名誉教授 山科俊郎氏は,平成17年7月30日午前3時3分,胃癌により御逝去されました。ここに先生の生前の御功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
先生は,昭和9年7月28日札幌市で生まれ,昭和32年3月北海道大学工学部応用化学科を卒業,昭和34年3月同大学院工学研究科応用化学専攻修士課程を修了後,同年4月北海道大学工学部助手に採用され,同年7月より科学技術庁金属材料技術研究所に転出されました。昭和38年4月北海道大学工学部助教授として着任し,昭和47年4月教授に昇任,原子工学科高真空工学講座を担当されました。平成8年5月から物理工学系専攻群の重点化により,量子エネルギー工学専攻プラズマ理工学講座・核融合プラズマ工学分野を担当,平成10年4月停年退官とともに北海道大学名誉教授の称号が授与されました。
先生は,金属材料技術研究所在職中の昭和35年から37年にかけて米国ブラウン大学物理学部に留学され,真空工学,表面科学における当時の最前線の研究に従事されました。以来30年以上にわたり我が国の真空工学及び表面科学の草分けとして活躍されました。当初,固体表面の構造と物性,化学反応性を触媒作用の観点から研究を行い,超高真空環境下の固体表面の清浄化や偏析現象の解明に取り組まれました。特に,オージェ電子分光装置を用いた合金の表面偏析反応に関して先端的・独創的な研究を行い,昭和41年9月には「ニッケル銅合金表面の化学反応性に関する研究」により,本学より工学博士の学位を授与されました。また,真空装置材料からのガス放出や微小表面積の測定方法を確立し,真空装置材料や真空計測法の開発で産業界の発展に優れた貢献をされました。さらに,核融合装置のプラズマ対向壁材料表面の清浄化,高機能化に関する研究を推し進められました。昭和55年度に開始された文部省科学研究費補助金「核融合特別研究」の取り纏(まと)めを10年間にわたり務めました。また,国内外の核融合研究機関と数多くの共同研究を進め,その成果は自然科学研究機構核融合科学研究所の大型ヘリカル核融合装置にも活(い)かされています。
以上の業績に対し,固体触媒の研究により昭和44年に日本化学会進歩賞,昭和52年に金属表面の化学反応性に関する研究で日本金属学会功績賞,昭和55年に金属表面の真空物理に関する研究で日本真空協会論文賞,平成4年には核融合炉壁材料に関する研究で日本原子力学会論文賞を受賞されました。
昭和34年以降の北海道大学在職中,学部における真空工学,材料科学T,大学院工学研究科での真空物理工学特論等,多くの講義,実験,演習を担当,学生院生の研究指導を通して多くの技術者・研究者の育成に尽力されました。また,学内では理学部,学外では,通産省工業技術院電子総合研究所の客員研究員,東北大学,室蘭工業大学,名古屋大学,旭川医科大学の非常勤講師,京都大学及び文部省核融合科学研究所の教授(併任)も務められました。また,退官後の平成9年4月より15年3月まで札幌国際大学教授,平成15年4月から本年3月まで中部大学客員教授を務められました。
学内においては,全学の住宅委員会委員長,光電子分光分析研究室委員会委員,工学部附属直接発電施設運営委員,触媒化学研究センターの協議委員会委員及び運営委員会委員,北海道大学国際交流委員会サマーセッションプログラム専門委員会委員などの管理運営に参画されました。また,学生の課外活動の育成にも深く関わり,北大硬式庭球部(17年間),並びに邦楽研究会(8年間)の顧問教官として貢献されました。
学外においては,文部省学術審議会専門委員,同核融合科学研究所運営協議会委員,日本学術会議核融合研究連絡委員会委員,プラズマ・核融合学会理事及び同副会長,日本原子力学会理事及び同北海道支部長,応用物理学会理事及び同北海道支部長,日本真空協会理事などを務められました。さらに,北海道開発審議会特別委員,同国際熱核融合実験炉安全問題協議会委員,同核融合誘致推進会議副会長,北海道テクノポリス検討協議会委員として,北海道の科学技術の発展に尽くされました。一方,北海道車粉じん健康影響調査検討委員会委員及び車粉をなくす北海道協議会会長を務められ,スパイクタイヤによる車粉じんの発生源と成分を学術的に明らかにするとともに,その環境への影響を社会に提示,脱スパイクタイヤ運動へと発展させてスタッドレスタイヤの普及に多大な貢献を果たしました。この功績に対して,昭和59年には北海道新聞学術研究奨励金を,平成16年には北海道科学技術賞を授与されました。また,平成9年に完成した札幌コンサートホールの建設に際しては,市民運動の中核として尽力するとともに同ホール設計競技審査員などを務められました。
山科先生のこのような御功績に対し,この度,正四位瑞宝中綬章が授与されました。ここに謹んで先生の御冥福を心よりお祈り申し上げます。
(工学研究科・工学部)
|