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北海道大学−ハワイ大学ジョイント・シンポジウム「多様性を拓く」開催される

 北海道大学−ハワイ大学ジョイント・シンポジウムが2月7日(火),8日(水)の2日間に渡り,北海道大学を会場として開催されました。
 両大学は,2003年に大学間交流協定を締結し,研究者交流をはじめ学生交流,事務職員派遣など,様々な形での活発な交流が行われています。
 このたびのシンポジウムは,ハワイ大学からJanette Samaan 国際教育部長,元ハワイ大学国際交流担当副学長のJoyce Tsunoda 博士をはじめとする12名を含め,内外から300名の参加者を得て行われました。「多様性を拓(ひら)く」というテーマの下,新たな多様性をつくり出し,尊重し,発信して行くことを目指して,地域と教育,ITの活用,少数民族をめぐる教育,日本語教育,観光,及び家庭のグローバル化の分野で,活発な議論が行われました。
 また,開会式の中では,Tsunoda 博士へ,両大学間の交流の発展に多大なる貢献があったことに感謝して,中村睦男総長から感謝状が贈呈されました。
 このシンポジウムにより,これまで以上に両校の交流の幅が広がり,協力関係がますます発展することが期待されます。
 
中村総長から感謝状を贈呈されるTsunoda博士 シンポジウム参加者
中村総長から感謝状を贈呈されるTsunoda博士
シンポジウム参加者

【全体会】

2月7日(火)
全体会1
「研究大学と地域の多様性−現在から未来へ−」

 ・北海道大学留学生センター助教授Peter Firkola
  「北海道大学と地域の多様性についての一考察」
 ・ハワイ大学国際教育部長 Janette Samaan
  「大学は多文化環境にどう対応するのか−ハワイ大学の事例から−」
全体会2
「地域に広がる大学の教育活動−現状と課題−」

 ・北海道大学高等教育機能開発総合センター教授 町井 輝久
  「北海道大学における民法テレビ局とのコラボレーションによるアウトリーチプログラム」
 ・ハワイ大学マノア校アウトリーチカレッジ暫定学部長 Peter Tanaka
  「アウトリーチ大学におけるアウトリーチ活動−ハワイ大学マノア校の事例−」
 ・北海道大学北方生物圏フィールド科学センター教授 上田 宏
  「北方地域人間環境科学教育プログラム−総合的環境科学教育による地域活性化−」
(学術国際部国際企画課)

【分科会報告】
2月7日(火)

分科会1
「ITを大学の教育にどのように利用するか」
 コーディネーター:高等教育機能開発総合センター
教授 小笠原 正明

 ハワイ大学システムの情報技術サービス室長のHae Okimoto氏は,人と人とのコミュニケーションのレベルは情報技術によって新しい段階に達し,大学教育もその影響をまぬがれない,特に,場所と時間の制約なしに教育を受けられることから,教員と学生の関係は大きく変わりつつあると述べました。
 北大の側からは,理学研究科の鈴木久男氏が基礎物理学の授業のために開発したアクティブラーニングシステムについて,高等教育機能開発総合センターの細川敏幸氏はオリジナルに開発した授業支援システムHuWebを利用する学生が3年間で3,000人に達している現状を述べました。
 科学技術コミュニケーター養成ユニットの隈本邦彦氏は,現代の科学技術を市民のものにするための様々な取り組みの中で,特にラジオ放送を通じて地域の子どもたちに語りかける番組を中心に紹介しました。
 全体として大学教育のIT化が不可逆的に速い速度で変化しつつある現状が報告され,機関としての戦略的な取り組みの必要性が強調されました。


分科会2
「マイノリティ研究と教育実践」
 コーディネーター:大学院教育学研究科
助手 北村 嘉恵

 本分科会では,第一部「マイノリティと大学教育」,第二部「日本のエスニック・マイノリティをめぐる教育実践と課題」という二部構成で4名が報告を行い,指定討論者のコメントに続いて全体討論を行いました。学内外の参加者約40名を得て,活発な議論となりました。
 Anna Ah Sam氏(ハワイ大学生センターSEED)は,マイノリティの学生が高等教育にアクセスし学習・研究を継続するうえでの諸課題を指摘し,それらを克服していくためにハワイ大学が取り組んでいる多様な支援活動を紹介しました。奥田統己氏(札幌学院大学人文学部)は,「アイヌ文化」に対する学生たちの固定観念を解きほぐし,「普遍的な他者」への想像力を喚起するための教育実践を報告し,マジョリティとしての歴史的・社会的責任の自覚とともに,わかりやすい答えを求めず「異文化にタフになる」ことの必要を提起しました。石黒広昭氏(教育学研究科)は,第二言語として日本語を学ぶ子どもたちの学習環境を,本人と保育者・教育者,日本語を第一言語とする子どもたちの間の政治的な関係として捉(とら)える視点を示し,学習言語の習得とともに,学力,仲間,居場所を獲得することが鍵(かぎ)になると指摘しました。小内透氏(教育学研究科)は,日系ブラジル人の定住化に伴う子どもの教育問題について報告し,単文化を前提にした公立学校の受け入れ体制や親の就業形態をベースにした教育戦略の再考が求められていると指摘しました。
 以上の報告を受けて,指定討論者の太田晴雄氏(帝塚山大学人文科学部)が教育の「正義」という観点などを提起されたほか,フロアからも様々な角度からの質問・意見が出ました。複雑かつ多岐にわたる現実的諸課題に通底する問題の所在をさぐる議論は,刺激と示唆に富んでおり,今後のマイノリティに関わる教育・研究を進めていくうえで有益な場となりました。

