総長再任あいさつ

中村 睦男
中 村 睦 男

1 はじめに

 このたび,総長選考会議の議により総長に再任され,平成19年4月30日まであと2年間北海道大学総長を務めることになりました。法人移行から2年目を迎えて,北海道大学が,教育,研究および社会連携のあらゆる面でいっそう力を発揮できるような基盤を作り上げていくことが喫緊の課題であります。
 21世紀の世界を,あらゆる人々にとって快適なものとするために,すべての国,すべての人々が限られた資源を有効に活用し,地球環境を保全し,紛争や災害を防止し,文化を発展させるように,もてる叡智と技術を結集しなければなりません。高等教育を担う大学の使命は,このような目的のために,教育と研究を通じて知的資産を創造し,次代を担う優秀な人材を育てることにあります。国立大学法人をとりまく環境は厳しいものがありますが,その中で大学の自主性・自律性を拡大する可能性を最大限に追求し,大学の使命をよりよく達成しうるよう,改革の道筋をつけなければなりません。

2 法人化を契機に構想力と実現力を
 私の総長としての第1期における最大の課題は,国立大学の法人化でありました。管理運営組織の改変,中期目標・中期計画素案の作成,非公務員化に伴う就業規則の作成,財務会計制度の変更など,何れも短い期間において,国が定める法人化の枠組みのなかで北大の特性を最大限に活かすために困難な作業を要しました。幸い,多くの教職員の皆さまのご尽力により,ようやくソフト・ランディングには成功しましたが,これからも,北大の特色を発揮するための創意工夫が必要とされます。
 国立大学法人がスタートして1年を経過し,新しい制度の下での大学運営の全体像がようやく明らかになりつつあります。これからの数年間における構想力と実現力が,新しい北大の将来を決めるものであります。北海道大学が,国民から負託された「知の創造」,「知の伝達」および「知の活用」という三つの任務を,それぞれ,「世界水準の研究」,「真に学生のための教育」および「広く社会への貢献」という視点で遂行する大学であることを,法人化を契機に,いっそう明確に社会に示していかなければなりません。

3 研究・教育・社会連携の組織改革を
 このところ,研究はもとより,教育や国際交流の分野においても競争的資金の公募が行われる機会が多くなっています。
 北海道大学は,21世紀COEプログラムやスーパーCOEといわれる科学技術振興調整費など着実に獲得することができました。また,本年は「人獣共通感染症リサーチセンター」の設置が認められ,北大がこの分野の全国的研究拠点を担うことになりました。
 これらの実績は,本学が「知の創造」という任務を世界水準で達成する能力を持っていることを実証していますが,大学全体の研究水準のレベルアップについては,いっそうの創意工夫と努力が必要と考えられます。また,大学でなければなしえない基礎的研究を発展させていくという重要な責務があることも忘れてはいけません。
 教育の改革についても,「国公私立大学を通じた大学教育改革の支援」プログラムのうち,「特色ある大学支援プログラム」(特色GP)では一昨年と昨年2年続けて本学の申請が採択され,昨年から始まった「現代的教育ニーズ取組支援プログラム」(現代GP)では昨年度2件採択されました。特色GPで2年連続採択されたのは全国で12校,現代GPで2件採択されたのは5校にすぎません。 
 このような競争的支援プログラムに北大が順調に対応できたのは,申請に携わった皆さまの功績であることは当然ですが,全学的な視点から取り組むシステム作りが奏功したものと考えています。
 国際交流の面では,本年度は,「大学国際戦略本部強化事業」の公募がありましたが,北大の特色を活かした「持続可能な開発」を課題とする構想が採択されました。総長を本部長とする国際戦略本部の設置によって,研究者交流,学生交流,国際協力を含めた国際交流活動がいっそう推進できるものと考えます。
 教育研究の組織面では,学術の進展ならびに人材の供給と需要との不適合に対応するための改革が進行しています。すでに工学系では,情報科学研究科が昨年新設され,環境・水産科学系では,大学院の学生所属組織と教員所属組織を分離して柔軟な展開を可能にする「学院・研究院」制度を今年度より導入しました。生命科学系,理学系,農学系などの学院・研究院がこれに続く予定です。また,「理論と実務の架け橋」を重視し,高度の専門的職業人を養成する専門職大学院については,昨年の法科大学院に続いて,今年度からは,全国で始めての文理融合型の公共政策大学院,および会計専門職大学院が実現いたしました。
 大学内の教育課程だけでなく,大学の入学者を確保し,卒業後の進路を適切に選択できるよう指導する,いわゆる入口と出口の問題も重要です。北大の将来は,社会的に有用な活動をなしうる優秀な人材をどれだけ養成できるかにかかっているという考え方に基づき,昨年は学生の「出口」の指導に当たる「キャリアセンター」を設けましたが,今年は「アドミッションセンター」を設置して,入試関係業務を包括的・一元的に遂行し,本学の求める学生を積極的に迎える体制を整えます。学生の提案に大学として耳を傾け,学生の自主性と積極性を引き出すことを目指して始めた「北大元気プロジェクト」は,年を追うごとに北大と周辺コミュニティを活性化するユニークなプランが増えています。これからも,学生の創造的な活動を多角的に支援していくことが重要です。なお,本年度の「重点配分経費」のうち「総長重点配分経費」のなかで重点的に取り組みますのは,授業料値上げの還元方策という視点を含めて,学生の「キャンパスライフの充実に関する事業」にしております。
 産学連携・地域連携に関しては,「北大リサーチ&ビジネスパーク構想」を軸に,札幌北キャンパスで強力に展開されております。また,函館キャンパスでは「マリンフロンティア構想」が推進されています。今後はさらに,昨年締結された北海道大学,北海道,札幌市,北海道経済連合会,北海道経済産業局の5者間での地域連携協定を基盤として,北大発の「知の活用」による社会貢献を展開していきます。

