寄稿

監事監査の2年間

監事 大 塚 榮 子

監事監査というもの
 監事監査という耳慣れない言葉を聞くようになったのは法人化したからに他ならない。会計監査は公認会計士と弁護士の資格を持つ伊東監事が勤めていて,こちらはなんとなく理解しやすいと思うが,監事の監査は独立したもので業務に組み込まれるものではないということ,予防監査という性格があるということなどは大学ではあまり知られていない。一方,私が仰せつかった業務監査は業務運営が適切に行われているかどうかを調査し,業務の改善に役立たせるのが目的である。大学の業務は,教育と研究が主であるが,個々の内容は直接の監査対象とはしないので,教育職・技術職・事務職の連携による教育と研究の取り組み状況が監査対象となる。究極的には教育研究の水準を高めるための環境整備に役立てるということである。

部局の責任
 法人化ということは北大が一つの組織になって,すべてのことを総長が決定し,すべての責任が総長にあるということらしい。しかし,最も重要な教員人事権は部局に委託されているので,北大が良くなるのも悪くなるのも部局の責任である。教育研究評議会での各部局の意見を聞いていると,教員の数には非常にこだわるが,「質」についての議論は余り出てこない。各部局の将来は人で決まるので,教授人事は部局自治の根幹である。総長の持つ人事権は理事と副学長だけであるのに,責任だけが大きいという組織は他では考えられないという見方がある。法人というものの本質から言うと,部局の教授会も教育研究評議会も審議機関であって決定するところではないので,活発に審議することは必要であるが,決定は責任のあるところで行うのが筋であろう。
 施設運用にしても全学的な構想で行われなければ大学としての成果をあげることは困難であるので,役員会での迅速な決定と全学の協力が必要である。

一体感と危機感
 北大を良くするためには構成員が一体感を持って同じベクトルを持つことが重要である。北大に所属していることによって,教育研究をすることができるということを認識する必要がある。科研費も寄附金も大学に所属していてはじめて受けることができる。したがって,大学の存亡には危機感をもたなければならない。国立大学法人の運営費交付金の元である国の赤字財政を考えると,大学が本来の使命を果たしていなければ国立大学法人は借金だらけの親の脛を齧っているドラ息子になる。しかし,借金しても教育ほど重要なものはないのであるから,大学は重要な任務を行っているということを堂々と主張できるように教育の効果を示さなければ,国立大学法人は先細って行く。運営費交付金の削減率が1%であるという現実だけでも深刻であるが,大学全体として維持管理を自主的に行う必要があるので,部局に来る交付金は減少する。しかし,大学は法人としての責任があると考えて,独自に危機管理を行う必要があり,将来に備えた計画的な運営費交付金の使い方をしなければならないと思う。

科学研究費補助金
 部局では運営費交付金は削減された上で教育・研究の成果を上げなければならないので,勢い研究費は競争的資金に頼らざるを得ない。しかし,競争的資金を獲得しようとすることは,情報発信につながるというメリットがあるので,悪いことではない。部局ごとの科研費の1人あたりの申請率と入学試験の競争倍率が相関していることを平成16年度のデータを見て気がついた。競争倍率が3を切ると平均点以下の学生も入ってくることになるので,問題である。科研費の申請の表題だけからでも研究内容の情報発信になるので,基盤研究と萌芽的研究だけでも申請することが望ましい。科研費の獲得数を分野ごとに検索し,トップ10の大学の順位を調べるというテーマが科研費の課題として採択され,結果が発表されている。大学の特色を表す一つの指標である。
 平成12年から校費はそれまでの積算校費制から基盤校費制になった。また,法人化後は,渡し切り経費としての運営費交付金となり,これまで以上に弾力的かつ効果的な予算執行が可能になったが,理由があっても追加してもらうことはできなくなった。このことを全学にもっと周知徹底させなければならない。したがって,部局に配分される予算には限りがあるので,部局の中で教育・研究の分野も優先順位を付けて考えなければ,競争に勝てないことになる。

学生支援と事務組織
 教育が重要であり,大学がその責をはたしていると主張するためには,学生に真剣に向き合うことが必要である。今,世界的には学部教育に力をいれている一流大学が多く,日本の高校生は狙われているということである。北大でも真剣に学部の教育やその環境整備に取り組まなくてはならない。事務組織が教員などへの教育・研究支援を行いながらも学生支援にもつながっているかと言うことが,今年度からの監査の主な課題と考えている。


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