発表風景
発表風景
分科会3
「日本語教育の新展開−実践に根ざした研究を目指して−」
 コーディネーター:留学生センター
助教授 柳町 智治

 ハワイ大学とのジョイント・シンポジウムの一環として,日本語教育に関する分科会が留学生センターの企画運営により開催されました。本分科会の前半では,日本語学の研究成果と日本語教育の接点を探るという視点から,留学生センターのAnthony Backhouse教授が「語彙教育の単位としてのコロケーション」,ハワイ大学のJohn Haig準教授が「英語母語話者による日本語名詞修飾節習得の問題点」というタイトルでそれぞれ発表を行いました。後半は,学習者や教育現場に焦点化した研究発表が行われ,ハワイ大学の菅野和江準教授が「日本語上級学習者の言語知識・言語能力プロファイル」,留学生センターの小林ミナ助教授が「現場と研究を結ぶインターフェイスとしての「教育文法」というタイトルで発表しました。
 平日の午後にもかかわらず,定員50名の会場は聴衆で一杯となり,各発表の後には活発な意見交換が行われました。ハワイ大学は世界でも指折りの応用言語学のプログラムを有する大学であり,同大と交流できるのは北大にとって大きなチャンスと言えます。この交流関係を今後も継続し,研究・教育の両面で成果をあげていければと思っています。

【サテライト・シンポジウム報告】
2月7日(火),8日(水)
サテライト・シンポジウム1
「家庭のグローバル化−東アジア先進諸国の比較検討−」
 コーディネーター:大学院法学研究科
助教授 遠藤  乾

 今回のハワイ大学とのジョイントシンポジウムが全体として極めて意義深いものとなったことは参加者皆様が喜びとともに強く感じていることと思います。もちろん私もその一人ですが,私が主に携わったサテライト・シンポジウム,「家庭のグローバル化―東アジア先進諸国の比較検討―」が大きな成功を収めたことで,さらにその思いを強くしています。
 本シンポジウムは,今や少子高齢化の「先進国」となりつつある東アジア地域において,ハウスホールディングが国際化してきている現実を,国際結婚,国際養子縁組,家政婦・ケアワーカーの国際移動といった多様な現象から読み解こうとする試みで,ハワイ大学のMichael Douglass教授(グローバリゼーション研究センター)の研究プロジェクトとの協力の下,日本とアメリカの他,韓国,台湾,シンガポールより総勢13名の研究者を迎えて開催されました。
 一例として,各国の状況や対応が紹介され比較検討される中で,各国は少子高齢化や労働人口の減少といった比較的共通する圧力にさらされているものの,それに対する対応は各国毎にかなりのばらつきのあるものである,ということが明らかになりました。ときに文化的共通性が強調される日本,韓国と台湾においてさえ,女性労働力の活用に関する政策に大きな開きが見られるのは,近年の福祉国家論の動向などと併せ,きわめて興味深いことといえます。今回検討された諸現象が重要な研究課題になることは間違いないでしょう。
 最後になりましたが,今回のジョイント・シンポジウム開催に尽力され,このような貴重な機会を実現して下さった諸氏に,心よりお礼申し上げます。ありがとうございました。

活発な意見交換
活発な意見交換
2月8日(水)
サテライト・シンポジウム2
「文化創造としての観光」
 コーディネーター:大学院国際広報メディア研究科
助手 渡部  淳

 「文化創造としての観光」をメイン・テーマに午前は2つのプログラムが組まれ,まず,石森秀三氏(国立民族学博物館教授)が「観光学の可能性」と題する基調講演を行い,21世紀の「観光ビッグ・バン」を見越して観光学の充実が必要であると熱く語りました。
 続いて開かれた「観光学の諸相」に関するシンポジウムの中で,ハワイ大学マノア校のMary McDonald氏はハワイにおける婚礼観光について地理学的観点からそれが風景や地域住民に及ぼしている影響を報告しました。
 国際広報メディア研究科の内田純一氏は観光地域のブランド化にはある種の物語化が不可欠であることを夕張市などを例にあげて具体的に指摘しました。
 渡部は将来の地域振興にとって鍵となる知識管理や情報ネットワークと観光の関連について報告しました。
 ハワイ大学マノア校のRussell Uyeno氏は同氏が勤務する同大「観光産業経営学部」の現在の取り組みや直面する問 題について報告し,企業・自治体関係者など約100名の聴衆が集まり,会場の小講堂をほぼ一杯にして盛会でした。
 午後には,経済産業省の助成を得て,「世界の観光学教育」と題するワークショップが行われ,50数名の参加者が報告に聞き入るとともに積極的に発言しました。ハワイ大学では全学の各学部で何らかの意味で観光に関わる授業が展開されていますが,観光学教育を集約し多岐にわたる授業を展開しているオタゴ大学観光学科(ニュージーランド)などの例に本学,ハワイ学大関係者ともに興味深く耳を傾けていました。
石森秀三氏による基調講演
石森秀三氏による基調講演

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