4 管理運営の制度改革を
 本年5月から管理運営組織の改革として,広報室と副理事を設置します。広報体制については,従来広報担当の理事を置き,事務組織としては,本年4月に総務課広報室を総務部広報課に改組するなど,広報機能の充実を図ってきました。しかし,広報は大学からの情報発信だけではなく,マスコミ対応はじめ広く社会との情報交換や大学のロゴの活用など新しい広報のあり方とその強化を図るために新たに広報室を設置するものです。
 副理事については,役員補佐とは別に,さしあたり,役員会と情報の共有が特に必要とされる大学病院長と函館キャンパスにある水産科学研究院長に依頼し,さらに,地域連携担当理事を補佐する地域連携副理事,人事給与面を担当する理事を補佐し,新たな人事制度の構築を担う副理事の登用を考えております。
 今後さらに,次のような新しい制度形成が必要になると考えています。
 第1に,新しい教育研究組織を作り,着実に成果を上げるためには,教員ポストと資金の純増が望まれるのですが,純増が難しい現状では,新しい組織の設置,資源配分,および財源手当に関して,大学自身が自らで対処するためのルールを形成する必要があります。
 第2に,効率化係数による運営費交付金の削減に対処しなければなりません。平成17年度以降の5年間,年々,約3.5億円の交付金が削減されるからです。平成16・17年度は,教員の定数削減に関しては,法人化以前に決定した第10次定員削減等によってほぼ対応できる見通しですが,平成18年度以降は削減に対応する財源確保の仕組みが必要になります。
 第3に,学問の要請に根ざした改革構想の実現や経費の効率化について,適切な判断を下せるのは部局自身でありますから,経費の運用について部局の自由度を拡大する必要があります。その際,一定の範囲内で人件費と物件費をトータルに運用できる仕組みの導入が考えられます。
 第4に,新組織等への人員配置のために,全学的に運用できる教員枠が必要になります。現在は,全教員ポストの4%を「全学運用定員」として活用していますが,この枠を拡大することが必要です。同時に,外部資金による教員ポストの形成を促進しなければなりません。すでに,競争的資金による「特任教授」等の採用を制度化し,客員教員の称号付与の用件を緩和しましたが,今後は,それらを拡大するとともに,寄附講座の拡充に積極的に取り組む必要があります。
 第5に,財務改革が不可欠です。法人化後の財務は,きわめて脆弱な基盤の上に立っています。業務費が年々削減され,予定外の支出には十分に耐えられない構造になっています。そのため,財務の効率化を図るとともに,競争的資金,受託研究,付託業務としての収益事業の展開,寄付金獲得等を系統的に実施するための体制作りに努めなければいけません。北大のシンボルマークを付けたクッキーの発売や連合同窓会との提携による北大カードの発行を始めております。
 第6に,大学として職員の能力開発に努めるとともに,人事制度の改革に取り組む必要があります。優秀な職員の存在は,北大の総合的な力を大きく高めることに貢献することは間違いありません。改革すべき点としては,1.業務の創造力・革新力と総合的視野を持つ職員,および特定領域に関して高度の専門性を持つ職員を育成するシステムの構築,2.透明性の高い評価システムの導入,などが重要であると考えています。
 第7に,業務のアウトソーシング等によって職員数を中期目標期間中に見直すとともに,処遇改善を実施する必要があります。平成17年度からは旅費計算業務のアウトソーシング推進を決定しました。職員数の非常に多い団塊世代が退職年齢にさしかかるこの時点は,業務簡素化や非正規職員への転換を進め,それとセットした形で,第一線で活躍する若い世代の事務系職員の処遇を改善する絶好の機会であると考えます。

5 おわりに
 以上,法人化の基盤に立って教育,研究および社会連携をいっそう発展させるため,当面なすべきことを述べてきました。財政赤字や18歳人口の減少をはじめ,社会構造の変動はきわめて深刻な状況にあり,私たちは,それらがもたらす課題に正面から向き合う必要があります。大学の旧態へのこだわりや内向きの姿勢は許されず,従来の慣行にとらわれることなく,当面する課題に挑戦することが求められています。北大の建学の精神であるフロンティア精神を持って,真の大志ある改革を実現すべく教職員皆さまのご協力をお願いいたします。


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