訃報
名誉教授 木村 喬久(きむらたかひさ) 氏 (享年79歳)
名誉教授 木村 喬久(きむらたかひさ) 氏 (享年79歳)

 名誉教授 水産学博士 木村喬久氏は,病気加療中のところ平成18年1月8日(日)ご逝去されました。ここに先生の生前のご功績を偲び,謹んで哀悼の意を表します。
 先生は,昭和3年3月26日北海道に生まれ,昭和23年3月函館水産専門学校附設水産教員養成所水産製造科を卒業,昭和23年4月函館水産専門学校に採用されました。昭和26年3月北海道大学水産学部助手に任じられ,同41年2月講師,同44年12月助教授,同52年4月教授に昇任し,水産食品学科微生物学講座を担当されました。平成3年3月31日定年により退職され,同年4月北海道大学名誉教授の称号を授与されました。この間,本学部学生および大学院生の教育および研究指導に当たられ,多くの研究者の育成に尽力されました。学内外の国内研究者の指導・育成に力を入れられた一方で,中国,フィリピン,タイ,マレーシア,バングラデシュ等の多くの留学生・研究生を引き受け,研究及び技術指導にも尽力されました。
 研究面では,食品微生物学,食品衛生学,海洋微生物学,魚類病原微生物学と幅広い分野の研究に従事され,わが国における魚類病原微生物学の基礎の確立と発展に大きく貢献されました。その主な功績は,昭和44年にサケ科魚類の病原細菌Aeromonas salmonicidaの亜種masoucidaの発見・命名に始まり,昭和46年サケ科魚類に甚大な被害をもたらす病原ウイルスIHNV(伝染性造血器壊死(えし)症ウイルス)及び昭和52年に同じくサケ科魚類の慢性的疾病として恐れられている細菌性腎臓病の原因菌をわが国において最初に検出・分離されました。続いて,昭和53年には,サケ科魚類の病原ヘルペスウイルスOMV(Oncorhynchus masou virus)を発見・命名するとともに,本ウイルスが魚類では世界初の腫瘍ウイルスであることを明らかにされました。さらに,昭和59年に養殖ヒラメに猛威を振るうウイルス病の原因を究明し,分離ウイルスをHRV(Hirame rhabdovirus)と命名し,その防除対策も確立されました。その他にサケ科魚類の正常腸内細菌叢の変遷解明,魚類感染症の迅速診断法の開発,主要魚類病原ウイルスの疫学調査,ビブリオ病原因菌の分類並びに血清型別,ウイルス病防除対策技術の開発等,多くの輝かしい業績を挙げてこられました。これらの成果は国内外の関係学会で高く評価され,昭和62年3月には日本魚病学会賞を受賞しておられます。
 さらに,先生は20数回にわたり国際会議・国際学会に招へい参加されると共に,アメリカ・ドイツ等との共同研究を数次にわたり実施するなど,国際交流を積極的に推進されました。学会活動では日本魚病学会創立に参画し,以来評議員として同学会の発展に尽力され,平成元年4月から平成5年まで同学会の会長を努められました。昭和59年からは日本水産学会評議員,平成元年から同学会理事を務め,学会運営に寄与されました。
 学内にあっては,水産学部予算委員長を務め,平成元年4月からは水産学部長として大学運営の枢機に参画するとともに,学部の発展に尽力されました。
 学外においては,昭和62年以来,厚生省中央薬事審議会委員を務めたほか,北海道科学技術審議会委員,テクノポリス函館技術振興協会理事,渡島保健所運営協議会委員,その他多数の要職を努め,中央のみならず地域の発展にも貢献されました。
 このように先生は40年以上にわたり教育・研究に携わり,魚類病原微生物学の分野において数多くの世界的な業績を残されると同時に多くの人材を育成し,わが国のみならず世界の学術の進歩と産業の発展に貢献されました。
 ここに謹んで先生のご冥福を心よりお祈り申し上げます。

(水産科学院・水産科学研究院・水産学部)


前のページへ 目次へ 次のページへ