本分科会では,第一部「マイノリティと大学教育」,第二部「日本のエスニック・マイノリティをめぐる教育実践と課題」という二部構成で4名が報告を行い,指定討論者のコメントに続いて全体討論を行いました。学内外の参加者約40名を得て,活発な議論となりました。
Anna Ah Sam氏(ハワイ大学生センターSEED)は,マイノリティの学生が高等教育にアクセスし学習・研究を継続するうえでの諸課題を指摘し,それらを克服していくためにハワイ大学が取り組んでいる多様な支援活動を紹介しました。奥田統己氏(札幌学院大学人文学部)は,「アイヌ文化」に対する学生たちの固定観念を解きほぐし,「普遍的な他者」への想像力を喚起するための教育実践を報告し,マジョリティとしての歴史的・社会的責任の自覚とともに,わかりやすい答えを求めず「異文化にタフになる」ことの必要を提起しました。石黒広昭氏(教育学研究科)は,第二言語として日本語を学ぶ子どもたちの学習環境を,本人と保育者・教育者,日本語を第一言語とする子どもたちの間の政治的な関係として捉(とら)える視点を示し,学習言語の習得とともに,学力,仲間,居場所を獲得することが鍵(かぎ)になると指摘しました。小内透氏(教育学研究科)は,日系ブラジル人の定住化に伴う子どもの教育問題について報告し,単文化を前提にした公立学校の受け入れ体制や親の就業形態をベースにした教育戦略の再考が求められていると指摘しました。
以上の報告を受けて,指定討論者の太田晴雄氏(帝塚山大学人文科学部)が教育の「正義」という観点などを提起されたほか,フロアからも様々な角度からの質問・意見が出ました。複雑かつ多岐にわたる現実的諸課題に通底する問題の所在をさぐる議論は,刺激と示唆に富んでおり,今後のマイノリティに関わる教育・研究を進めていくうえで有益な場となりました。