を統一的視点から眺めており,それぞれの事態(心理学的状況)に対する深い洞察に基づいた状況構造の把握によって,多くの実験パラダイムを創作していくプロセスを詳述したものです。
また,ゲーム法を用いた,質問紙に寄らない画期的な社会動機検査「IF-THEN法」を開発し,世界各国のデータ比較の業績により,国際的に高く評価されています。昭和59年にフルブライト上級研究員としてカリフォルニア大学サンタバーバラ校に滞在しつつ,社会動機の日米比較を始め,その後,韓国,中国,台湾などのアジア圏並びにロシア,オランダをも含めた国際比較等,多くの実績を重ね,その結果が著書「対人社会動機検出法−「IF-THEN法」の原理と応用」(平成12年出版)にまとめられています。
北海道大学在職中は,文学部行動科学科の創設(昭和52年4月設置認可)に尽力された後,北海道大学入学者選抜委員会委員として試験実施総務部会責任者の職務を完遂し,その後,大学院委員会委員に選出されるなど,学部・大学院教育はもとより,北海道大学の運営にも多大の貢献を果たされました。
駒澤大学在職中は大学院心理学専攻主任,大学院自己点検・評価運営委員会委員長を務め,また「駒澤大学心理学論集」の創刊に寄与するなど,駒澤大学の大学院心理学専攻並びに学部心理学科に多大な貢献をなさいました。
学会活動としては,日本心理学会理事,日本基礎心理学会理事,日本シミュレーション&ゲーミング学会理事など,日本の心理学関係諸学会の設立・発展に尽力する一方で,北海道における心理学研究の中心的存在として,北海道心理学会(常任理事,会長,評議員を歴任)の充実に多大な功績をあげられました。
寺岡先生は常に独創的な研究を推し進めてきた国内屈指の心理学者であったと同時に,多年にわたる北海道大学における教育と研究,文学部・大学院文学研究科並びに北海道大学の運営に対する尽力のみならず,駒澤大学という私学教育においても重要な寄与を果たされました。加えて,日本心理学会のリーダーとして,心理学の研究水準を引き上げるとともに,多くの後進を指導・育成なさってきました。
謹んで御冥福をお祈りいたします。
(文学研究科・文学部)
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